12

雨が激しく降りしきる夜長に整然とした町並を屋根伝いに駆け抜けていく者がいた。悪天候の中を行き交う人々はまばらで出歩く人の数は少ない。そんな中を必死になって走って逃げる男が三人。

「こ、ここまで逃げれば大丈夫だろう!」
「クソッ! あれだけ念入りに計画したってェのに!」
「ナースを人質にするどころかこっちが壊滅に追いやられちまうなんて、とんだ誤算だぜ!」

人通りの無い細い裏路地の奥まった場所に逃げ込んだ彼らは、息を切らしながら顔に張り付く濡れた髪を払い除けてそう吐き捨てた。そして、漸く呼吸が落ち着いた頃に彼らは呆気無く絶命する。

シャキンッシャキンッ――と、冷たい音が鳴る。

左右の小手具の内側から顔を出していた刃は小手具の中へと姿を隠した。左腕に掛かるマントを軽くあしらいながら何事も無かったように彼はこの場を立ち去った。

この日、百人以上を有する海賊団が人知れずに僅か一日にして消えたこととなった。





数日前――
とある名も無き海賊団が、自分達の名をこの世に知らしめる為に無謀な計画を立てた。
世界最強と称される白ひげ海賊団に喧嘩を吹っ掛けて痛手を負わせることができれば途方も無い知名度を得ることができる――そう考えた。
しかし、白ひげ海賊団を壊滅させることはどれだけの数を揃えようとも到底不可能だ。だがそれでも、隊長格の一人でも殺せば名を挙げることは容易であるだろうし箔が着く。彼らはそう考えていた。

まず狙うのは白ひげ海賊団の中で最も弱いだろうナースだ。ナースを人質に一人の隊長を誘き出し、集団で襲い掛かれば倒せるだろう。
ならば――と、彼らが狙いを定めたのは白ひげの右腕として名を馳せる1番隊隊長の不死鳥マルコだ。
どんな傷を負っても再生の炎で回復してしまう『不死鳥』を倒すことができれば、どれだけの名声を得られることか。

自分達には百人を優に超える仲間がいる。百人掛かりで一人を倒せないことは決して無いはずだ。人質を条件に海楼石を填めさえすれば不死鳥の能力は失われる。そうなれば、例え不死鳥と言えども生きてはいられない。

何度も何度も計画を練って話を重ねて行く。

白ひげ海賊団が寄港した島に先回りしていた彼らは、町の人間に紛れて情報を共有して実行する算段を行った。船から降りて来る白ひげ海賊団の者達の動き、行動、目的等、町人のふりをして世間話を交えながら一端の船員に話を聞いたりして情報を得た。

――ログポースの関係上、四日間ほどこの島に滞在するとのことだ。夜になれば酒場を占拠して酒を飲み、娼婦を買って宿に泊まる者や不寝番で船にずっと滞在する者とに分かれるらしい。

――肝心の1番隊隊長だが、仕事の都合で恐らく二日程はずっと船にいるだろうとのこと。しかし、三日の夜は気晴らしに酒場を訪れ、娼婦でも買って宿に泊まるのではないかという話だ。

――人質とするナースだが、彼女達はローテーションで遊びに行く者と船に残る者とで分かれるらしい。今回、自由行動ができるナースの中には運が良いことに1番隊隊長と特別な間柄なのではと噂されているナースがいるらしいとのこと。そのナースはミケーラという名で、オレンジ色の長い髪に目鼻立ちがはっきりしたモデル並みにスタイルの良い美人らしい。

彼らは標的としたナースを直ぐに確認することができた。
話で聞いた通りの美人だ。
彼らはゴクリと生唾を飲んだ。人質だけでは勿体無いと下卑た笑みを浮かべる。
当初の目的の中に新たな目的が男達の中で加えられたのは言うまでも無い。
しかし、彼らにとって誤算だったのはこれらの得た情報の全てが白ひげ海賊団の一人の男に筒抜けであった――ということだ。

