ジム戦の翌日、私は次の目的地をどこにしようか考えながら、タウンマップを広げていた。
クロガネシティの北にある207番道路は、坂道がぬかるんでおり、私の足では登れそうになかった。
ということは、一旦コトブキシティに戻り、岩砕きを使って北上するのがよいだろう。
私はタウンマップを仕舞って、長いことお世話になったクロガネのポケモンセンターをあとにした。
クロガネゲートでは、早速コダックに岩砕きを使ってもらった。クロガネシティに行く時には大岩のせいで立ち入れなかった地下に足を踏み入れていたせいで、私が203番道路に出た時には既に日はとっぷりと暮れていた。
街中と違って周囲に明かりのない場所で夜を迎えるのは初めてだったが、思っていたよりも暗くない。
不思議に思った私は辺りをきょろきょろと見回してから天を振り仰ぎ、その理由を知った。
大きな月がぽっかりと浮かび、私たちを青く静かに照らしていた。人工の光で明るく照らされたナギサで見ていた夜空は暗くて、どこか恐ろしげですらあったのだが、自然の中で見上げた夜空は、数え切れない程の星々で賑わっている。
ゴースもコダックも、夜にはこんな景色を毎日見ていたのかな。
私は月明かりを頼りに辺りを見渡して、テントを張るのに向いていそうな場所を探す。踏み固められた小路から僅かに外れたところにあった手頃な茂みを少し均して、私は小さく頷いた。うん、きっとここで大丈夫。
鞄の中から、デンジと選んだ折り畳み式のテントを取り出し、手順を思い出しながら組み立ててゆく。なんとか一人で組み上げたテントの中に、これまたデンジと選んだ寝袋を放り込んだ。
それから、鞄の中から虫よけスプレーを取り出した。つい数日前、クロガネに向かうべくゲートに足を踏み入れる直前に、ここで戦ったミニスカートのチカさんから貰ったものだった。私はそれを縦に数回かちかちと振ってから、テントの周りに吹きつける。私たちが寝付く頃には効果が切れてしまっているかもしれないけれど、はじめての野宿にどきどきしている私にとって、この小さな安心はとてもありがたかった。
寝床の準備を終えた私は携帯食糧と保存用の水を飲んで飢えを凌ぐ。ゴースたちにも固形のポケモンフーズを与えて、冷え込みが厳しくなる前にボールに収めた。
シンオウの冬は、他の地方と比べると長く厳しいのだという。
ここよりもかなり暖かいというホウエン地方やアローラ地方。そこからやって来た旅人が真冬の野宿で低体温症になり病院に運ばれることも珍しくないのだと、このテントを買ったアウトドア用品店の店員さんが言っていたっけ。
私たちにとっては当たり前の寒さだけれど、それは一歩間違えば命を脅かすのだということを忘れないようにしないといけないんだな。私はお店でそんなことを考えたのを思い出しながら、寝袋のファスナーをしっかり上まで閉めて眠りについた。
野宿で神経が過敏になっていたのか、私は夜中に不思議な物音で目を覚ました。
なんだろう。野生のポケモンだろうか。それとも別のなにかだろうか。最悪の事態も想定しつつ、寝袋に入ったまま耳を澄ます。
覚醒してゆく私の耳に聞こえてきたのは、例えるならば星と星がぶつかり合って消えてゆくような、まろく儚い音だった。私は極力音をたてないようにそっと寝袋を抜け出して、畳んでおいたコートを羽織る。
枕元に置いていたベルト型のボールホルダーを掴んで、そっと外の様子を伺う。
ころころきらきらと、あの不思議な音は続いていた。
テントから僅かに顔を出してそこに広がる光景を目にした私は、その景色のあまりの美しさに言葉を失ってしまった。
満天の星空を背景に、オレンジ色の丸っこいポケモンが何匹も寄り集まって踊るように揺れ動きながら星空を見上げていた。
あれは確か、コロボーシ。ポケモンセンターにあったポケモンの友で見た写真と違わぬ可愛らしい顔で天を仰ぐ彼ら。私も釣られて視線をぐっと持ち上げて、私はそこに広がる無限の宇宙を確かに見た。
きら、と星が流れると、コロボーシたちが一斉にしゃらしゃらと鳴く。流星を生まれてはじめて見た私は、遥かな悠久の時を瞬き続ける星々の中でたった一瞬その身を焦がしてどの星よりも明るく輝くその様に、胸がいっぱいになるのを感じた。きれい、とか、美しい、とか、そんな陳腐な言葉は喉を揺らすことは出来ずに、ただ悩ましい溜息になって私の唇からこぼれ落ちた。
次々と流れては消えてゆく星たちに、コロボーシは歓声をあげるように鳴いていたのだが、ふと私は、もしかしたらコロボーシたちだけが燃え尽きて消えてしまった星たちを悼んでいるのかもしれないなと思った。
コロボーシたちのか細い祈りは、東の空が明るくなるまで一晩中続いた。
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