私は一度ポケモンセンターに戻って、ショップで買った品々を借りている寝床にほとんど放り投げるように置き、はやる心のままにギンガ団のアジトの前までやって来た。
アジトの入口には、今日も幾人かの下っ端たちがたまっていた。私は彼らを警戒して今まで近付けないでいたのだが、今日は違う。

私は真っ直ぐ彼らに近付き、話しかけた。

「あの、ギンガ団のビルに用事があるんです。中に入れてもらえませんか?」

彼らは私を見て、なんだ子供かと言うように「お嬢ちゃん、ここは子供の来る所じゃないよ〜」と馬鹿にするように言って、口々に笑った。やはり、門前払いにされるのではないかという危惧は正しかったようだ。

「自転車屋さんに頼まれて、おじさんをむかえにきたんです」

そう言うと、笑っていた男たちの中のひとりの顔付きがすっと変わった。
彼は仲間に耳打ちをして、ひとりでビルの中に入って行った。

気まずい沈黙が流れる。
……失敗してしまったかしら。

ややあって、ビルから戻って来た男は、
「丁度いい、さっさと引き取っていってくれ」
とだけ言って、ビルの方をぞんざいに指し示した。私は彼らの気が変わってしまわないうちに足早にビルの中に駆け込んだ。

自動ドアが背後で閉まるのを感じながら、私はほっと一息ついた。
こんなにうまくいくなんて思わなかった。落ち着いた茶色のタイルを踏み締めて歩き出そうとした瞬間、
私の右肩を、自動ドア付近にいたギンガ団の男がぐっと掴んだ。

「!?」

突然のことに声も出せないまま、そちらに視線を向ける。もしかして、谷間の発電所で私のことを見かけた団員がいたのだろうか。もしかしたら追い出されたり、もっとひどい目に遭うかもしれない。そんなよくない想像が頭の中を駆け抜ける。
視線の先にいたギンガ団の男は、にこりと笑って小さな声で言った。

「私だよ、私」

その声には聞き覚えがあった。コトブキシティと、谷間の発電所で言葉を交わした、国際警察の、

「ハンサムさん……?」
「ははは、驚いたか? 私は変装も得意なんだよ」

彼は一瞬だけカツラをずらして、その正体を私に明かした。私は誰かに見られてやしないかとひやひやしたが、国際警察の一員はそんなへまは踏まないようだ。
ハンサムさんはすぐにカツラを被り直し、なんでもないふうをうまく装いながら私に小声で話し続けた。

「君は一人前のトレーナーだ、大丈夫だろうが一応、注意しろ! と言わせてもらうよ」

そして別れ際に、小さく折り畳まれた紙片を手渡してくれた。彼はそのまま何食わぬ顔で自分の持ち場に戻って行った。

私は手渡された紙片を、感謝しながら握り締める。この周到さに加え、私の実力を認めつつも気遣ってくれたその優しさと余裕。今までの親しみやすい面とは違う、仕事のできる大人の一面が垣間見えて、ハンサムさんがかっこよく感じられた。

私はハンサムさんの方に視線をやらないように気を付けながら(私がここで彼に視線をやって、誰かに知り合いであることに気付かれたら、ハンサムさんの仕事を邪魔してしまうことになると思った)、入口正面の受付らしきカウンターへ進んでゆく。
いつも私に注意を促すように鳴くゴースも、今ばかりは静かに私の後をついてきた。

……大丈夫、うまくやれる。
私は自分を鼓舞して、受付の男に近付いていった。


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