計画を実行する日――
岩場の陰に隠していた彼らの船では頭《かしら》を先頭に気合の声が挙げられた。彼らは「おー!!」と意気込んで拳を天高く掲げる。

不死鳥の女を捉え、不死鳥を誘き出し、不死鳥の女の命を交換条件に、不死鳥の命を差し出せと脅す。
もし抵抗するにしても、海楼石の錠を填めさえすればこちらのもの。
例え錠を填めることができなかったとしても、海楼石で作った銃弾で攻撃すれば致命傷は間違いない。
全てが終えた時、あの不死鳥の女はご褒美だとして慰み者として連れて行くことを楽しみに気合を入れる。

「さァ、実行だ!」

こうして動き出した瞬間に――まず一人の命が呆気なく奪われ、急襲を受けて動揺した彼らは次々に絶命して行く。まさか自分達が地獄へと送り込まれる運命を辿ることになるとは誰も知る由も無かった。





港町に寄港すると7番隊は資材調達の為に町へと出向いて行く。今回はアルドも任された仕事の為に単独で町へと向かった。
行き交う人々と擦れ違う度に様々な話声がアルドの耳を衝いた。

「今夜はどう?」
「ママ、あれ買ってよ!」
「今日の晩御飯はどうしようか?」
「奥様、あの話を聞きまして?」
「ああ旦那、元気にしてるかい?」

そんな何の変哲も無い日常的な会話の中に紛れて飛び込んで来た会話がアルドの足を止めた。

「白ひげのナースの中に不死鳥の女がいるらしい」
「なら、そのナースを人質にすれば不死鳥を誘き出せることができるな」
「海楼石で作った銃弾を忘れるなと伝えておけよ」
「わかってる」

アルドには大勢が行き交う人込みの中で交わされる会話を聞き分ける能力がある。アサシン特有の能力だ。更に、その会話をしている人物がどこにいるのかも容易に見つける能力も持っている。
【 イーグルアイ 】――目に映る世界の色が反転し、目標とされる人や物が特殊な光を発して判別することができる視覚的能力。これもアサシン特有の能力だ。
この能力を駆使することで先の情報を交換していた者達をこの人混みの中から容易に割り出すことができた。
情報を得た一人の男が人込みを外れて裏路地へと姿を消した。アルドは気配を消してその男の後を追った。

町から外れた先には大きな岩場が並ぶ海辺があった。その一角に死角となる場所がある。
男は周辺を警戒しながらその先へと入って行った。アルドもその後を辿って岩場の壁を背にしてこっそりと覗き込んだ。
そこには一隻の船が停泊していて甲板には大勢の人がいた。掲げられている旗はブラックフラッグに髑髏のマークが描かれていることから海賊の一団であることを直ぐに理解した。

耳を澄まして彼らの会話を聞き取る。――ナースのミケーラを人質にマルコを誘き出して殺すか捕まえるかして名を挙げるのが目的だという。実行日は三日目の夜。それまでにナースを拉致し、町人のふりをした者がマルコ宛に手紙を送り付けて呼び出す手筈になっている――と。

―― 懇切丁寧な説明をどうも。

船上で計画について話をしている男達に向けてアルドは心内で礼を告げると一先ずそこから離れることにした。それから自分に与えられた仕事をさっさと済ませて船に戻る。
本来ならば報告すべきことなのだろう。しかし、相手は見たところ大したことの無い小物の海賊集団だ。
ナースを人質にしたとてマルコがどうにもできないような相手では無いことぐらいわかっていた。ただ――
ナースのミケーラが”不死鳥の女”という点においてアルドは引っ掛かりを覚えていた。

―― 不死鳥の女? あの人の…女。大事…な女《ひと》ということか?

