16

冬島イムサ島滞在期間残り二日――。
アルドは朝早くに15番隊の隊長であるフォッサの部屋を訪れていた。
フォッサの部屋は細々とした工具が所狭しと置かれいて、更に剣や銃に槍や斧といった様々な武器がそこかしこにあった。そんな中にあるソファに腰掛けたアルドは、目の前で小さな筒状のものが取り付けられた銀板を弄るフォッサの手元をじっと見つめていた。

「どうですか?」
「あァ、なんとか形にはなった。腕を出せ」
「どちらの?」
「左だ。こいつは利き腕で支えた方が反動も少なく照準に誤差が生じねェで済むだろうからな」

アルドは左腕の小手具を外して差し出した。その小手具をフォッサが分解し始めた。そして、アサシンブレードを覆うように銀板と小さな筒状のものを順番に取り付けて従来のアサシンブレードが仕組まれた小手具とは違った様相となった。

「おう、できたぞ」

フォッサはそう言って小手具をアルドに投げ渡した。
アルドは左腕にそれを装着して具合を確かめる。徐に誰もいない空間に目掛けて左手を翳して右手でそれを支えるようにして構えた。
フォッサはニヤリと笑みを浮かべた。そして、一服とばかりに葉巻を取り出して銜えるとマッチを擦って火を点けた。

「後はてめェの腕次第ってとこだな。打ち方と弾の補充方法はこれに記してある。よく読んで訓練しろ」
「ありがとうございます」

フォッサが紫煙を吐きながら新型武器の扱い方について走り書きしたメモ用紙を差し出した。それを受け取ったアルドは、作業机の上にある小手具にふと視線を落とした。それに気付いたフォッサが口を開いた。

「あァ、こっちの右腕分はブレードの調整ができてねェんだ。それと、この前に受け取ったスペア分にもこれと同じものを取り付けておいてやる。全部終わったら部屋に持って行ってやるからな。あと、これが装填用の銃弾だ。補充分も随時作っておいてやるから足りなくなったら遠慮なく言えよ」
「はい、わかりました」

フォッサは深く紫煙を吐くと作業机へと身体を向き直した。そして、工具を手に取って右手用の小手具の調整を始めた。
アルドは軽く頭を下げて静かに席を立つとフォッサの部屋を後にした。

〜〜〜〜〜

「武器の修繕なら15番隊のフォッサに頼め。15番隊は武器の修繕から管理まで幅広く取り扱う部隊だ。フォッサならその小手の仕組みを理解して修繕してくれるだろうぜ、グララララッ!」

〜〜〜〜〜

アサシンブレードに不具合が生じた時、白ひげに相談するとフォッサを紹介された。
武器職人らしいフォッサは職人気質丸出しの男で少々気難しい所があった。しかし、アルドの装備しているアサシンブレードが内臓された小手具を手にした時、その精巧な造りに驚いて興味を持った。
以降、フォッサは率先してアルドの装備品の数々を修繕するようになった。更に、新たな武器を考案して改良を加えたり等、色々と手を貸してくれるようにもなっていた。

自室に戻ったアルドは、説明書を読みながら小手具に取り付けられた小銃に弾を装填した。そして、丸窓から外を確認すると吹雪が止んで青空が広がっていた。

―― 訓練するには丁度良い。

アルドは部屋を出ると誰にも会わないように気配を消しながら甲板を目指し、こっそりと下船して島に上陸した。人里から離れた誰も居ない場所を見つけると少し大きめの石を的にして訓練を始めた。

パァンッ――!!

