ナタネさんと別れてから一旦ポケモンセンターに戻り、昨晩できなかったデンジへの電話をかけるため、押し慣れた番号をプッシュする。
いつもなら数コールの間に電話に出るのだが、今日は普段と違う時間帯に電話をかけてしまったせいか、電話は繋がらなかった。今日からテンガン山に入るから、最後に連絡をしておきたかったのだけれど……仕方がない。
私は電話を切ると、まずは身支度を整えるためにシャワールームへ向かった。





長い間お世話になったジョーイさんにお礼を述べてから、私はポケモンセンターを後にした。
これから211番道路を進んでテンガン山に入り、カンナギタウンとズイタウンを経て、ヒカリちゃんのいるヨスガシティを目指す。長い道のりになるなあ、と思いながらタウンマップをしまい、東に向かって歩きだそうとした、まさにその時だった。

「おい、あんた!」

突如、そんな大きな声が、私を呼びとめた。
慌てて声のした方を振り返る。そこには、先日私にギンガ団ハクタイビルへ行くきっかけをくれた自転車屋の少年の姿があった。
彼は私の方に駆け寄ってくるやいなや、挨拶もそこそこに時間はあるかと尋ねてきた。聞けば、自転車屋の主人のおじさんに、どうしてもお礼をしたいから私を探して連れてくるよう言われたのだという。私はお礼を言われるほどのことではないとそれを断るつもりだったのだが、彼に背中を押されて「あんたを見つけたのに連れて来れなかったとなったら、オレが親父にどやされるんだ。まあ、人助けだと思って、来るだけ来てくれよ」なんて困ったような笑顔で言われては、行かないなんて言えるはずもなく。あれよあれよという間に『サイクルショップ じんりき』の前まで連れて来られてしまった。

自動ドアが開く。自転車屋の主人は、満面の笑みで私とゴーストを迎えてくれた。

「やあ! このあいだは、ピッピを取り返してくれてありがとう」

彼の顔には、まだ痛々しい腫れが残っている。私が怪我の具合を尋ねると、彼はこのくらい大したことはないさと言って豪快に笑ってみせた。

「ピッピは帰ってきたし、こうして仕事もできてる。ぜんぶお嬢ちゃんのおかげだ」
「そんな、私は全然、」

大したことはしてません、と続けようとした私の言葉を遮って、彼は「だからな、」と言葉を続けた。

「こいつは感謝の気持ちだ! もらってくれ」

そう言って彼がカウンターの奥から出してきたのは、見るからに高級そうな折り畳み式の自転車だった。白いボディに、外国の文字でブランド名がかっこよく書かれている。
こんな高そうなもの、もらえない! 私はその申し出を丁重に断ろうとしたのだが、その声はまたしても遮られる。

「なんて言ってもムダだよ。オヤジは頑固なんだ。あんたも知ってるだろ?」

今度は、少年が私よりも早くそう言った。彼はにやりと笑いながら付け加えた、「たぶんもらってくれるまで帰さないよ」

私は少し考えてから、おずおずと口を開く。

「……本当に、いいんですか?」

もしも自転車があれば、私はこのままサイクリングロードを下って、クロガネ側からテンガン山を超えることが出来る。そうすれば、ヒカリちゃんのいるヨスガシティはすぐそこだ。
頼まれていた荷物を、少しでも早く渡してあげたい。自転車があれば、それができる。

自転車屋のご主人は「もちろん!」とすぐさま返事をしてくれた。その嬉しそうな声に反応したのか、カウンターの脇にいたピッピが歌うように鳴いた。

「ははは、お嬢ちゃんが自転車をもらってくれて、ピッピも喜んでるよ」

ご主人はそう言いながら、ピッピを優しくなでる。
それから、私のために自転車の調整をしてくれた。サドルの高さやブレーキレバーの位置をさすがの手際で手早く整え、夜の走行にも備えてオプションでライトも付けてくれる。あっという間に世界で一台の、私のための自転車が仕上がった。

「最新型の自転車だ。性能抜群で、ギアは4速まであるからな!」

私は自転車のハンドルをご主人から受け取ると、深く頭を下げて礼を述べ、自転車屋を後にした。


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