寝不足のまま朝一番にたどり着いたポケモンセンターでしばし休んでから、私はジョーイさんにお願いしてポケモンセンターの本を一冊借り、コトブキの街に出た。

最近は移動にジム戦にと自分の体もポケモンたちもかなり酷使してしまっていたので、今日は一日ゆっくりと休むことにする。

のんびりと通りを歩いていた私は、街の西の外れに緑豊かな小さな公園があるのを見付けて、そこに向かった。
公園の中央には小ぶりだがしっかりした造りの噴水もある。ここなら二匹とものびのび過ごせるだろうと、私は満足げに微笑んだ。

ふたつのボールを軽く放る。
白い光が迸り、ゴースとコダックが現れた。彼らに今日は一日のんびりしようと言うと、ゴースはにやりと嬉しそうに笑った。コダックは相変わらず何を考えているかわからない顔で暢気に一声鳴いて、噴水に向かってぺたぺたと歩いて行く。ヒョウタさんとのジム戦で見せた気迫が幻だったかのような飄々とした振る舞い。私は思わずこぼれる笑みを隠さずくすりと笑ってから、私の回りをふわふわと漂うゴースに目をやった。

「君はどうするの?」

私がそう尋ねると、ゴースは私の肩に甘えるように乗ってきた。どうやら、私の傍にいてくれるらしい。100グラムに満たないガスの体は重さを感じさせることはなかったが、私の髪がガスの圧力を受けてふわりとそよいだ。

「そう」

私は小さく微笑んで、彼を纏ったまま近くの木陰に進み、そこで腰を下ろして本を開いた。ゴースがぐいっと本を覗き込む。彼の纏うガスのせいで文字が霞んでしまったが、その背中は悪びれる様子がない。むしろ次第にガスを濃くして、文字を完全に隠してしまおうとしているようにも見える。
ゴーストタイプのポケモンらしく、無邪気にいたずらをしているのだということに気付いた私は、苦笑しながら「もう、見えないでしょ」と言って本の角度を変える。ゴースは独特の甲高い声でけたけたと笑ってから、今度は私の邪魔にならない位置にその体を落ち着けた。私はそのふてぶてしい輪郭をそっと一撫でして、ようやく本を読み始めた。




日が傾き始めた頃、私は小さく伸びをしてぱたんと本を閉じた。
草ポケモンについて詳しく書かれた学術書は、一応最後まで読んではみたものの、まだ私には理解出来ないことも多かった。
ポケモンセンターの本棚には様々な本がある。今の私に必要なのは、少しでも多く知識を得ることだと思う。私は旅をして、自分らしく生きるとはどういう事かを考えたい。旅をするためには、ポケモンが必要だ。当然、戦ってもらう必要もある。

今でこそ噴水でのんびり水に浮いているコダックも、傷だらけになりながら闘志を剥き出しにしてイワークに向かってくれた。
彼らが少しでも傷付かないようにする責任が、私にはあるのだ。ポケモンがどんどんレベルアップしていくのと同じだけ、私も彼らに見合うトレーナーにならなくてはならない。

ゴースはいつの間にか私の肩から足元に移動していた。
じゃれつくようにふわふわと飛んでいるゴース。彼をぼんやり見ていた私は、ふと、その視線に違和感を覚える。暫く注視してみると、違和感の原因はすぐにわかった。彼はひとりで遊んでいる、はずなのに、まるで視線の先には一緒に遊んでいるポケモンがいるかのような――。

「ゴース、」

こっちにおいで、というように両手を差し出して呼びかけると、ゴースはすぐに私の胸の中に飛び込んできた。
そのガスの体を漠然と撫でながら、ゴースが見ていた一点をつられるようにじっと見つめる。

そこに、なにかいるのか。

しかしどんなに目を凝らしても、私の目に映るのは夕日に染まった芝生だけだった。


[ 23/209]



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