20
負傷した兵士達に強薬草なる回復薬を配っていたサッチは、宿営地の広場に戻って来たマルコとマリスに気付いて「おう」と軽く手を挙げた。
それに釣られるようにして負傷した兵士達の視線が移った。その途端に――
「覚者様!」
「覚者様だ!」
「あァ! 覚者様!」
まるで救世主だと言わんばかりに崇め称える声と共に賞賛の嵐が巻き起こった。
当惑の眉を顰めたマルコは、照れ隠しなのか頭をカリカリと掻くと赤みが差す顔をプイッと逸らした。
その一方、表情こそ変わり無いマリスであったが、やはりポーン故か、覚者であるマルコが周りから崇め称えられ賞賛されるのは然も当然のことですとばかりにどこか誇らしげだ。
「ハハ…凄ェな」
海賊であった時とまるで違う扱いに、サッチはポツリと呟いた。そんなサッチにベッドで横になったままサッチから強薬草を受け取った兵士が声を掛ける。
「あんた、あの覚者様に従うポーンなんだろ?」
「ん…? んー、まァ、一応な」
返事して頷いたサッチに、兵士は羨望の眼差しを向けて笑みを浮かべた。
「あんた、凄い主人に仕えることができてラッキーだな」
「お…、そ、そう、ね……」
その凄い主人とやらは海賊で、家族で、義兄弟で、悪友で、強い繋がりのある身近な存在だったわけで――。
何だか色々と複雑な心境を抱くサッチは素直に返事ができなくて苦笑するしかなかった。
しかし、そんなサッチの反応を気にもしないで兵士は話を続けた。
「噂に聞いた不思議な力を目の当たりにして、本当に驚いたよ」
不思議な力?と、目を丸くして首を傾げるサッチに、隣のベッドで会話を聞いていた兵士が、青い炎を纏う鳥に変身できるってやつだよ、と口を挟んだ。
「あァ、それね」
悪魔の実の能力の事を言っているのだと理解してサッチが軽く頷くと、最初は単なる噂で作り話だと思って、宿営地に常駐している者達は誰も信じてはいなかったのだと兵士は言った。
ポーンであるサッチやエース、そしてマリスを主体に戦い、肝心の覚者であるマルコは、ハイドラの下で負傷した兵士の救出を率先して行っていた。
ハイドラの攻撃を剣で器用に捌きながら負傷した兵士を救出して後退させる動きは確かに見事なものであったし、そのお蔭で死者も出なかった。彼の働きにより助かった兵士達は大勢いる。
しかし、先日にあったゴブリンとサイクロプスの襲撃の時のように、驚異的な強さと覚者たる存在を見せ付けて欲しかったという思いが強くあった。
カサディス村で起きた災厄で不思議な力を持ってして一人で立ち向かったという姿を再現して見せてくれるのではと誰もが思った。なのに――
どうしたんだ?あの覚者は全く戦おうとしないじゃないか。何だ、やっぱり噂はただの噂か。サイクロプスを倒したのだって偶々だったのかもしれない。
助けて貰っておいて薄情ではあるがそう思ったと、彼らはその時の心情を素直に口にした。
でも――
負傷して動けない兵士達を全て後退できたことを確認した覚者は、身体から青い炎を発すると全身を包んで人から鳥へと姿を変えて、凄い勢いでハイドラに向かって行った。
あまりの光景に、神秘的なその姿に、誰もが驚いて絶句した。そして、あの噂は本当だったんだ……。と、誰かの呟きにハッと我に返った兵士達は、そこで初めて覚者の力を信じようと強く思えたのだと言った。
「今度の覚者様こそ正に救世主たるお方だと確信したよ」
「青い炎を纏って神々しい鳥へと姿を変える様は圧巻だったよな」
ゴブリンとサイクロプスの襲撃だけでなく、ハイドラの脅威からも我々を救い宿営地を守ってくれた。と、兵士達は口を揃えて感謝の弁を口にして、彼を救世主と呼ばずして何と呼ぶんだと言った。
正義のヒーローを目の前にして瞳をキラキラと輝かせる少年の様な顔をしてマルコを見つめる兵士達に、サッチはヒクリと頬を引き攣らせることしかできなかった。
で、当のマルコはというと救護テントの入口で、
「マルコ様、皆にお言葉を差し上げてみてはどうでしょう」
「は…? マリス、お前は何を言って」
「兵士達はマルコ様のお言葉を待ち望んでいるように見えます」
