眩い光が引き、土埃がおさまったフィールドは、しんと静まり返っていた。

チェリムと、いくつかの打ち倒された木々。
……ゴースの姿は、どこにも見えない。うまく身を潜めているのか、或いはしげみの中で倒れているのか。

チェリムもナタネさんも高度の緊張を保ったまま、ゴースが隠れようとしていた木々の間を見つめている。
審判もどう判定を下したものか判断がつかないようで、緊張の面持ちでこの場を見守っていた。

私は、ゴースに身を隠すよう言った。ゴースが出て来ないのは、指示の通りに身を隠しているからに違いない。
私は彼が倒れていないことを信じて口を開いた。

「うらみ」

一瞬の静寂の後、
チェリムの顔が苦しそうに歪んだ。

私はほっと息をつく。彼はやっぱり無事だった。

ゴースはそのまま森の陰からうらみを続ける。
チェリムは顔を歪めたまま、再び森に向かってソーラービームを放とうと、光のエネルギーを吸収する。

そして一瞬の後にビームを発射しようとしたのだが、ゴースのうらみによってソーラービームは完全に封じられてしまったようで、技はうまく決まらなかった。

「チェリム、マジカルリーフで森を一掃して!」

ナタネさんは即座に指示を変更する。ソーラービームを諦めたチェリムは、マジカルリーフを森全体に放ち、ゴースをいぶりだす作戦に切り替えたようだ。
あの強力なマジカルリーフが既に森の手前まで迫っていた。どうすれば防げる、どうすれば、ナタネさんのように即座に適切な戦術を思い付けない自分をもどかしく感じながら、私は口を開く。

「ゴース、上にっ」

私が指示を出すと同時に、ゴースは森を飛び出した。
チェリムを真っ直ぐに見据えながら、上空高くに踊り出る。

チェリムはすぐさまゴースに狙いを定めてマジカルリーフを打ち出そうとしたのだが、
ゴースとチェリムの目が合った瞬間、ゴースの眸が暗黒色に煌めいた。

呪いだった。
ゴースは自分の体力を削って、チェリムに呪いをかけた。
ゴース自身の体力もかなり限界に近いようで、その顔が僅かに苦しそうに歪んだ。

「ゴース、戻って!」

頭で考えるより先に、口が動いていた。
彼はやや不満そうにこちらを見たが、私が彼の目を正面からぐっと捉えると、彼はふよふよと私の側に戻ってきた。

私が腕を差し出すと、彼は私の胸の中に力無く落ち込んできた。
私は彼に「ご苦労様」と呟いてから、今度はフワンテを繰り出した。

残る控えはコダックのみ。
フワンテでチェリムと、残る一体をの相手をしないと。おそらくコダックではナタネさんの草ポケモンに歯が立たない。
私の闘志を感じ取ったのか、普段は戦闘に出しても甘えるようにこちらに擦り寄って来るフワンテが、真っ直ぐにチェリムに向き合った。

「チェリム、マジカルリーフ」
「小さくなる!」

以前、アロマなお姉さんのロゼリアと闘ったときも、こうしてマジカルリーフをかわしたことを思い出した。
あの時の技のコンビネーションは、あれから何度も練習した。小さくなったフワンテがどこにいるか、どのくらいの距離をどのくらいの時間で移動できるか、何度も特訓して掴んだのだ。

フワンテを探してマジカルリーフを連射するチェリムの足元で、フワンテは驚かすを使った。ぷくりと膨れ上がるフワンテの体に弾き飛ばされて、チェリムの体が大きく浮き上がる。

「そのまま絡み付いて、」

チェリムの体をフワンテの腕が巻き取り、自由を奪った。

「放り投げて、風おこし!」

チェリムを宙にぽいっと放ったフワンテは、そのままチェリム目がけて風おこしを放った。
空中では方向転換することも出来ず、チェリムは風おこしを正面からくらう。

チェリムは高い悲鳴をあげて、倒れた。

「チェリム、戦闘不能!」

ナタネさんはいたわるようにチェリムをボールに戻す。そして、最後のボールを構えて私に言った。

「まだ終わりじゃないもの」

ボールから出てきたのは、優雅なバラの香りをまとったロズレイドだった。

「あなたの実力、最後まで見せてね」

ロズレイドがそのマントをひらりと揺らしてこちらに一方歩み出す。
それが合図になった。

「フワンテ、風おこし!」

出し惜しみは無用だった。
体をぎゅんと回転させて、風おこしを放つ。

しかしロズレイドはそれをひらりとかわしてしまった。
素早さで敵わないのなら、

「ロズレイド、マジカルリーフ」
「フワンテ、しっぺ返し!」

あえてマジカルリーフを受けてから、フワンテはその体をひらりと翻し、攻撃を放った後のロズレイドに一撃を加える。
フワンテの二本の手が、ロズレイドの頬をべちんとぶった。

僅かに相手に隙がうまれたのを感じた私は、フワンテに風おこしを命じた。
この距離ならば、と思ったが、それでもロズレイドの素早さにフワンテは勝てなかった。彼女はひらりとマントを揺らして、風おこしをかわしてしまった。

風おこしが当てられないこの状況は、非常にまずい。私はぎりと奥歯を噛み締める。
特訓はした。準備もした。あとは、できることをやるしかない。

「ロズレイド、ウェザーボール!」

ロズレイドが両手を上空に持ち上げて、陽射しの力を借りて火球を作り上げる。

「フワンテ、空気の流れを見て」

ロズレイドの両手がこちらに差し向けられた瞬間、火球がフワンテにむかって一直線にとんできた。
フワンテはその真ん丸の瞳で迫り来るウェザーボールを見ていたのだが、それが当たる直前に、ふわり、と空気の流れに乗ってそれをかわした。

「よし!」と思わず声がもれる。
それを聞いたナタネさんは、私を見て試すように言った。

「縦横無尽な動き、よく訓練されているね。
でも、これならどう!?」

ロズレイドが、赤い薔薇の花束をこちらに差し向ける。くる!

「痺れ粉っ」

ロズレイドの手から金色に輝く粉が噴出して、フワンテを襲う。
体が痺れてしまったフワンテは、へなへなと地面に着地して動けなくなってしまった。


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