ヒョウタさんにハクタイシティまで送ってもらったその足で、私はハクタイのジムを訪れた。
クロガネジムに挑戦した時、私は旅を続けるために必要な秘伝技・岩砕きのために、ジムリーダーと戦った。
でも、今は違う。昨晩ヒョウタさんと話した「本当の強さ」の意味を求めて、私はここにいた。ジムリーダーは挑戦者の力を見極めるために時に試し、しかし時に導く、厳しくも優しい存在なのだという。
ヒョウタさんのような人ならば、戦う中で何かを見つけることが出来るかもしれない。私がシンオウの8つのジムを巡ることを決意するのに、そう時間はかからなかった。
コトブキシティのトレーナーズスクールで出会った男の子の無邪気な笑顔と、彼のノートに書かれていた言葉を思い出す。
ポケモントレーナーの目標は、各地のジムリーダーに勝つこと。私は今、ようやくポケモントレーナーとして歩みはじめた。
ハクタイジムの扉を抜けると、そこには大きな花時計が設置されていた。
その周りでは様々な植物が緑を繁らせ、スプリンクラーの役割も兼ねているらしい噴水から吹き出る飛沫を受けて青々と輝いている。
ふと上を見上げると、ジムの天井はガラス張りになっていた。そこから降り注ぐ太陽の光が、ここの植物を力強く育てているのだろう。
花の香りが漂うジムで私に最初に声をかけてきたのは、ジムトレーナーのミニスカートだった。
彼女は「早速だけど勝負よ!」と言ってチェリンボを繰り出した。
「このジムはね、トレーナーを全員倒さないとジムリーダーのところに行けないのよ!」
ジムの内装は各ジムリーダーに任されており、中にはデンジのように改造に改造を重ねる者もある。
このジムも、リーダーの意匠を凝らした仕掛けが用意されているらしい。どんな仕掛けだろう。それを作ったジムリーダーはどんな人なのだろう。
私ははやる気持ちのそのままに、ボールを投げた。
ミニスカートに勝った私の耳に、がちゃり、という歯車の音が飛び込んできたのはそれからすぐのことだった。
ミニスカートは倒れたポケモンを丁寧にボールに仕舞ってから、私に「花時計が動き出すわよ」と言った。
慌てて花時計に注目する。私がそちらを振り向いたと同時に、時計の針が勢いよく回転し始めた。
「わあ、すごい……」
感嘆混じりの声が私の口からもれる。
ぐるぐると回る針を見つめていると、ミニスカートがこの針の上を歩いてゆくとその先に次のトレーナーがいることを教えてくれた。
なるほど、そしてそのトレーナーを倒すとまた針が回りはじめるのだろう。そしてそれを何度か続けると、リーダーの元に辿り着く。
私たちの正面で止まった短針にぴょんと飛び乗る。
ミニスカートが鮮やかな笑顔で「がんばってね!」と手を振ってくれた。
「ありがとう!」
私は礼を述べて、時計の上を駆け出した。
文字盤に咲いた色とりどりの花が眼下を流れていく様はとても美しかった。
トレーナーを倒し、文字盤の上をかける。
そんなことを数回繰り返したころ、時計の短針が今まで向くことのなかったジムの最奥部を指し示した。入口から時計を見るとすると丁度12時にあたるそこに、彼女はいた。
オレンジのショートヘアと緑のマントが印象的な、はえる緑のポケモン使い。
「ようこそ! あたしがハクタイのジムリーダー、ナタネ」
「ナギサシティのナマエです」
私が挨拶をするのをジムリーダーらしい威厳のある微笑みで見守っていたナタネさんだったが、
ふと、私の肩の辺りを漂うゴースに目を止めた彼女は、ぎょっとしたような表情を作った。
「……ナマエさんは、ゴースを使うのね」
ナタネさんはそう言ってすぐに笑顔に戻ったのだが、その笑顔は心なしか引き攣っている、ような気がした。
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