「――ッ……!」
熱い視線を送る兵士達を前にしてマリスに背中を押される形で立たされたマルコは、しかめっ面で言葉に詰まり大いに戸惑っていた。
何を言えってんだ、とばかりに視線を泳がせると、何だか微妙な表情を浮かべているサッチと目が合った。
覚者はお前だ。頑張れマルコ。
声を出さずに口元だけ動かしてサッチは応援した。それにマルコは眉をピクンと動かしてサッチをジッと見つめた。
そこに悪意は決して無い。ネタにして囃し立てる気持ちなんて全く無い。と、それだけは理解した。ただ、サッチの目から感じ取れた明確なものは――同情。そう、同情だ。
白ひげ海賊団の中でマルコは船長である白ひげに次ぐNo.2の立場だ。だから、大勢の前に立って言葉を投げ掛けることなんて慣れているし、先頭に立って引っ張って行くだけの力と支えてやれる器は持っているはずだ。
なのに、どうしてあんなに戸惑って嫌そうに顔を顰めているのか――。
純粋な正義主義者とは言い難いからなァ。と、その心情をサッチはとってもよく理解している。
元は海軍の幹部級でした。だったらば平気なんだろうけど、おれ達の本質は海賊だもんな。
だから、最早同情しかない。
だって――
もし自分が覚者だったらと思うと、何と言うか、申し訳無さ過ぎて嫌だ。おれだって本来の職業はアンチ正義を地で行く海賊なんだもの。と、サッチは胸の内で涙を流した。
――と言っても、白ひげ海賊団は弱者を守る義賊気質で、決して悪では無いのだけども……。
そんなサッチの心情を理解したかどうかはわからないが、マルコは「はァ…」と溜息を吐くと、腹を括ったのか、コホンと一つ咳払いをしてから表情を幾許か平静に戻して口を開いた。
「あー…、お前ェらが頑張ってくれたから、ハイドラを撃退することができた」
とりあえず何でも良い。思ったことを素直に言葉にすれば良い。そう思ってマルコは言葉を連ねる。それに兵士達は嬉しそうに笑みを湛え、中には涙を零して嗚咽を漏らし始める者まで出始めた。
マルコが労いの言葉を掛けたら嬉しくて泣き出す奴(主に一番隊の隊員)がいたなァと、懐かしい記憶を思い浮かべたサッチは、ここにいる兵士達も彼らとそう変わらない心境なのだろうと思った。
マルコに視線を戻すと、しかめっ面は疾うに消えていて、普段通りの頼れる長男気質のマルコがそこにいた。
そして――
「誰も死なずに済んだことが何よりだ。命を無駄にしねェで、生きてくれて、ありがとな」
と最後に感謝の言葉で締め括った。
「「「我々こそ感謝しています!」」」
「「「ありがとう覚者様ァッ!!」」」
感極まった兵士達が挙ってマルコを称えて大いに盛り上がった。
「素敵なお言葉に感動して泣いておられる方もいますね」
流石はマルコ様です。とマリスは誇らしく嬉しそうに笑みを浮かべて言った。
「ッ……」
やっぱりポーンなだけあってルークと似た反応をしてくれるよい。と、歪む口元を隠すように右手で覆ったマルコは、踵を返して救護テントを後にした。
「あんたの主人は強いだけじゃなくて、とても優しいんだな」
兵士の言葉にサッチは微笑を浮かべると、何も言わずに救護の手伝いを終えて、マルコ達の後を追うように足速にテントを出て行った。
「痛ェ…」
ポツリと呟いて顔を歪めたサッチは、胸元に手を当てて深く息を吐いた。
” 命を無駄にしねェで、生きてくれて、ありがとな "
まさかそんな言葉を兵士達に投げ掛けるとは思ってもみなかった。
胸の辺りがツキンツキンと痛んで苦しい。
「凄く…痛ェよな、マルコ……」
自分が死んだ後の話を聞いた時はなるべく笑って受け止めたサッチだったが、本心ではかなりショックを受けていた。
ただ――
真っ先に死んだ自分は、親しかった者達の死に様を目の当たりにすることが無かった分、心は直ぐに落ち着いた。おれも死んだと言ったエースは生きていた時と変わりが無いから、あまり実感が湧かなくて、比較的に軽く受け止めることができたのかもしれない。
しかし――
生き残った側、残された側のマルコはどうだったのだろうか?