小銃らしい音が辺り一帯に鳴り響くと同時に的にした石が砕け散る。これで距離のある敵に対しても有効な攻撃が可能となった。投げナイフよりも確実で、距離が離れていても殺傷能力が高く実用的だ。発砲音が少し気にはなるが大して問題は無いだろう。

「悪く無い。流石はフォッサ隊長だ」

発砲時の反動は小銃と言えどもそれなりにあった。フォッサが言っていたように、利き腕で支えた方が照準に狂いが生じ難い。それに加えて銃弾の装填等も利き手で熟す方がスムーズに出来る。
この一連の動作を確認しながら繰り返して練習をしていくと早々にコツを掴めたのか、百発百中で的を撃ち抜くことができるようになった。

「成程」

アルドは早くも小銃の扱いを体得した。納得したように小さく頷くと早々に練習を切り上げて船へ戻ることにした。
船に帰還して甲板に降り立った時、サッチと出くわした。その途端にサッチが目を丸くした。

「よ、ようアルド。外に出てたのか? お前にしては珍しいな」

多少戸惑い気味ではあったが努めて気さくに声を掛けて来たサッチに対してアルドは軽く頭を下げるに留めて船内へと向かおうとした。しかし、サッチに腕を掴まれて振り向いた。

「なにか?」
「あーのさ、ちょっと付き合ってくれる?」
「なにに?」
「酒場」

サッチは軽く酒を飲むジェスチャーをしてクツリと笑った。

「遠慮します」

アルドは即座にそう答えた。だがサッチはアルドの腕を掴んだまま離そうとはしなかった。フードの陰に隠れているアルドの眉間に多少の皺が寄せられた。

「おれは、」
「お前と飲みてェんだ」
「――……なら部屋で」
「たまには外で」
「ならばやはり遠慮」
「典型的な引き籠りかってんだよ!?」
「――……そうですね」

引き篭もりを肯定するアルドにサッチは盛大な溜息を吐いてガクリと項垂れた。
アルドはそんなサッチを無表情で見つめながら掴まれる腕に力を入れて軽く引いた。
暗に離せということを示しているのだが、サッチは決して離すことはせずにガバリと頭を上げた。そして、真剣な眼差しで再び問う。

「部屋でなら良いんだな?」
「外で飲むよりは……と言うよりも、おれと酒を飲んでも楽しくは無いと思いますが」
「あァ、楽しいかどうかなんてェのはおれっちの捉えようでどうにでもなるってんだ。じゃあ酒を持って行くから部屋に戻ってろ」
「サッチ隊長だけ……ですよね?」
「んー? 誰か連れて来て欲しい奴でもいるわけ?」
「いえ、別に」
「例えば、マルコ……とか?」
「……」

サッチはニヤリと笑みを浮かべてワザとマルコの名を告げて様子を伺った。アルドのマルコに対する態度がやはり気になって鎌をかけたのだ。しかし、アルドは無表情でうんともすんとも言わずに無反応だ。サッチは片眉を上げた。

―― んー……、難しい性格してんなァ〜。

話せるようになって言葉を交わしてみれば物腰は低くて口調は丁寧。性格の良し悪し等、人なのだからあって当然なのだが、アルドは如何せん人と相対することを嫌う為にその実がよくわからない。
答える気の無い質問を繰り出すと、こうして無言になって何の反応も示さなくなることが多い。こうなると、どこか人形と会話をしてるような気さえするぐらいにアルドから”人らしさ”が消え失せる。

―― 核心的な部分を知りたければラクヨウを落とすのが手っ取り早いかもしんねェなァ。

サッチはポリポリと頬を掻くと苦笑を浮かべた。

「おれっちだけで行く。だから固まるの止めてくれってんだ」
「……わかりました」

アルドは少しだけ頭を下げると自室へと足を向けた。片やサッチは厨房へと赴いて酒瓶を数本手にすると遅れてアルドの部屋を訪れた。

「酒はイケる口?」
「少し」
「酒豪部隊にいるってェのに」
「おれは酒場に行かないので、彼らと共に酒を飲むことはしませんから」
「7番隊の奴らとは上手くやってんの?」
「良くして頂いてます」
「ラクヨウから誘われたりしねェの?」
「最初の頃はよく誘われましたが、断り続けている内に誘われることは無くなりました」

