花畑の主人に、ギンガ団の男のことを頼んで、私はソノオの花畑を出発した。

道すがら、私はゴースをボールに戻そうとしたのだが、彼はひらりとボールをかわしてそこに戻ることを拒んだ。驚き混じりにゴースを見つめる。彼はいつもと同じ笑顔で私を見返した。
今は少しでも時間が惜しかったので、とりあえずゴースはボールから出したまま先を急ぐことにする。

町の女性に尋ねたところによると、発電所はソノオタウンの真っ直ぐ東にあるらしい。私は彼女に短く礼を述べて、205番道路を東へと急いでいたのだが。

道の途中で、幼い少女がひとり佇んでいるのを見つけた私は思わず足を止めてしまった。茶色い髪に、鮮やかな色の幅広のリボンを付けた、ごくかわいらしい少女。もしも彼女がにこやかな表情を浮かべていたならば、私は発電所に向かう足を止めはしなかっただろう。その顔は悲しみに歪んでいて、私は素通りすることができなかった。
私を認めた少女は、今にも泣きそうな顔で私に「パパに会いたいの!」と縋り付いてきた。聞けば、数日前に発電所へ変な大人達がやって来て、彼女を追い出し、父親を発電所に閉じ込めてしまったのだという。

「そうか、寂しかったね」

そう言って彼女の頭を撫でると、彼女の張りつめた両目から透明な雫がひとつ、ふたつと零れ落ちた。

「私が発電所に行ってくる」

彼女が、その涙に濡れた瞳で私を見上げた。
私はいつもいろんな人に優しくしてもらっている。それを今度は私よりも年下のこの少女に返す番だと思った。

「パパに会わせてあげる」

私はなるべく力強く、そう約束してみせる。
彼女は「トレーナーさん、お願いね」と消え入りそう声で言って、期待に満ちた瞳で私を見つめた。
私は一度大きく頷いて、再び発電所に向かって走り出した。私の周りを漂うガスの体が、音も無く私に続いた。




休むことなく回り続ける巨大な風車の立ち並ぶ断崖に周囲を囲まれて、発電所はひっそりと建っていた。

その入口には、堅固な扉を守るようにギンガ団の男がひとり。

正面からその男に向かって行くと、彼は私を見て「ここは立入禁止なのだ」と子供を追い払うように右手をひらひらと動かしたが、私が引き返すことなく近付いてくるのを見て何かを察したらしい、
「どうしても入りたいなら俺を倒すんだな」
と言ってにやりと笑った。

相手が繰り出したニャルマーに、ボールから出たままのゴースが勢いよく向かって行った。
ニャルマーは一撃で目を回した。門番の男はひやりとした表情を浮かべて私を見遣ったが、それも一瞬のことだった。何か有効な作戦でも思い付いたように、その顔をぱっと輝かせる。
彼はニャルマーをボールに仕舞うと、目にも止まらぬ速さで扉の内側に入り、がちゃり、と大きな音をたててその鍵をかけてしまった。

扉の向こうから微かに聞こえる彼の声は至極愉快そうな響きをたたえていた。これで入ってこられまい! と、私をコケにしたように笑う。
私はその高い笑い声を聞きながら、花畑で手に入れた発電所キーを鍵穴に差し込む。ぴったりだった。右に捻ると再び、がちゃり、と大きな音がして、せっかく男がかけたばかりの錠が勢いよく外れたのがわかった。私のすぐ隣で、ゴースがけたけたと笑う。

あとは普通の扉にするのと同じようにドアノブを回して押し開けるだけ。
つい先程まで私をばかにするような文言を口にしていた男が、ぽかんと口を開けて私を見た。私が発電所の敷地に一歩踏み込むと、既に手持ちのいない彼ははっとして言った。

「幹部様に連絡だよ!」

そう言い残して、ギンガ団の男は建物の奥へ駆け去っていった。

私はその背中を見ながら、自分の心臓が早鐘のように鼓動しているのを感じていた。
彼は「幹部様に連絡だ」と言って、この建物の奥に駆けて行った。つまり、ここにギンガ団の幹部がいるのだ。自分でも不思議な程固執するあの男の手がかりがあるかもしれない。

私の隣でゴースが低く鳴いた。
気持ちはわかるが冷静になれ、そう言われた気がした。

私はそれに小さく頷いて、建物の奥を目指して踏み出した。


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