ジュピターさんが置いていった鍵束にはいくつかの鍵がついていた。
そのうちのひとつが、ピッピたちの閉じ込められていた檻の錠とぴったり合致した。
がちゃりと重たい音がして、ロックが外れる。扉を開けると、中からピッピが勢いよく飛び出してきた。自転車屋の主人は、それをしかと抱きしめて、私に何度も何度も礼を述べた。
ピッピと一緒に閉じ込められていたミミロルも、礼を言うように一声鳴いて、ギンガ団のアジトを飛び出していく。その横顔からは自由になれた喜びが伝わってきて、私は疲労を感じながらもつられて薄く笑った。
それからややあって、ハンサムさんがやって来た。突然ギンガ団が姿を消したことを不審に思い、ここまで来てくれたのだという。
私はこのビルにいた幹部を倒したことと、彼らがハクタイのポケモン像について調べていたことを、手短に報告した。
ハンサムさんからは、ビルのあちこちから他人から奪ったとみられるモンスターボールがいくつも押収されていることを教えてもらった。
それらは、時間はかかるだろうが国際警察が責任を持って持ち主に返してくれるらしい。私は、本当によかったと胸を撫でおろし、ほっと息をついた。
自転車屋の主人はハンサムさんに保護されて、家まで送り届けられることになった。
彼はお礼をしたいから後日店に来るようにと私に言い残して、ハンサムさんと去って行った。
私はふたりを見送ってから、まだ宇宙を映し続ける壁にそっと触れる。
ギンガ団は、伝説のポケモンの力を使って世界を手に入れようとしている。少しずつ、彼らの行動の輪郭が見えはじめている。
私はそれにささやかな達成感を感じながら、無人のハクタイビルの階段をゆっくりと下りて行った。
ポケモンセンターに辿り着いた私は、ソファーに座っている眼鏡の少年の隣に、あのミミロルがいることに気付いた。
少年はミミロルが戻ってきたことが嬉しくてたまらないのか、しきりにミミロルを撫でては笑みをこぼしていた。
私はそのまま公衆電話の並ぶ一角へ赴き、デンジへの定時連絡をすべく慣れた番号をプッシュする。
数コールの後、いつもと同じ気だるげな顔で電話に出た彼は、私の右頬に走った一筋の赤に目敏く気付いたらしい。開口一番にそれを指摘してきた。
まさかギンガ団のスカタンクに辻切りをされそうになったなんて、口が裂けても言えない。私は、野生のロゼリアのマジカルリーフが掠ってびっくりしちゃった。と嘘をついた。
デンジは半信半疑ではあったが、それ以上の追求はしてこなかった。
そのかわり、私のこれからの旅の予定をしつこいくらい念入りに確認した。私は明日にはハクタイからテンガン山に入り、カンナギタウンを目指すつもりであることを伝える。
するとデンジは「カンナギだな、」と何かを確認するように呟いて、それから「かさぶた無理矢理剥がすなよ」と画面越しに私の頬を指差して言ってから、電話を切った。
私はそんなデンジを過保護だなあと笑っていたのだが。
それから夕食を食べて、ポケモンセンターのバスルームを借りた時に、私はそれに気付いた。
鏡に映る自分の体の、両脇から肩口にかけて、丁度今日ギンガ団の男に羽交い締めにされたところが、うっすらとではあったが紫色の痣になっていた。
痛みもほとんど消えたから気にしていなかったけれど、痣になっていたなんて……。
私は左の鎖骨のあたりを一度労るように撫でて、シャワールームに入っていった。
次は、ケガをしないように気をつけよう。
そう肝に銘じながら、私はシャワーの蛇口を捻った。暖かいお湯が、今日一日の疲れをゆっくりと流していった。
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