モミさんは、その長い深緑色のスカートを優雅に揺らしながら森を行く。
彼女と歩くのはとても楽しくて、時間はあっという間に過ぎていった。

特にバトルでのコンビネーションは最強だった。
ケムッソの群れが現れたとき、私のコダックが金縛りで相手を足止めをして、モミさんのラッキーがたまご爆弾で相手をぽいぽいと狙い撃ちにしていく様はとてもコミカルで面白かった。ケムッソが逃げ出して行くのを見ながら、私たちはどちらからともなくお腹を抱えて笑った。

「ナマエさんと一緒に闘うのってワクワクする!」

モミさんはそう声を弾ませる。
私も彼女の笑顔に向かって、「私もです!」と高らかに笑い返した。

モミさんは、「私のポケモン、攻撃は苦手なの」と少し苦笑気味に笑っていたけれど、私は全然そんなことはないと思った。
彼女のラッキーの立ち回りはとても鮮やかだったし、なによりもその動きの端々がとてもキュートで、ポケモンの体力と同時に私の心も、彼女によって十二分に癒されていた。

「ラッキーかわいいなあ」とぽそりと呟いたのをばっちり聞き漏らさなかったモミさんは、とても幸せそうにうふふと笑ってから、「そう? ありがとう」と言ってくれた。





その建物が見えてきたのは、日も沈みかけた頃だった。僅かなオレンジの残光を受けて、立派な洋館が静かに佇んでいた。
洋館の壁面は古くくすんだ色をしていた。長いこと塗り変えられることもなく、風雨に曝されていたのだろう。大きな洋館に相応しい広大な敷地を柵で囲ってはいるが、その広大な庭は荒れ放題。かつては立派な門があったであろう入口には細い木がうねり、絡み合うようにしてそれを塞いでしまっている。

「長いこと誰も住んでいなくて、今では幽霊屋敷って言われてるの」

私の隣で森の洋館を見つめるモミさんが、ぽつりとそう呟いた。その瞳に、僅かな愁い、のような色が一瞬走ったのを、私は確かに見た。
しかしその愁いはすぐにどこかに影をひそめてしまって、彼女はいつもの表情で私に「こわいねぇ」と優しく語りかける。
何か大切なものを取りこぼしてしまったような気持ちになりながら私は、静かに頷いた。

再び視線を戻した先の幽霊屋敷は夕闇の中に厳かに佇み、その名に恥じない不気味さをかもしだしている。

……しかし、なにかがひっかかる。しばし考えて、私は気付いた、私はこの洋館を以前に見たことがあるような気がするのだ。
この左右対照なつくり、どこかで――。

洋館を見つめる私の頭のすぐ横で、ゴースが低く鳴いた。
暮れかけていた夕日は、いつの間にかその弱い光を消していた。






森の出口が見えたのは、それからすぐのことだった。
今日中に抜けられないかもしれないと思いはじめていた私たちは、それに大きく安堵した。

「あっ、出口!」と真っ先に言ったモミさんは、安心したようにほっと息をついた。

「よかった……あたしひとりだったら絶対に無理だったわ。ありがとう」

そう微笑んだ彼女は、スカートのポケットから何かを取り出して、それを私の両手にそっと乗せる。
掌の上でちり、と小さく鳴ったそれは、透き通るような銀色をした鈴だった。彼女の手が私から離れてゆくときにまた、小さく安らかな音をたてた。
私がいいの? と言うようにモミさんを見上げると、彼女はその深緑の瞳を優しく細めて「お礼の気持ち」と笑った。

それをきゅっと握ってはじめて、私は、これがお別れなんだということにはたと気が付いた。
はっとして彼女を見つめようとしたが、それよりも彼女がたっと森の出口に向かって駆け出す方が早かった。慌てて振り向いた先の彼女の、その見慣れた緑色の背中で長いおさげが、まるで私のしらない生き物のようにぴょこりと跳ねたのを、私は忘れないだろう。

彼女は森の出口でこちらを振り返って、言った。

「またどこかで会いましょう!」

このまま一緒に森を出て、ハクタイシティに行って、別れはそれからでもいいじゃない。私は少し寂しそうな笑顔を浮かべる彼女にそう言いたくて堪らなかった。
けれど同時に、そうやって先に先に伸ばしてゆくと、どんどん別れ難くなってゆくような気もして、多分モミさんもそう感じているのだろうなと思って、私はそっと口を噤んだ。何も言わずに、大きく大きく頷いた。

「さよならです!!」

彼女はスカートをふわりと揺らして、ハクタイ目指して駆け出した。
私はそれをじっと見送ってから、彼女に貰った鈴を一度だけ揺らしてみた。彼女の笑顔のような、優しい響きだった。


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