アルドはサッチの質問に淡々と答えながらジョッキを傾けて少しだけ酒を口に含んだ。コクリと喉が上下に動いていることから飲み込んでいるのはわかる――が、美味いも不味いも言わない。ジョッキの中にある酒の減り具合は微量であまり減っていない。ひょっとしたら酒が苦手なのかもしれないとサッチは思った。

「酒が飲めねェならジュースでも用意してやったってェのに、そこんとこはちゃんと言えってんだよ」
「ちゃんと飲んでます」
「少しじゃねェか。それも本当に微量」
「おれにとってはこれが普通ですから。……お気になさらず」
「おいおい、一口でも普通ならもっと減ってるって」

アルドが持つジョッキの中を覗き見たサッチは呆れにも似た表情を浮かべた。
アルドは特に何も言わずに再びジョッキを傾け、またほんの少しだけ口に含んで飲む。しかし、やはりジョッキ内の酒はほんの微量程度にしか減っていない。

―― 見栄を張る……って感じでもねェよな。

アルドの雰囲気をじっと見つめながらサッチは酒を呷ってゴクゴクと飲む。

「ぷはァ! 美味ェ!」

ワザとらしく大袈裟に言ってからチラッとアルドに視線を向ける。すると、口元だけが僅かばかりに笑みを浮かべて小さく頷くのが見えた。

―― あら、人が飲んでる姿を見て楽しむってタイプ?

軽く目をパチクリさせたサッチは、ジョッキをローテーブルに置いた。
なんとなく思ったことをアルドに聞いてみることにした。

「なァ、アルド」
「はい」
「自発的に楽しいと思えることってある?」
「どういうことですか?」
「アルド自身が心から『楽しい』『好きだ』って思えること。ほら、遊びとか色々あんだろ?」
「はァ、そう…ですね……」

サッチの問いにアルドは少し首を傾げて考え始めた。

「好きかどうかはわかりませんが、ラクヨウ隊長と会話をしている時は楽しいと感じているのだとは思います」
「え……」

「恐らくですが――」と最後に付け加えられた返事にサッチは少しだけ目を丸くした。

―― なにそれ? 十年も同じ船に乗ってるってェのに、ラクヨウとの会話だけしか実りが無いって……? しかもそれが『楽しいと感じているのかどうか微妙』って……。

「十年だ。十年もこの船で過ごしてりゃあ色々あったろ? 7番隊の奴らと何かしたとか、他の隊の奴らとこんなことして楽しかったとか。そもそも『楽しい』っていう感情をちゃんと持ってんのか〜? なんてな!」

サッチは冗談めいて笑いながらそう言った。すると、アルドが「ふむ」と声を漏らして頷くと何やら再び考え込み始めたことでサッチは笑うのをピタリと止めて目を丸くした。パチクリと瞬きを繰り返してマジマジとアルドを見つめ、徐々に困惑した表情へと変えていく。

―― お、おいおーい、ちょっと、アルドさんってば、そこ考える?

感情の起伏が無い奴だとは思っていたが、まさか本当にそういった感情を知らないなんて…… ――と、この時にサッチは初めて知った。
そう思えば食堂で会話をしている時、クツリと笑みを浮かべることはあっても陰に隠れた目はあまり笑っているような雰囲気で無かったことを思い出す。――人が持つ『喜怒哀楽』の感情が全て希薄なのだ。

―― だとしたら、なんでだ?

アルドという人間の本当のところをもっと知りたい。
その思いがサッチの中で沸々と湧き始めた。

 何故、一人で居たいのか――。
 何故、人と接するのを嫌うのか――。
 何故、そんなに感情が希薄なのか――。
 何故、人の情を知らないのか――。

 何故? 何故? 何故?

