久しぶりにかけた番号だった。
数回のコール音の後、画面に表示された厳めしい顔は、前に見た時から全く変わっていない。
「お久しぶりです、博士」
私が挨拶をすると、博士は「シロナか。珍しいな」と表情を変えることなく淡々とした口調で言った。
「なにか新しい発見でもあったか?」
発見といえば、発見なのかもしれない。
あんな感覚は本当に久しぶりだった。私ははやる感覚を抑え切れずにやや興奮気味に口を開く。
「有望そうな瞳の女の子に出会ったんです」
名前は確か、ナマエちゃんだったかしら。
私がやや曖昧にそう続けると、博士はその目を少しだけ丸くして「ナマエに会ったのか」と驚いたように言った。
今度は私が驚く番だった。
「え? 博士と知り合いなんですか?」
聞けば、デンジくんから依頼があって、博士が彼女の旅の後見人になったのだという。
そういえば、私のところにもオーバくん経由で、デンジくんから依頼が来ていたことを思い出す。知人の女の子が旅に出るのにマサゴタウンまで送ってやりたいので、トゲキッスを貸してくれという話が来ていたんだった。
あの時は、あのデンジくんが誰かの世話を手厚く焼いていたのがおかしくてふたつ返事でトゲキッスを貸し出すと同時に、こんなに過保護にされるのに慣れていたのでは、その女の子はきっとひとりで旅なんて出来ないだろうなと冷静に思っていたっけ。
どうやら、それは思い違いであったらしい。私は心の中でナマエちゃんに謝った。
「あんな瞳、久しぶりに見ました」
旅に出る子供たちは皆、希望に満ちた目をしている。私は神話の真実を求めてシンオウを巡りながら、そんな子供たちをたくさん見てきた。
けれど彼女の目は、希望よりももっと鮮烈な、強い光を宿しているように見えたのだ。
その瞳は、私がかつて大学生だった頃、何度か言葉を交わした同期の男の瞳と全く同じ碧い色をしていた。
あの男は機械工学を専攻していたが、他の理系の学生とは違って私の語る考古学にも平等に耳を傾けていたのを今でもよく覚えている。
あの男の、落ち窪んだ瞳の奥にあったどこか冷たい光。
ナマエちゃんの大きく澄んだ瞳に宿る温かい光。
対照的なはずなのに、その瞳の色がなぜか不思議と重なった。私は今も、あの瞳に弱い。
「昔、博士から頂いた秘伝マシン、思わずあげちゃいました」
私がすこし悪戯っぽく微笑んでそう言うと、博士はその両目を僅かに細めた。
「そうして世代は紡がれてゆく。
あの子なら、シロナに迫るトレーナーになるだろうな」
ナナカマド博士が手放しで誉めるほどのなにかを秘めた女の子なのだ、彼女は。私も、心からそう思う。根拠はないけれど、そんな予感がする。
「あら、気を抜いてちゃ大変ね」
私が大袈裟に肩をすくめて笑うと、博士はその口角を僅かに持ち上げて、豊かな白髭の下で少しだけ笑った。
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