サッチの死に直面し、オヤジとエースの死を目の当たりにして、大勢の家族が犠牲となって、それでも生き残った者達を抱えて引っ張らなければならなかったマルコの心は……。
マルコの胸には大きな傷があった。それにより殆ど消え掛かっている紺色の誇りが痛々しくて、敢えて触れなかった。と言うよりも触れる勇気が無かった。
あの胸に刻まれた傷は、まるでマルコの心の状態を現しているかのように思えたから。
エースはどう思ったかは知らない。気になるものなら直ぐに訊ねそうなものなのに、一言も触れようとはしなかった。
軽く受け取って良い言葉じゃ無い。喪う辛さ、怖さ、悔しさ――寂しさ等、残された者にしかわからない様々な気持ちと思いを込めた、とても深く大事な言葉だった。
そう思うと、サッチは遣る瀬無い気持ちになった。
ポーンとして――
これは言うなれば贖罪のチャンスかもしれない。
主従だの何だの関係無い。家族として、友として、心を慮って、支え、助けよう。
胸の痛みにグッと拳を握ったサッチは、心からそう誓いを立てた。
「おう、サッチ。救護、お疲れ」
「あれ? 杖を新調してもらったの?」
「助けた奴の中に同じメイジがいたから魔法を使った戦い方を聞こうとしたら、助けてくれた御礼に良かったら使ってくれってな」
錆びた杖では可哀想だって同情されちまった。とエースは笑った。
「そっか。で、良いアドバイスは聞けた?」
「まァ、参考程度。あとは慣れだってよ」
「ハハ、結局は実戦あるのみってところか」
サッチとエースは談笑しながらマルコとマリスがいる広場へと向かった。
それに釣られるようにして負傷した兵士達の視線が移った。その途端に――
「覚者様!」
「覚者様だ!」
「あァ! 覚者様!」
まるで救世主だと言わんばかりに崇め称える声と共に賞賛の嵐が巻き起こった。
当惑の眉を顰めたマルコは、照れ隠しなのか頭をカリカリと掻くと赤みが差す顔をプイッと逸らした。
その一方、表情こそ変わり無いマリスであったが、やはりポーン故か、覚者であるマルコが周りから崇め称えられ賞賛されるのは然も当然のことですとばかりにどこか誇らしげだ。
「ハハ…凄ェな」
海賊であった時とまるで違う扱いに、サッチはポツリと呟いた。そんなサッチにベッドで横になったままサッチから強薬草を受け取った兵士が声を掛ける。
「あんた、あの覚者様に従うポーンなんだろ?」
「ん…? んー、まァ、一応な」
返事して頷いたサッチに、兵士は羨望の眼差しを向けて笑みを浮かべた。
「あんた、凄い主人に仕えることができてラッキーだな」
「お…、そ、そう、ね……」
その凄い主人とやらは海賊で、家族で、義兄弟で、悪友で、強い繋がりのある身近な存在だったわけで――。
何だか色々と複雑な心境を抱くサッチは素直に返事ができなくて苦笑するしかなかった。
しかし、そんなサッチの反応を気にもしないで兵士は話を続けた。
「噂に聞いた不思議な力を目の当たりにして、本当に驚いたよ」
不思議な力?と、目を丸くして首を傾げるサッチに、隣のベッドで会話を聞いていた兵士が、青い炎を纏う鳥に変身できるってやつだよ、と口を挟んだ。
「あァ、それね」
悪魔の実の能力の事を言っているのだと理解してサッチが軽く頷くと、最初は単なる噂で作り話だと思って、宿営地に常駐している者達は誰も信じてはいなかったのだと兵士は言った。
ポーンであるサッチやエース、そしてマリスを主体に戦い、肝心の覚者であるマルコは、ハイドラの下で負傷した兵士の救出を率先して行っていた。
ハイドラの攻撃を剣で器用に捌きながら負傷した兵士を救出して後退させる動きは確かに見事なものであったし、そのお蔭で死者も出なかった。彼の働きにより助かった兵士達は大勢いる。