あのマルコが妙にアルドを気にする本当の理由は、恐らくこの湧き上がる疑問がそうさせるのだとサッチは思った。
単に『知りたい』というよりも、この船に十年も居てこの状態というのは『家族』を謳う白ひげ海賊団において捨て置けない――そういうことか――と。

「サッチ隊長」
「ん……? あ、お、おう、なんだ?」
「今、あなたが何を考えておられたのか、なんとなくわかりました」
「!」
「おれにとって”それ”は然して重要なことでは無いですし必要とも思っていません」

アルドが静かにそう言うとサッチは眉を大きく顰めた。

「感情は……いらねェって、そう言ってんのか?」

アルドがコクリと頷いたことにサッチは眉間に皺を寄せて不満気な表情を浮かべた。

「どうしてそう思うわけ?」
「これがおれですから」
「喜ぶことも怒ることも哀しむことも楽しむことも、全部いらねェ。それで良いって、お前ッ……」

サッチは途中で言葉をグッと飲み込んだ。

―― 何の為に海賊になってこの船に乗ってんだ? 一体、何の為に……?

「夢とか、目的とか、そういうもんは……?」

なんとか言葉を紡いで質問するサッチだったが、アルドは小さくかぶりを振った。
サッチは難しい表情を浮かべたままアルドをじっと見つめる。ジョッキを傾けてゴクリと酒を流し込んで考えてみるが――やっぱりわからねェ――と、知れば知る程にアルドという人間がよくわからなくなってきた。

―― 色々な女を知ってるつもりでいたけどよ、こんな女は初めてだ。

男として生きる女。男の姿をして生きる女。男に化ける女。等々――海賊をやっていたらそういう類の女はよく見かけたし、何度か相対したこともある。
過去にそういう類の女に惚れ込んで本気に落としに掛かったことだってあるし、恋が成就して男と女の関係を築いた経験だってある。
しかし、これ程に『人らしからぬ女《にんげん》』は初めてだ――とサッチは思った。

「あんまり良い言い方じゃねェけど、気を悪くしねェで答えてくれよ?」
「……はい」
「アルド、お前ェは何の為に……、ここにいる?」

サッチが真顔でそう問い掛けた。

―― ……と言うよりも、……何の為に生きてんだ?

サッチの問いを受けたアルドは、ジョッキを口に運んでほんの微量の酒を口に含めて飲むとクツリと笑みを浮かべた。それにサッチは眉をピクリと動かしたが黙って答えを待った。
アルドはジョッキをローテーブルに置くと改めて座り直して背筋を正してから口を開いた。

「全ては家族の為に――」
「!」

サッチは目を見開いて押し黙った。そんなサッチを他所にアルドは席を立って備え付けの棚へと足を向けた。そして、カップを手に取ってコーヒーを淹れ始める。

「酒は嗜む程度で十分です。それ以上は飲めませんからコーヒーを飲むことにしますが……、サッチ隊長はどうされますか?」
「いや、あー、おれっちは酒で良いぜ」
「わかりました」

アルドは自分の分だけコーヒーを淹れると席に戻った。そうしてズズズ……――と飲んだ。

「やっぱりこっちの方が美味いですよ」

それだけ告げてアルドは微笑を零した。
目を見張ったまま固まっていたサッチだったが不思議と心が和らぐのを感じた。そして、自ずと表情が崩れてついつい笑ってしまった。

―― 全ては家族の為に……か。そんな返事をされちまったらどうこう言う気は失せちまった。

それが答えならもう良いかとサッチは思った。それに――
気のせいかもしれないが、また少しだけ砕けた物言いをするようになったような気がする。
こちらから何かを言うでも無しにアルドが自ら話をするなんてことは滅多に無かった。なのに、『やっぱりこっちの方が美味いですよ』と、本当に自然的な流れで言葉を発したのだ。
恐らく普段はこんな雰囲気でラクヨウと話をしているのだろう。そう思うとサッチは妙に嬉しくなって目を潤ませた。

「ちょっとはおれっちもラクヨウに近付いてんのかな」
「はァ……、どういう意味なのかはわかりませんが、少なくともおれにとってサッチ隊長は貴重な方だと思っています」
「え!? マジで!?」
「マジです」

