完敗だった。
フワンテの力は、決して足りていなかったわけじゃなかったと思う。現にメリッサさんも、フワンテの風おこしの威力を褒めて、よく育てられていると言ってくれた。
問題は、私の指示にあったのだ。ゴーストポケモンのエキスパートは、フワンテの攻撃パターンを熟知していた。だから私の指示した攻撃は、全く歯が立たなかった……。

ジムを出て、ポケモンセンターに預けたフワンテは、一晩かけて元気になって戻ってきた。
私はジョーイさんにお礼を言ってボールを受け取ってから、ポケモンセンターを出る。

本当なら私は、このまま208番道路に向かって、そこでメリッサさんとの再戦に向けて特訓をしなければならないのだと思う。
でも私の足は、208番道路には向かなかった。自分の実力がいかに足りていないかを考えるうちに、特訓なんてしても無駄なのではないかという結論に至ってしまったのだ。

なんとなく街の北に向かった私は、ふれあい広場にたどり着いた。
綺麗な林の中に広がる自然公園を、ポケモンと人が一緒に楽しくおさんぽできる施設。看板の説明を読んだ私は、そこに入ることにした。ポケモンたちと触れ合って、少しでも気分転換ができたらいいな、と思ったのだ。

広場でみんなをボールから出す。
コダックはのんびりとした調子で一声鳴くと、公園の真ん中にある池に向かって歩いてゆく。森の洋館で出会ったオレンジ色の彼は、初めて見る景色に興奮したように電気を弾けさせて鳴きながら、あたりをひゅんひゅん飛び回る。ゴーストはそんな彼のことを横目で見つつ、ベンチに座る私の隣に陣取る。それからフワンテは、いつものように私の腕に絡みついて甘えるように頭をこすりつけた。

ぽわぽわと気の抜けた声で鳴くフワンテの頭を、優しくなでる。すると彼は満足そうににこりと笑って、ぷくーっとその体を膨らませた。
喜びを体いっぱいにつめたフワンテを見ながら私は、ぽつりと「私って、バトル向いてないのかもしれないね」と呟いた。
私には、旅やバトルよりも、ナギサの街でポケモンたちとのんびり暮らす方が向いているのかもしれない。……デンジの言うように。

メリッサさんに負けたことや、デンジと喧嘩してしまったことからすっかり自信をなくしてしまっていた私の口をついて出た弱気な言葉。それを聞いたフワンテは、目をしばたかせて私のことを見つめる。それから、ぶんぶんと首を横に振って、そんなことないよ! と言うようにぷわぷわと激しく鳴いてくれた。

私の隣にいたゴーストが、そんなフワンテを見てけらけらと笑う。それから、大きな手で私の背中を叩く真似をして、私を励ましてくれた。
私たちが騒いでいることに気付いたオレンジ色の彼が、仲間に入りたそうにぴかぴか光りながら、こちらに滑空してくる。ゴーストから事のあらましを聞いたらしい彼は、にたりと笑うと、ばちばちと電気を散らしながら飛び回った。私のことを元気付けようとしてくれているのだと、すぐにわかった。
池の方に視線を転じると、こちらをじっと見つめていたコダックと目が合った。しばしの沈黙の後、彼は池の水をばしゃっと跳ね上げて、水遊びをする。その飛沫は太陽の光を巧みに屈折させたようで、コダックの頭上に小さな、しかし綺麗な虹がかかった。

虹を見たフワンテたちから、わあっと歓声が上がる。
私はそれを見ながら、さっきまで感じていた弱気な気持ちが少しずつ小さくなっていくのを感じていた。

きっと、これからもバトルに負けたり、誰かとうまくいかなかったりして、落ち込むこともあるだろう。でも、ポケモンたちと一緒なら、何度でも立ち上がれる。
そうだ、私は、こんなところで立ち止まっていてはいけないのだ。強くなるって、ヒカリちゃんとも約束したし。

私は大きく深呼吸をすると、勢いよくベンチから立ち上がった。
その気配を感じ取ったみんなが、ぱっと私の方を振り返る。

「みんな、ありがとう」

おかげで、元気になったよ。そう言ってにこりと笑うと、みんなの表情が明るくなった。

「これから特訓だよ!」

私がそう言うと、誰よりも一番喜んだのはフワンテだった。ぷくっと体を膨らませて、私の腕に絡みついてくる。それから、早く特訓に行きたいのか、私の手を握ったままぐいっと前に進んだ。
彼は、その軽い体のどこにそんな力を隠しているのかわからないくらいに強く、私の腕を引っぱって進んでゆく。私は慌てて「ちょ、待って!」と彼を止めようとしたのだが、彼が止まるよりも私がバランスを失って転んでしまう方が早かった。柔らかい芝生に私と、私の鞄からこぼれた道具たちがばらばらと散らばる。

「もう、フワンテ!」

せっかくいい感じに決まってたのに! 私がそう抗議の声をあげると、フワンテはきょとん、と首を傾げてとぼけるようにぷわりと鳴いてみせた。……もう、都合がいいんだから。私は苦笑気味に笑ってその頭をなでてから、散らばった道具を拾って鞄の中に収めてていく。

きずぐすりや、懐中電灯、非常用の固形食料などを鞄にしまっていた私の手が、森の洋館で拾った技マシンを手にした瞬間、ふと止まった。ぼろぼろのパッケージと、かすれた『身代わり』の文字。
メリッサさんの言葉が、頭の中に蘇る。フワンテはよく育てられているが、工夫が足りない……。

私が技マシンを持ったまま動きを止めてしまったのを見たフワンテが、不思議そうに一度鳴いた。


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