しかし、先日にあったゴブリンとサイクロプスの襲撃の時のように、驚異的な強さと覚者たる存在を見せ付けて欲しかったという思いが強くあった。
カサディス村で起きた災厄で不思議な力を持ってして一人で立ち向かったという姿を再現して見せてくれるのではと誰もが思った。なのに――
どうしたんだ?あの覚者は全く戦おうとしないじゃないか。何だ、やっぱり噂はただの噂か。サイクロプスを倒したのだって偶々だったのかもしれない。
助けて貰っておいて薄情ではあるがそう思ったと、彼らはその時の心情を素直に口にした。
でも――
負傷して動けない兵士達を全て後退できたことを確認した覚者は、身体から青い炎を発すると全身を包んで人から鳥へと姿を変えて、凄い勢いでハイドラに向かって行った。
あまりの光景に、神秘的なその姿に、誰もが驚いて絶句した。そして、あの噂は本当だったんだ……。と、誰かの呟きにハッと我に返った兵士達は、そこで初めて覚者の力を信じようと強く思えたのだと言った。
「今度の覚者様こそ正に救世主たるお方だと確信したよ」
「青い炎を纏って神々しい鳥へと姿を変える様は圧巻だったよな」
ゴブリンとサイクロプスの襲撃だけでなく、ハイドラの脅威からも我々を救い宿営地を守ってくれた。と、兵士達は口を揃えて感謝の弁を口にして、彼を救世主と呼ばずして何と呼ぶんだと言った。
正義のヒーローを目の前にして瞳をキラキラと輝かせる少年の様な顔をしてマルコを見つめる兵士達に、サッチはヒクリと頬を引き攣らせることしかできなかった。
で、当のマルコはというと救護テントの入口で、
「マルコ様、皆にお言葉を差し上げてみてはどうでしょう」
「は…? マリス、お前は何を言って」
「兵士達はマルコ様のお言葉を待ち望んでいるように見えます」
「――ッ……!」
熱い視線を送る兵士達を前にしてマリスに背中を押される形で立たされたマルコは、しかめっ面で言葉に詰まり大いに戸惑っていた。
何を言えってんだ、とばかりに視線を泳がせると、何だか微妙な表情を浮かべているサッチと目が合った。
覚者はお前だ。頑張れマルコ。
声を出さずに口元だけ動かしてサッチは応援した。それにマルコは眉をピクンと動かしてサッチをジッと見つめた。
そこに悪意は決して無い。ネタにして囃し立てる気持ちなんて全く無い。と、それだけは理解した。ただ、サッチの目から感じ取れた明確なものは――同情。そう、同情だ。
白ひげ海賊団の中でマルコは船長である白ひげに次ぐNo.2の立場だ。だから、大勢の前に立って言葉を投げ掛けることなんて慣れているし、先頭に立って引っ張って行くだけの力と支えてやれる器は持っているはずだ。
なのに、どうしてあんなに戸惑って嫌そうに顔を顰めているのか――。
純粋な正義主義者とは言い難いからなァ。と、その心情をサッチはとってもよく理解している。
元は海軍の幹部級でした。だったらば平気なんだろうけど、おれ達の本質は海賊だもんな。
だから、最早同情しかない。
だって――
もし自分が覚者だったらと思うと、何と言うか、申し訳無さ過ぎて嫌だ。おれだって本来の職業はアンチ正義を地で行く海賊なんだもの。と、サッチは胸の内で涙を流した。
――と言っても、白ひげ海賊団は弱者を守る義賊気質で、決して悪では無いのだけども……。
そんなサッチの心情を理解したかどうかはわからないが、マルコは「はァ…」と溜息を吐くと、腹を括ったのか、コホンと一つ咳払いをしてから表情を幾許か平静に戻して口を開いた。
「あー…、お前ェらが頑張ってくれたから、ハイドラを撃退することができた」
とりあえず何でも良い。思ったことを素直に言葉にすれば良い。そう思ってマルコは言葉を連ねる。それに兵士達は嬉しそうに笑みを湛え、中には涙を零して嗚咽を漏らし始める者まで出始めた。
