まだ少しだけ気分は沈みがちであったが、それでも一晩眠って、いくらか気持ちは持ち直した。
言葉で確認したわけではないが、それでも、あの水色の髪の男がギンガ団の一員であることはその言動から明白だった。
時間と空間の二重螺旋、世界の設計図、素敵な世界――、ギンガ団は、今ある世界を消し去るような新しい宇宙を創り出そうとしているのだろう。彼らの言動から、それも明らかだった。
でも、なぜそんなことをしたいのだろう。ギンガ団は世界を自分のものにしたいのだろうか。
……少なくともあの人は、そんな傲慢な人には見えなかった。
考えても考えても、明確な答えは出なかった。
そんなことを悶々と考えながら午前中をポケモンセンターでぼうっと過ごした私は、お昼前になってようやくポケモンセンターを出ることにした。
ゴースを連れて、行く当てもないまま自動ドアを出たところで、
私は道の反対側からこちらに手を振る作業着の男性を見つけた。ヒョウタさんだった。
彼はそのままこちらに駆け寄ってきて、あの紳士的な笑みを浮かべて「やあ」と私に挨拶をした。
私も、「こんにちは」と頭を下げる。
「こんな時間まで寝坊かい?」
ヒョウタさんはそう言って爽やかに笑った。寝ていたわけではなかったが、ぼうっと考え事をしていたというのもなんだか似た事のような気がする。私は少しだけ照れたように笑いながら「違います」とだけ言うことにした。
彼は「そうか、それは悪かった」とすこし微笑んでから、「そういえば、」とやや改まった調子で続けた。
「ナマエちゃん、これから時間ある?」
唐突な質問に思わずきょとんとしてしまいつつも、私はこくりと首を縦に振る。
すると彼は「なるほど」と相槌をうってから、腰のボールホルダーに手を伸ばす。訳がわからずただ見守るだけの私とゴースの前で、彼はボールからポケモンを出した。
私たちの目の前に現れたのは、灰色の、凛々しい顔をした翼竜だった。大きな顎から覗く尖った牙から、その獰猛さが伺える。
「プテラははじめて?」
私が目を真ん丸にしてそのポケモン――プテラを見つめていたからだろう、ヒョウタさんは爽やかにそう尋ねた。
私が頷くと、彼はプテラを見ながら愛おしそうに目を細めて言った、「このプテラは、僕が見付けた化石から復元したんだ」
「……復元?」
「そう、プテラは大昔に絶滅したポケモンなんだ」
ヒョウタさんがプテラの顎の下を優しく撫でると、プテラはその鋭い双眸を気持ち良さそうに細めた。
大昔のポケモンを、化石から復元出来るなんて知らなかった。今はもういない生き物が長い時間を経て現代に蘇るなんて。そんなすごいことができるのだなあと感心しながらプテラを見つめていると、不意に彼の手がこちらに伸ばされた。
「ナマエちゃん、よかったら化石を掘りにいかない?」
眼鏡の奥の瞳と差し出された彼の手を数度見比べた私は、好奇心に負けてその手をとった。
彼の手は炭鉱作業の影響だろう、思っていたよりもごつごつしていて不思議な感触だった。
「よし!」
ヒョウタさんはそう言ってひらりとプテラに飛び乗り、私をその背中に引き上げてくれた。
すると、ゴースが私のそばに寄ってきて、私の体の影に隠れるようにそのガスの体を潜めた。
「……ゴース、大丈夫?」
これから空を飛ぶけど、あなただけ吹き飛ばされたりしない?
私が心配して囁きかけると、彼は大丈夫だというようにあの自信たっぷりの笑顔で返事を返した。
「じゃあ、いくよ!」
ヒョウタさんの声を合図に、プテラがその翼を力強くはばたかせた。徐々に地表から離れてゆく。
そしてある程度の高度に達した瞬間、プテラは勢いよく進みはじめた。
「わ、すごい!」
私は思わず歓声をあげた。一日かけて歩いたハクタイの森や、ソノオの花畑が眼下で飛び去ってゆく様は圧巻だった。
私はその色とりどりな地表を眺めながら、ふとわいた疑問を口にする。
「そういえば、ヒョウタさんはどうしてハクタイに?」
私の前でプテラにまたがるヒョウタさんは、少し間を置いてからこちらを振り向き、いつもの笑顔でこう言った。
「ハクタイには、化石掘りの達人がいるんだ」
地下おじさんって呼ばれてるんだけどね、ちょっと用事があって。そう言うヒョウタさんの口調は、いつもよりほんの少しだけ早いような気がした。
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