『男と女が好き合うこと』―― 自室に戻ったアルドはコップに水を入れて一気に飲み干すとソファに腰を下ろした。
冷静さはいつもと変わらないのに何故か落ち着かない。立ち上がってウロウロと少し歩いてまた座るを何度か繰り返した。

一人で事を済ましてしまうか、報告だけして何もしないか――と考えるが、合間合間に『スキ』とは?――という疑問が湧き立つ。

不死鳥の女ということは、ミケーラとマルコは”好き合っている”ということなのかとアルドは首を捻りながらそう考えた。

『スキ』という感情がどういうものなのか今一つよくわからないが、きっと沸々と湧き上がる『想い』がどうにも抑えられずに溢れるもの――7番隊の副隊長であるヤコポが持っていた何かしらの本《恋愛小説》に記載があったのを覚えている――と、自分なりに分析していた。それでも……。

―― ……わからない。

人並みの感情を持ったことが無いアルドにとっては、それがどういうものかは未だによく理解できずにいた。両腕を組んで首を何度か捻って目を瞑って更に考える。

―― そもそも、あの人が自分の想いを感情的に表に出すことがあるのだろうか?

1番隊の隊長はどんな状況においても冷静で頭の回転は早くて状況判断に長けている。『鬼のように怖い人だ』と、敵だけでは無く隊員達の中にも口にする者がいる程、敵に対しては海賊らしさが前面に顔を出し、冷酷で、狡猾で、時には鬼畜な所も見て取れる。

―― 想像できないな。でも……。

身内に対しては基本的に穏和でとても優しい人だ。まさか女一人で取り乱すなんてことは――と、そこまで考えたアルドは眉間に皺を寄せた。
書類を持って行った時にマルコの部屋にいたミケーラを思い出した。
マルコと並んで立っている姿が印象に残っている。
そう思うと僅かに胸がチクリと痛んだ気がして胸にそっと手を当てた。

―― ?

何故痛いのか――と思ったが、気のせいだとしてあまり深く考えなかった。それから暫くの間、この問題をどうすべきかを考えた結果、一人で事を済ませることに決めた。最終的に『小物相手に手を煩わせるのもどうか』という結論に至ったが為だ。
この事を知るのは自分一人。
ミケーラの拉致さえもさせずに、全ては何も無かったことにすれば良いだけのこと。

「ならば話は早い」

アルドはそう独り言ちると早々に部屋を出た。人目に付かないように忍んで甲板に出ると船を降りて町の中へと姿を消した。

この日は既に太陽が沈んで夜となっていたが、例の海賊達にこれと言った動きは全く無かった。その為、彼らの抹殺は翌日へと持ち越しとなった。

拉致計画を実行される日――
町と敵船の間を通る者を【 イーグルアイ 】で対象者かどうかを判別しながら、一人、また一人と、順番に消していった。
そうして夜を迎える頃には敵船に乗り込んで彼らを一気に殲滅へと追いやった。そんな中で頭と幹部と思われる数名の男が船外へ逃げるように飛び出した。

雨がポツポツと降り始めて風が強く吹き始めた。濡れた顔を拭いながら彼らは必死になって町の中を駆けて行く。
辺りは暗く行き交う人もまばらだ。何かから逃げるように走って行く彼らを目撃する者がどれだけいただろうか。恐らく誰も気にも留めていない。目撃したとしても、雨に降られる中を急いで帰路に向かっているのだろうと、誰しもが思うに違いない。そして――

ダンッ! ダンッ!

ヒュンッ――!

屋根瓦を強く蹴るような音が聞こえた。
次に風を切るような音が聞こえた。
雨が降る中だと言うのにはっきり聞こえた。

「なんだ!?」
「うあッ!!」
「え?」

ズシャッ!!

三人の内の二人が真上から現れた影に押し倒されるような形で地面に倒れた。

「ガハッ……!」
「ひっ!?」
「ッ……」

左右の手首から覗く刃が二人の頭部を突き刺していた。
夥しい血が雨水に混じって地面を染めていく。
彼らは即死だった。
残った一人の男が目を見開いたまま尻餅を着いていたが、敢え無く口を塞がれると胸部に冷たい刃が刺し込まれた。

「ば、化け物…か…よ……」
「生まれて来た地獄に帰るが良い」
「ッ……」

フードを目深に被った黒い衣服を纏う謎の男《アルド》は静かにそう言った。
絶命する寸前に零れた自身の言葉と、謎の男《アルド》に掛けられた言葉を最後に、男は力無く倒れて息を引き取った。

