ポケモンを捕まえようと追いかけているうちに、洞窟の奥に迷い込んでしまって、気がつくとあたりには誰もいなくてひとりきりで。怖くて動けなくなってしまっていたところに、ナマエさんは現れた。
空色にぼんやりと光る見たことのないポケモンに照らされて柔らかく笑うナマエさんは、私の涙を拭うと「私でよかったら、一緒に行こう」と言って、ミルと手を繋いでいっしょに出口を探してくれた。

「本当に怖かった。ナマエさんに会えて本当によかった」

人に会えたことで少し笑顔を取り戻したあたしは、ナマエさんの手をしっかり握って後をついていく。

優しく笑うナマエさんが連れているのは、不敵に笑うゴーストだった。ゴーストはミルがびくびくしているのを見抜いているのか、こっちをぎらぎらした瞳で見ながらあたしのまわりを飛んでいる。

「ナマエさんは、ちょっとこわそうなポケモンさんをつれてるんだね……」
「え、そうかな?」

足を止めて振り返ったナマエさんは、ゴーストが笑いながらミルのまわりをふよふよと漂っているのを見て、慌ててゴーストを引き止めた。もうあたしを脅かさないように軽く釘を刺してから、「ごめんなさい、」とこちらに向き直る。

「ちょっとこうやっていたずらする時もあるんだけど……ゴーストは怖くないよ。いつも私のそばにいてくれる、とっても頼りになる相棒なんです」

ね、ゴースト。とナマエさんが同意を求めると、ゴーストはその怖そうな瞳をきゅっと細めて、本当に嬉しそうに笑った。今まで図鑑や本で見たゴーストはみんな怖そうな顔をしていたけれど……、ゴーストってあんな顔もするんだなあ。そう思いながらあたしは小さく頷いた。

「そっか。ナマエさんはいつもゴーストといっしょだから、この洞窟も怖くないんだね」

ミルがそう言うと、ナマエさんは一瞬きょとんとしたような顔をしてから、恥ずかしそうに眉尻を下げて笑う。

「……うん、そうかもしれない。全く怖くないって言ったら嘘になるけど、でも、ゴーストがいてくれるから、怖いこともがんばれるんだと思う」

ミルもそんなふうになりたいなあと思った。
洞窟とか、大きなポケモンとか、怖いって思わなくなるのはちょっと難しいけれど。怖くてもがんばってそれに立ち向かっていけるようになれたらきっと、ミルは今よりもつよくなれる。

「ミルも、がんばってみる!」

ポケモンといっしょに。怖いことでもがんばれるように。あたしがナマエさんの手を握る力を少し強くしてそう言うと、ナマエさんは「私もがんばる。一緒にがんばろうね!」と、力強く笑ってくれた。





同じ道を何度か通ったりもしたけれど、ミルたちは少しずつ出口に近付いているみたいだ。
ついさっき迷いの洞窟に入ったばかりだというやまおとこさんに出口の方向を訊いて、そちらに向かって歩き出した、その時だった。

急にあたしたちの行く手の岩壁がガラガラと崩れて、そこからとびきり大きなイワークが現れたのだ。
イワークはあたりをきょろきょろ見回し、あたしたちを見つけたらしい。口を大きく開くと洞窟全体を揺らすような声で鳴いて、こちらを威嚇するように睨みつけた。

怖い。そう思った瞬間、あたしの足が震えだす。暗闇で独りぼっちだった時みたいに、また動けなくなる。

ナマエさんは、私の手をしっかりと握ったまま、反対の手でボールを放った。現れたのは、コダックだった。あんな小さなポケモンが、大きなイワークと戦うなんて。そう思ったのも束の間、ナマエさんはコダックに水鉄砲を指示する。
しかし、イワークは頑強な尻尾で散らばっていた岩を跳ね散らし、その勢いでコダックの水鉄砲を分散させてしまった。

そればかりか、イワークの跳ね上げた岩のうちのひとつが、あろうことかあたしたちの方へ飛んできた。動けないあたしの眼前に岩が迫った、その時。ついさっきまでミルのことを脅かして遊んでいたゴーストの背中が、あたしと岩の間に割り込んできた。

「シャドーボール!」

ナマエさんがそう言うが早いか、ゴーストはシャドーボールを放ち、こちらに向かってきていた岩をばらばらに砕いてくれた。
岩石片が舞い落ちる中、ゴーストはミルたちの無事を確認するようにこちらを振り返る。あたしと目があったゴーストは、あたしのことをまっすぐ見つめながらはっきりと一声鳴いた。
ゴーストのパートナーではないあたしでは、彼がなんと言ったのか見当もつかない。けれど、彼はナマエさんのゴーストなのだ。きっと彼は、ナマエさんのように「がんばれ」と言ってくれたのだと、思った。

あたしはナマエさんと繋いだ手に力を込めながら、反対の手でボールを抜き出し、投げた。
ナマエさんのコダックの隣に、ミルのユンゲラーが並ぶ。ナマエさんの背中に守られるように立っていたあたしは、一歩前に出てナマエさんの隣に並んだ。あたしの気配を感じたナマエさんが、こちらに目配せをする。あたしはそれに大きく頷いて答えた。

「コダック、水鉄砲!」
「ユンゲラー、念力!」

またもイワークが大きな尻尾を振って水鉄砲を防ごうとした瞬間、ミルのユンゲラーの念力がイワークの動きを封じた。そこに水鉄砲が命中する。イワークは苦しそうな呻き声を上げると、彼が現れた穴の中へ素早く戻っていった。

ふう、とナマエさんが安心したように息をつく。
その向こうで、ミルのユンゲラーがゆっくりとこちらを振り返った。ユンゲラーはミルを見て、大きく一度頷いた。きっとユンゲラーは誰よりもはっきりとあたしの変化を感じてくれたのだろう。いつも通りのポーカーフェイスは崩していないけれど、その眼元はほんの少し、緩んでいる。

ナマエさんはコダックを労ってから、ボールに戻す。あたしはというと、ユンゲラーの入っていたボールを彼をおさめることなく腰のホルダーに収めた。
ナマエさんはゴーストをボールから出して、ずっといっしょに過ごしている。あたしもそうしようと思った。

「ユンゲラー、これから、ミルといっしょにがんばってくれる?」

ユンゲラーは涼しい表情を崩すことなく、当然だと頷いてくれた。
ミルにはユンゲラーがいる。そう思うと、どんな怖いこともがんばれそうな気がした。


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