昨日の男たちと同じく、彼のスカンプーも育てが足りていないようだった。コダックの水鉄砲を一度浴びただけで、紫紺の体はその場に倒れる。
男はスカンプーをボールに戻すと、ボールに向かって小さく舌打ちをした。私はその行為がにわかに信じられず、思わず目を見開いてしまう。しかし、後に続いた男の言葉を聞いて、その理由を何となく理解した。

「早く幹部になりたいぜ」

おそらく、あのスカンプーは自分で捕まえたポケモンではないのだろう。
早く幹部になりたいという言葉とその口調から、末端の団員に与えられるポケモンは弱く、幹部に与えられるポケモンは強いのだろうということが容易に窺えた。
そして同時に、ポケモンを道具としてしか見ていないその言葉は、私の琴線に触れた。ポケモンは、人間と対等なパートナーだと学校でも教えられてきた。友人、家族、仕事仲間。関係は様々だが、私たちはお互いに敬い合い、歩み寄り、理解し合うことができるのだ。――なのに、こんなの。絶対に認められない。

「あなた、それでもポケモントレーナーですか?」

私が静かにそう尋ねると、男は心底可笑しそうに笑った。

「ポケモントレーナーさ。俺も、お前も、同じだよ」

そう言って彼はふたつ目のボールを放る。出て来たのは、やはり小さなスカンプーだった。
スカンプーは闘志を剥き出しにしてコダックを睨みつけていた。なぜ? あなたはこの男にゲットされたわけじゃないんでしょう?

「スカンプー、嫌な音!」
「コダック、金縛り!」

嫌な音を発しようとしていたスカンプーの動きをコダックが止める。
自分が動けない事に気付きながらも、スカンプーはこちらに対する敵意を緩めない。俺もお前も同じポケモントレーナーだという、男の言葉が耳の奥に蘇る。

「水鉄砲」

なす術なく水鉄砲を受けたスカンプーは、やはり倒れて動かなくなった。
男はそんなスカンプーを怒鳴り散らしてからボールに戻した。ぞんざいに扱われているにも拘らず、スカンプーは当然のように赤い光に形を変えてボールの中に戻っていく。

モンスターボール。
それを見て、私ははっとした。

私も彼も、同じだ。
ボールでポケモンを縛り、自分は安全を確保してポケモンを戦わせている。ぞくりと背中に悪寒が走った。

……けれど同時に、私はそれを認めてはならないと強く思った。ゴースやコダックのために、それを否定しないといけない気がしたのだ。

「私とあなたは同じじゃない」

私は絶対にそうならない。そんな自戒を込めて、あえて鋭く言い放つ。
きっと男を睨みつけると、彼はまた愉快そうに笑った。

「そうかい。まあどうでもいいさ。それより、もうひとりを追わなくていいのか?」

ギンガ団の男が、冷ややかな目で私を見ながら喉の奥で低く笑う。私はそんな男のことを真っ直ぐに見ながら、きゅっと唇を引き結んだ。
とにかく今は、もうひとりを追わないと。私はなんだか煮え切らない感情を抱えたまま、不敵な笑みを浮かべる男の横をすり抜けて、花畑の奥へ向かった。


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