もしかしたらモミさんがいるかもしれないと、少しの期待を持って訪れたハクタイのポケモンセンター。ドキドキしながら覗いたトレーナー用の宿泊室に、彼女はいなかった。

私は少しだけがっかりしながら、その日はそのまま眠りについた。






ハクタイシティのキャッチフレーズは、昔を今に繋ぐまち、だという。
それに違わず、ハクタイの街には昔ながらの建築技法で建てられた一軒家と、近代的な大きなビルディングが混在していた。また、大きな道路はアスファルトやブロックでしっかり舗装されており、かと思えば一歩脇道に逸れると土や砂利が靴の裏で楽しげな音をたてた。街のあちこちに昔からそこにあるであろう樹木が残されており、まさに昔と今が繋がれた不思議な街であった。

ハクタイの老人に街についての話を聞くと、この近代化は最近になって特に顕著に進められたのだと教えてくれた。
昔の町並みが懐かしいのか、彼は寂しげに目を細めながら、街の北端にそびえる一際目を引く建築物を示した。
街を駆ける少年たちは、あの建物をかっこいいと言っていた。子供を持つ母親たちは、あれが出来てから嫌なかんじよねえ、と井戸端会議をひらいていた。
この老人は、ただ言葉少なに、「ハクタイの街も変わったのう」と呟くように言った。それをよいとも悪いとも言わずに、ただ変わっていくことをしんみりと受け入れていた。

「私は、はじめてハクタイを訪れたけど、」
私はそこで一度言葉を切って、うまい表現を探し、続けた。
「とても、いい街だと思いました」

残念ながら、うまい言葉は見つからなかった。
しかしこの老人は優しく目を細めて、「そうかね」と二度、ゆっくりと頷いてくれた。

老人と別れてから、趣のある街、と言えればよかったなと思って、少しだけ後悔した。






街をずっと南に歩いていくと、民家もまばらになった。代わりに、ハクタイシティの最南端、南のゲートが見えてくる。
看板によると、この先はクロガネに続くサイクリングロードになっているらしい。

私は鞄からタウンマップを取り出して今後の旅路を思案する。
ワカバタウンでお世話になったヒカリちゃんのお母さんから預かったお届け物をまだ見ぬヒカリちゃんに渡すために、まずはヨスガを目指そうと思う。自転車があればこのままサイクリングロードを駆け下り、クロガネ側からテンガン山を抜けてヨスガシティへ向かえるのだが、残念なことに私には自転車がない。
となると、このままハクタイシティからテンガン山を越えてカンナギタウンに入り、ぐるっと回ってヨスガを目指すしかなさそうだ。
その前に、ハクタイのギンガ団から何とかして情報も集めたいし、……まだ見ぬヒカリちゃんには悪いけれど、これはもうしばらく時間がかかりそうだ。

私は心の中で謝りながら、タウンマップをしまい込んだ。

とりあえず、街の中心に戻ろう。
そう思って踵を返した時だった。

「あれ、ナマエさん?」

聞き慣れない男の人の声が、私の名前を呼んだ。
振り返れば、白衣の前をきっちり閉めた丸眼鏡の、人のよさそうな男性が、こちらに駆け寄ってくるところだった。
見覚えがあるような気もしたが、名前が思い出せない。私が不思議そうな顔をしてぐっと首を傾げると、男性は「ははは」と気を悪くした様子もなく笑った。

「覚えてないか。まあ私とは話してないし、仕方ないかな」

そう言ってから、彼は居住まいを正す。

「私はコウキの父です。ナナカマド博士の研究所で助手をしています」

そう言って浅く礼をした彼に、私も慌てて礼を返す。「ナギサシティのナマエです」とつい自己紹介をしてしまって、コウキくんのお父さんに少しだけ笑われた。

「博士に、子供たちの様子を見てくるように言われましてね。
どうですか、旅の方は?」

私は少し思い悩んでから、
「とっても楽しいです!」
と満面の笑みで答えた。これからギンガ団について調べようとしていることは、ないしょにした。

コウキくんのお父さんは、「そうですか! それはよかったです」とあの人のよさそうな笑みを惜し気もなく向けてくれた。
それから、「ゴースくんも元気そうですね」とゴースにも声をかけてくれる。ゴースは嬉しげに鳴いた。

私はコウキくんのお父さんに笑いかけながら、隠し事をしていることについて、胸の中で小さく、ごめんなさい、と謝った。


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