あれから私を追いかけてきてくれたコウキくんから聞いたのだが、ギンガ団はポケモンの進化のエネルギーを、彼らの計画に利用しようとしているらしい。コウキくんは、ポケモンの進化は人間がどうこうできるようなものではないのに、と憤慨していた。

私はそのまま彼と別れ、荒れた抜け道を進んでいた。
コダックの岩砕きを使いながら、道を塞ぐ邪魔な岩をどかせて歩いてゆく。

ポケモンの進化をはじめて見たのは、私が10歳になる前のことだった。
その日も私は、学校から帰ってきてからコリンクと公園で遊んでいた。夕日の溢れる公園で私とコリンクはひとつの約束を交わし合い、それに応えるように彼はルクシオに進化したのだ。
全身から光を放ち、ゆっくりとその形を変えていく様に、私は言葉を失って見とれていた。まばゆい光はやがて落ち着き、その下から現れたルクシオはその凛々しい瞳で私を見て、優しく一声鳴いたのだ。

彼と交わした約束は今でもはっきりと覚えている。
ずっと一緒にいようねと、そう誓い合ったのだ。

それは、叶わなかったけれど……。

不意に、洞窟の中に慌ただしい音が響き渡った。
私は足元に落としていた視線をぱっと持ち上げて、音のした方に転じた。
が、それは僅かに遅かったようで、私は自分の体になにかたくさんの生き物が群がってきたのを皮膚で感じた。その羽ばたきと鳴き声から、それがズバットであることを、やや遅れて理解する。私は腕を振り回して彼らから逃れようとしたが、ズバットたちは私から離れず周りを飛び回る。
噛み付かれたらおしまいだ。私は懸命に体を捩って彼らに取り付く隙を与えないようにしながら、なんとか逃れようと試みる。しかし彼らは執拗なまでに私に固執し、全く離れる様子がなかった。

どうしよう。
どくり、と心臓が嫌な音をたてたその時だった。

ズバットたちの羽音の向こうに、人の声を聞いた気がした。
そして次の瞬間、鮮烈な白光が辺りを襲った。

光に驚いたズバットたちが高く悲鳴を上げて、散り散りに飛び去って行く。
私は閃光に焼かれてぼやけた視界を頼りになんとかその影達を見送りながら、ズバットは目が無くても明るさを感じられるんだな、と、呑気にもそんなことを思った。

「お前、大丈夫か?」

私を助けてくれたであろう誰かが私に声をかける。
徐々に輪郭を取り戻してゆく視界の中に、私はその姿を捉えた。短パンを履いた少年と、その足元でこちらの様子を伺う聡明そうなコリンク。考えるまでもない、彼らがフラッシュを使ってズバットを追い払ってくれたのだとすぐにわかった。

私は「大丈夫です」と答えて、少年に礼を述べた。
すると彼は人懐こそうににこりと笑って、「困った時はお互い様さ」と言ってくれた。

私はそれから彼の足元に屈んで、コリンクにも「ありがとう」と感謝を伝えた。コリンクは自慢げに鳴いて、そのくりっとした金の瞳で私を見上げた。

「……立派なコリンクですね」

そう言うと、彼は「そうだろ!?」と破顔した。

「ルクシオになるのが楽しみね」

そう言って慣れた手つきでコリンクの頭をくしゃりと撫でると、彼は気持ち良さそうに目を細めてくれた。フラッシュを使ったわけでもないのに、彼のその笑顔はあまりに眩しかった。

――どうか、この子たちがずっと一緒にいられますように。
私はコリンクの笑顔を見つめながら、声に出さずにそう祈った。


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