マルコが労いの言葉を掛けたら嬉しくて泣き出す奴(主に一番隊の隊員)がいたなァと、懐かしい記憶を思い浮かべたサッチは、ここにいる兵士達も彼らとそう変わらない心境なのだろうと思った。
マルコに視線を戻すと、しかめっ面は疾うに消えていて、普段通りの頼れる長男気質のマルコがそこにいた。
そして――
「誰も死なずに済んだことが何よりだ。命を無駄にしねェで、生きてくれて、ありがとな」
と最後に感謝の言葉で締め括った。
「「「我々こそ感謝しています!」」」
「「「ありがとう覚者様ァッ!!」」」
感極まった兵士達が挙ってマルコを称えて大いに盛り上がった。
「素敵なお言葉に感動して泣いておられる方もいますね」
流石はマルコ様です。とマリスは誇らしく嬉しそうに笑みを浮かべて言った。
「ッ……」
やっぱりポーンなだけあってルークと似た反応をしてくれるよい。と、歪む口元を隠すように右手で覆ったマルコは、踵を返して救護テントを後にした。
「あんたの主人は強いだけじゃなくて、とても優しいんだな」
兵士の言葉にサッチは微笑を浮かべると、何も言わずに救護の手伝いを終えて、マルコ達の後を追うように足速にテントを出て行った。
「痛ェ…」
ポツリと呟いて顔を歪めたサッチは、胸元に手を当てて深く息を吐いた。
” 命を無駄にしねェで、生きてくれて、ありがとな "
まさかそんな言葉を兵士達に投げ掛けるとは思ってもみなかった。
胸の辺りがツキンツキンと痛んで苦しい。
「凄く…痛ェよな、マルコ……」
自分が死んだ後の話を聞いた時はなるべく笑って受け止めたサッチだったが、本心ではかなりショックを受けていた。
ただ――
真っ先に死んだ自分は、親しかった者達の死に様を目の当たりにすることが無かった分、心は直ぐに落ち着いた。おれも死んだと言ったエースは生きていた時と変わりが無いから、あまり実感が湧かなくて、比較的に軽く受け止めることができたのかもしれない。
しかし――
生き残った側、残された側のマルコはどうだったのだろうか?
サッチの死に直面し、オヤジとエースの死を目の当たりにして、大勢の家族が犠牲となって、それでも生き残った者達を抱えて引っ張らなければならなかったマルコの心は……。
マルコの胸には大きな傷があった。それにより殆ど消え掛かっている紺色の誇りが痛々しくて、敢えて触れなかった。と言うよりも触れる勇気が無かった。
あの胸に刻まれた傷は、まるでマルコの心の状態を現しているかのように思えたから。
エースはどう思ったかは知らない。気になるものなら直ぐに訊ねそうなものなのに、一言も触れようとはしなかった。
軽く受け取って良い言葉じゃ無い。喪う辛さ、怖さ、悔しさ――寂しさ等、残された者にしかわからない様々な気持ちと思いを込めた、とても深く大事な言葉だった。
そう思うと、サッチは遣る瀬無い気持ちになった。
ポーンとして――
これは言うなれば贖罪のチャンスかもしれない。
主従だの何だの関係無い。家族として、友として、心を慮って、支え、助けよう。
胸の痛みにグッと拳を握ったサッチは、心からそう誓いを立てた。
「おう、サッチ。救護、お疲れ」
「あれ? 杖を新調してもらったの?」
「助けた奴の中に同じメイジがいたから魔法を使った戦い方を聞こうとしたら、助けてくれた御礼に良かったら使ってくれってな」
錆びた杖では可哀想だって同情されちまった。とエースは笑った。
「そっか。で、良いアドバイスは聞けた?」
「まァ、参考程度。あとは慣れだってよ」
「ハハ、結局は実戦あるのみってところか」
サッチとエースは談笑しながらマルコとマリスがいる広場へと向かった。
誓い
【〆栞】