17

ある島に寄港した白ひげ海賊団は、島の代表者から『この島と周辺のいくつかの島々を含めて白ひげ海賊団の縄張りとして欲しい』との依頼を受けた。そして、好き放題に荒らし回っている海賊達や金で物を言わす成金等の討伐の為に部隊の編成が行われた。
1番隊、2番隊、5番隊、7番隊を先頭に置き、16番隊は援護を、それ以外の部隊は各町に防衛を張り、3番隊のみが船に残って見張りを行う算段となった。

2番隊は、隊長のエースを先頭に意気揚々と先陣を切って海賊達を追い立てた。これに負けじと7番隊も呼応するように戦闘へと入っていった。1番隊と5番隊は逃亡しようとする者達を逃がさないように2番隊や7番隊の方へと動くように扇動しながら戦い、16番隊は少し離れた場所から銃による援護を行っていた。

戦闘は愈々激化し、砂埃が激しく舞っていく交戦の中――アルドの姿は無い。

アルドは白ひげと共に町の中心地にいた。そこには4番隊と12番隊が共に待機している。12番隊の隊長であるハルタがアルドの姿を見るなり隣に立つサッチにコソッと耳打ちした。

「どうしてアルドがここにいるのさ。7番隊でしょ?」
「さァ……?」

サッチは苦笑を浮かべながらそう答えることしかできなかった。――それはおれっちも知りたいってェの――と、白ひげの側に立つアルドを見つめながら胸の内で零した。
その内に、激戦地での戦いを勝利で終えた1番隊、2番隊、5番隊、7番隊、そして16番隊が白ひげのいる町の中心地に帰還しては報告がなされた。
首尾は上々、まず海賊達の殲滅は無事に終わった。しかし、町の代表者が困り果てた様子で「実は――」と話し始めた。

「ここの海軍はパッキンという成金と癒着していて、正義の海軍とは名ばかりの悪行を重ねるとんでもねェ奴らなんです。地上げに応じなければ海軍がやって来て無理矢理立ち退きを迫って来るので、住む場所を追われた者達は行き場が無くて困ってしまって……。海賊より本当に悪いのはパッキンと海軍の奴らなんです」

周りにいた町人達も悔しそうな表情を浮かべたり渋い顔をしていたりと様々だ。
白ひげは片眉を上げると側にいたマルコに視線を向けた。

「マルコ、海軍の情報は得ているか?」
「あァ、中将クラスが二人。実力はそれなりにあるみてェだよい。あと、この島の規模にしては海兵の数がやけに多いのが少し気になってんだが……」

マルコがそう言うと町の代表者が「あァ、それは――」と続けた。

「パッキンが金で雇った荒くれ者達を海兵として働かせているからでしょう。万が一のことを考えて海軍をも牛耳れるようにしているんだと思います」

代表者の言葉を聞いたエースが軽く舌打ちをした。

「性質悪ィ連中だな。オヤジ、さっさと片しちまおうぜ」
「グララララ!」

エースの言葉に白ひげは当然だと軽く笑って各部隊に号令を掛ける。
1番隊、2番隊、7番隊の三部隊は、海軍基地へと攻め入るように指示。4番隊と5番隊は、裏から回って基地内へと忍び込んで連絡網を断ち切り外部との連絡を取れないようにしろとの命令が下された。更に、12番隊と16番隊にはパッキンという名の成金がいる島に潜行して外部との連絡網を遮断するように告げた。それ以外の隊にも各々に指示が出され、各部隊は速やかに行動へと移していった。
白ひげは彼らを見送ると代表者や町民に向けて「問題無ェ、安心しろ」とだけ告げて「グラララッ!」と声を上げて笑った。

―― この島から誰一人逃がしちゃならねェ。気は進まねェが……。

白ひげは、隣に佇むアルドに視線を落とした。命令は無かったが白ひげの雰囲気に察するものを感じたアルドは、白ひげに向かって頭を下げると何も言わずにその場を後にしてどこかへと行ってしまった。