彼らの計画は白ひげ海賊団の誰にも知られる事無く未然に終わった。

アルドは彼らの死体をその場から運び出すと海へと落とした。そして、残された船には船底に穴をいくつか開けて沈没させて処理をする。
名も無き海賊達の船は人知れず大量の死体と共に海の底へと沈んでいった。

こうして全ては『無かったこと』となった。





濡れた衣服を纏ったままで夜半遅くに船に戻ったアルドは、最も会いたくない男と出くわしてしまった。

「!」
「アルド、お前ェ……」

船内に入って直ぐだった。

―― ッ……油断した。

アルドは気配を探るのを怠ったことを後悔した。夜も遅いこの時分に起きて出歩く者は不寝番以外にいないだろうと思っていた。その一瞬の油断が判断を鈍らせてマルコの気配に気付かなかった。

一方マルコは、夜遅くにずぶ濡れとなった姿で戻って来たアルドに驚いて立ち尽くした。
頭から爪先まで視線を動かして最後に顔へと戻す。陰に隠れた顔は口元しか表情が見えない。その口元は真一文字に結ばれていて何の感情もそこからは読み取れなかった。しかし、黙したまま軽く頭を下げて横を通り過ぎようとしたアルドの腕を咄嗟に掴んで引き留めた。

「何か――ッ!」

アルドは振り向いた瞬間、思わず言葉に詰まった。マルコが眉間に皺を寄せて厳しい眼差しをアルドに向けていたからだ。

「どういうことだ?」
「なにが…です?」
「アルド、お前ェ……人を殺したのか?」
「!」

微かに血の臭いがした。咄嗟にアルドの腕を掴んで引き留めた時、血の臭いがより濃く鼻を突いて確信した。
アルドは無表情のままで取り乱すことは一切無かったが、自身の腕を掴むマルコの手から逃れようと力を込めて腕を引いた。だがマルコも力を込めてそれを許さない。アルドのその行動が『肯定』を意味するものだと察して表情を更に険しくした。

「離してもらえませんか……?」
「離す代わりになにがあったのか話せ」
「……」

もし相手がラクヨウなら「ダジャレですか?」と、事も無げにそう言ったかもしれない。しかし、相手はマルコだ。
アルドは押し黙ったまま腕を引く力をより強くした。だがそれに見合ってマルコの腕にも力が入れられて引くに引けない。

―― 力では……勝てない。

こういう時、男と女の地力の差が出るものだ。表情こそ出さないが、アルドの心中に悔しさが微かに生じるのを感じた。

「部屋に行くよい」
「どこの部屋に――」
「お前ェのだ」
「おれの部屋に……?」
「まずは着替えねェと風邪を引いちまうだろうが。その後に話を聞く」
「着替えた後にあなたの部屋に伺います。それで良いのでは……?」
「お前の部屋におれがいちゃあ困る理由でもあるのか?」

―― ッ……。

マルコが片眉と口角を上げながら少し悪い笑みを浮かべた。一瞬だがその目は『敵』に向けられる冷酷な色が見え隠れしていた。
アルドは少しだけ動揺して目を丸くして表情を変えた。だがそれはフードの陰に隠れていてはっきりとは見えない。
しかし、至近距離で見ていたマルコの目にはその僅かな反応を見て取ることができた。

―― やっぱり何か隠してやがるな。見守ると決めたばかりだが、ここは問い詰めるべきだ。

「アルド――」

マルコが口を開いた時、「おれを疑いますか?」とアルドがそれを遮るようにして言った。

「なに……?」
「あなたのお察しの通り、おれは確かに人を殺して来ました」
「!」
「十年……、おれはこの船に乗る者達を傷つけるようなことは決して無かった。それだけでは信じてもらえませんか?」

部屋に来られることも、マルコと二人だけで話をすることも、出来ることなら避けたい。だからアルドは、これまで『何をしてきたか』だけを簡潔に伝えようとした。十年間、この船に乗る者達に対して迷惑も何も掛けたことがないのだから、例え『疑い』があったとしても『信じる』には十分な年月だと、そう思って――。

「おれが殺したのはこの船に刃を向ける者達です」
「待て……。そんな情報、いつ、どうやって手に入れた?」
「資材調達の為に町の中を歩いていた時です。人込みに紛れた海賊達の会話を耳にして情報を得ました」

アルドの返答にマルコは眉をピクリと動かした。表情は変わらず厳しいままだ。

―― そんなこと……、人が大勢行き交う中で、どうやってそいつらを判別することができる?

