フレンドリィショップを訪れて、買取査定担当の店員さんに森の洋館で拾った技マシンを見せると、彼は「ひゃー、これはまた、骨董品だねえ!」とどこか嬉しそうな声をあげてそれをしげしげと眺めた。
聞けば、身代わりのマシン番号が50番だったのは、技マシンが発売されたばかりの頃のことらしい。「ほら」と言って店員さんが見せてくれた現行の技マシン一覧表には、たしかにマシン番号90の欄に身代わりと書かれている。
古い、ということは、……もしかしたらもうこの技マシンは使えないんだろうか。私がそう呟くと、彼はケース越しにマシンをまじましと見分しながら「マシンに使用期限はないから、使えるんじゃないかな」と言ってから、それをこちらに差し出した。
「これは古くてうちじゃ買い取れないや。売るつもりなら、うちより骨董屋に持って行った方が価値がでると思うよ」
悪びれることなく「悪いね」と言った店員さんに礼を述べて、私はショップを後にした。
使えると思うよ、という店員さんの言葉を信じて技マシンのパッケージを開けた私は、箱の中にあったそれを見て、思わず言葉を失ってしまった。
私の知っている技マシンは、全て薄いディスク状で、ポケモンの額に当てて使うのだけれど……この古い技マシンは、なんとベルトのような形をしていたのだ。本来バックルがある部分には、スイッチの付いた拳くらいの大きさの機械が付いている。機械の部分には古い字体で「ポケモンの頭にセットしてスイッチオン!」という簡単な説明が書かれているだけで、他に使用説明書のようなものはない。
かつて技マシンを使って技を覚えたことのあるゴーストが、ベルト状のそれを興味深そうに見ている。私はそんな彼から視線を切って、フワンテに向き直った。
あれから、フワンテについて調べた。
そうして私は、メリッサさんが思いつかないような作戦……かどうかは分からないけれど、フワンテに身代わりを覚えてもらうことにしたのだ。フワンテは体力が高いという特徴を持っているらしいから、体力を使って分身を作り出すこの技との相性は、悪くないと思う。
鬼火や効果抜群の怪しい風を身代わりで防ぎながら、蓄えるを使って長期戦に持ち込めれば、フワンテにも勝機がある……はず。
「ゴースト、ちょっとごめんね」
見慣れない技マシンに夢中なゴーストに謝って技マシンを手に取ると、ベルトの部分を調節して、フワンテの頭に付ける。
風船ポケモンの彼の頭は、ベルトを付けた部分がくびれて、面白く変形してしまった。それを見たゴーストが、指さしてフワンテを笑う。
ぷうっとむくれてしまったフワンテをなだめてから、私はスイッチに指をかける。
そして、こちらを見上げるフワンテに「……いい?」と最後の確認をした。フワンテはまん丸な瞳で私を見上げた。かと思うと、ふわりと浮かんで、自らマシンのスイッチを私の指に押し付けた。かちり、という音がして、マシンが低く唸るように振動を始める。
独特の振動がくすぐったいのか、フワンテは笑いながらふわふわとあたりを漂っていたのだが、次第に動きが緩慢になり、ついには目を閉じて動きを止める。
「……フワンテ?」
もしかして、あんまり古い技マシンだからやっぱり故障していたのだろうか? そう思った私が慌てて技マシンに手をかけようとした瞬間、マシンの振動が一際強くなって、まばゆい光を放ち始めた。
見覚えのある光に目を細めたのは刹那。光は数秒あたりを満たしてから、すうっと尾を引くことなく消えた。
役目を終えたベルトが耐久の限界をむかえたのかプツリと切れて、使用済みのマシンが地面に落ちた。
その瞬間、フワンテが勢いよく宙に飛びあがる。そして、フワンテは紫色の光に包まれたかと思うと、それを体外に放出して、自分にそっくりな分身を作り上げたのだった。
「身代わりだ! フワンテ、やったね!」
私が歓声をあげると、フワンテはふわふわと踊るようにこちらにおりてきて、満足そうに一声鳴いた。フワンテの後をついて来た身代わりも、本体の真似をするように高く鳴く。
「すごい、まるで意志があるみたい」
そう言った私の右手にフワンテが、左手に身代わりが絡みつく。……いや、右が身代わりで、左が本体?
「あれ、ちょっとねえ、どっちが本物?」
私が困った声をあげると、二体のフワンテは声をそろえて楽しそうに鳴いた。
……私がフワンテの身代わりを使いこなすには、まだ少し時間がかかりそうだ。
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