サッチは驚いて勢い良く立ち上がった。

「部屋に招き入れて二人きりで話をするなんてことは、ラクヨウ隊長以外の方とはしたことがありませんし……」
「ってェことは、おれっちは結構ランク上位なわけね!」

喜び勇んでサッチがそう言うとアルドはピクンと軽く反応して押し黙った。

「ん、どうした?」
「また……」
「また?」
「サッチ隊長が言われた『らんく』とは、どういう意味なのか……」

アルドが腕を組んで首を傾げながら考え始めた。それにサッチは軽く瞠目すると首を振った。

「あー、大した意味は無ェって、全く気にする必要無し!」
「?」

どうやらわからない言葉を言われるといちいち考え込む癖があるようだ――と、サッチは苦笑を浮かべた。

―― ちょっと面倒臭ェ性分だな。

感情は奇薄だが所々細かい部分に『人臭い』ところが垣間見えた気がした。それがどうしてか妙に嬉しくて自然と笑みが零れてしまう。サッチは上機嫌に酒を呷った。

「ラクヨウに話せねェようなことがあったらいつでもおれっちに話せよ」
「はァ……、あまりそういうことは無いと思いますが……」

アルドは呟くように答えるとコーヒーをズズズと口に含んだ。

「まァまァ、そう言うなって。おれっちはいつでもオープンだからよ!」

サッチは軽くドンッと胸を叩いて言い張った。ジョッキを持って「アルドにカンパーイ!」と声を上げて楽し気に笑って酒を呷る。
それを見つめるアルドは、コーヒーを飲みながら口元を孤に描いて静かに笑った。

相手が楽しそうにしているのを見て笑える奴に悪い奴はいない。アルドが『女』ということを知って驚きはしたものの今回はそれ以上に色々な面を知ることができた。不満に思う所もあったが、結果としては聞いて良かった。話をして良かった――と、サッチは妙な満足感を得たのだった。
そうして当たり障りのない言葉を交わしながら酒を飲み終えると、サッチは空いた酒瓶を持って「じゃあな〜」と部屋から出て行こうとした。しかし、最後にアルドが放った言葉にサッチは思わず目を丸くした。

「では」
「お、おう」

パタンと閉じられたドアを暫く見つめていたサッチだったが、徐に食堂へと足を向けてその場を後にした。

〜〜〜〜〜

「たまには、こうしてサッチ隊長と話をするのも良いですね」

〜〜〜〜〜

まさかの言葉だった。
最後の最後でそんな科白を聞かされるとは思っていなかった。
食堂に着いて厨房に入ったサッチは、空いた酒瓶を片付けながら「まいった……」とポツリと呟いた。
その言葉の意味が一体何を指しているのか、サッチ本人にしかわからない。

「何がまいったなんですか?」

傍にいた4番隊の隊員がサッチに問い掛けた。

「な、なんでもねェよ」

サッチは苦笑を浮かべながら片付けを終えると「ちょっくら休むわ」と言って厨房を後にして自室へと戻った。

「はァ、なんつぅ不意打ち。女だって知ってるから余計にキュンッとキちまったじゃねェか」

ベッドに腰を下ろしてドキドキする胸に手を当てながら大きく溜息を吐いた。
思わず心臓が跳ねたのは気のせいでは無い。それは確かなものだ。

「意識しちまう。やべェって、……惚れちまったか?」

そわそわしてシャワー室に移動した。洗面台を前にして冷水で顔を洗って鏡を見つめる。
自然と頬が緩んで笑みが零れるところを見ると「あァ、マジか〜」と独り言ちて天井を仰いだ。

―― ついこの間まで弟だった相手だぜ?

悶々とした思いが膨らんで行く。

「早まるな。おれっちの好みはもっとこう――な?」

サッチはあーだろこーだろと自制を促すように言い訳を連ね、自分自身を必死に説得し続けるのだった。

二人きりの酒席

〆栞
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