疑問が沸々と湧き上がるのは、やはりアルドという人物――『アサシン』という者がどういう者なのか――を、ちゃんと理解しきれていないからだろう。

「一人で情報を集め、一人で全て対処した。あなたの手を煩わせることも無い。……そう判断しました」
「あなたのって……なんだよいそりゃあ? お前ェ、それは――」
「報告は以上です。腕を離してください」

マルコの言葉をまたも遮るようにしてアルドはそう言った。

「部屋に戻り着替えを済ませて早々に眠りたいんです。……ですから」
「ッ……、わかった」

マルコはまだ『納得していない』といった表情を浮かべてはいるが、アルドの腕を掴んでいる手を離して溜息を吐いた。

「失礼します」

アルドは頭を下げると足早にその場を後にして自室へと戻って行った。
マルコは佇んだまま眉間に皺を寄せると徐に口元を手で覆った。

「……チッ!」

十年もの間、共に同じ船に乗っていた。千六百人という大勢いる隊員達の中の一人という認識だけで、よく把握していなかった自分の甘さに思わず舌打ちした。
アルドが上手く気配を消してやって来たこともあるのだろう。だが今は――。

アルドの存在が気になってから意識的に注視するようになると、やはり他の隊員達とは違う異質な存在であることが数日で嫌と言う程に思い知った。そうなると、どうしてもこのままおざなりには出来ないといったところで疑いを掛けて厳しい目を向けたのだが――。

〜〜〜〜〜

「あなたの手を煩わせることも無い」

〜〜〜〜〜

アルドの口から放たれた言葉に引っ掛かりを覚えた。

―― おれに関することだったってェことか。だとしても何故アルドが……?

難しい表情を浮かべて目を瞑る。暫くその場に佇んで考えるが思考が上手く働かない。仕事に追われて少々寝不足気味でもあるから尚更だ。
マルコは自室へと戻るとドサリとベッドに突っ伏して枕に顔を埋めた。

「おれと話をするのがそんなに嫌か……」

マルコはそう独り言ちると目を瞑って大きく溜息を吐いた。そして、そのまま仮眠を取ろうと目を瞑った。
一方、足早に部屋に戻ったアルドは、装備品を外すと濡れた衣服を脱いでシャワー室へと駆け込み冷たい水を頭から被った。

こんなことがあるとは思いもしなかった。
敵視される目を向けられて初めて大きく動揺した。

疑われることも信じてもらえないことも平気だったはずなのに、マルコから敵に向ける目をほんの一瞬向けられただけで、何故こんなに動悸が激しくなって胸が苦しくなるのか――。

全く理解できずに混乱した。

「ッ……、なんだというんだ。どうしてこんな――」

―― こんなに苦しい思いをするのだろう――

アルドはグッと歯を食い縛った後に大きく深呼吸を繰り返して心を落ち着かせるべく努めた。
温水に変えて冷え切った身体を温めた後、適当な衣服に身を包んでドサリとベッドに倒れ込む。そして、寝返りを打って天井を見上げると、暫く空間を見つめてぼ〜っとする。徐々に眠気が襲って来て瞼が重くなって来た。

自分のマルコに対する態度はほとほと冷たいものだ。
本当は違うのに、決してそうしてはいけない。

甘えてはいけない。
甘えは許されない。

血の臭いが染み着いたのは今に始まった事では無い。だが、今回の件において自身に染み着いた血の臭いに少しばかり気を配る必要があるなと、アルドは反省しながら深い眠りへと落ちた。

単独行動

〆栞
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