「やはり察しやがったか。お前ェの得意分野なんだろうが……」

一瞬だけ見えたアルドの表情はとても冷たくて、人のそれとは思えない程に完全なる無であった。

―― この度に再々心を殺してやがったらお前は何時まで経ってもあの時のまんまじゃねェか……。なァ、#イルマ#。

白ひげは眉間に皺を寄せて目を瞑った。

―― 情の無い機械とは上手く言ったもんだ。

いつかの戦いでアルドに助けられたナースがそう話していたのを思い出す。
白ひげの表情には少しだけ悲痛の面持ちが浮かべられたが、それに気付く者は誰もいなかった。





本島中心地から離れた島に一際豪華な屋敷が居を構えていた。その屋敷の中央にある一室に葉巻を吸いながら金勘定をしているパッキンの姿があった。
パッキンの目の前には、赤い衣服を身に纏った者達が数人いて、その先頭に立つ男だけが白い衣服を身に纏っている。フードと覆面で顔が覆われているその姿はこの島においては異様な出で立ちではあるが、パッキンは然して気にするでも無く札束に集中している。

「白ひげ海賊団が何故こんな島を縄張りにしたがるのか気が知れないピョン」

丸い顔にタポタポと緩んだ顎。背は然程高く無い。丸い顔と同じように丸い身体は私腹を肥やした成金らしい体型だ。髪形は七三分けで鼻の下には申し訳無い程度に髭が生えている。そして、彼の分厚い唇から放たれる言葉の語尾につけられる「ピョン」とは、どうやら彼の口癖らしい。

「お前達を高い金で雇ったのは、四皇といった世界規模のデカい海賊団共を返り討ちにする為だということを忘れてはいないピョン?」
「承知している。資金援助の代わりに力をお貸しする契約だ。我々とて教団再興の為に金が必要なのでな。寧ろあなたが契約をお忘れでないか、それが心配の元だ」
「契約書はここにあるピョン!」

パッキンは書類をピラリと見せて「約束は守るピョン!」と少し声を荒げて言った。
目の前に立つ男は「ならば結構」とだけ答えると軽く頭を下げた。すると、後ろに立っていた赤い衣服を纏った者達も同じように頭を下げて静かにその部屋を後にした。
そんな彼らを見送ったパッキンは札束を元に戻して椅子に深く座り直した。

「ふん、相変わらず不気味な暗殺集団だピョン。殺しに関して海軍よりも強力だから雇ったというのに、『アサシン』だかなんだか知らないが、愛想が無いのは気に入らないピョン」

不満気な表情を浮かべて独り言ちたパッキンは、数え終えた札束に視線を落とすとニヤリと笑った。そして、気を楽にして鼻歌混じりに再び金勘定を始めた。

「この世はまさに金! 金こそ最強! 金があればなんでも手に入るし、強い奴を雇って身を守ることもできるピョン!」

パッキンは札束を掴むと「む〜っ!」と分厚い唇を尖らせた。

ぶちゅっ!

札束にキスを落として愛し気に見つめては頬擦りする。
彼はまさに典型的な金の亡者であった。

一方、白い衣服を纏う男は部下と思われる赤い衣服を纏う者達に指示を出した。――白ひげ海賊団の情報を中心に、海軍基地の状況や白ひげ海賊団に縄張りを依頼した者達の情報を集めろ――と。
彼らは指示を受けると誰がどう動くのか暗黙の了解の内のようで、何も言わずして各々動き出した。

「ファブリナ島、第五支部教団の再興こそ我らの務め。大導師の面目を潰さぬようにせねば」

白い衣服を纏った男は拳を握り締めると誓いを立てるように言葉を零した。





アルドは一人、島の一番高い場所に立って島の全域を確認した。

―― 妙な胸騒ぎがする……。

アサシン特有の能力であるイーグルアイを駆使して情報を集める。
島の位置状況や周辺の島との距離、またその各島々にある施設等、細部に至るまで目算して瞬時に理解していく。そうして把握し終えたらその場を後にして海軍基地へと向かった。

本当はハルタやイゾウらが向かったパッキンという名の成金の男がいる島に向かうつもりだった。しかし、先程から感じる『胸騒ぎ』が気になって目的を変えることにした。

山を駆け下りて平地を駆けて海軍基地を目指す。尋常では無い程の身軽さで駆け抜ける様は人並み外れた動きだ。アルドの姿を目撃した者がいれば、恐らく誰もが唖然として開いた口が塞がらないだろう。それだけアルドの身の熟しは常人から掛け離れたものだった。

海軍基地の麓に辿り着いた。
激しい戦闘が繰り広げられているのだろう、銃撃音から剣戟音、そして、怒声まで大きく聞こえてくる。
アルドは塀を軽々飛び越えて中の様子を伺い見た。
どう見ても白ひげ海賊団の方が優勢だ。
中将クラスと思われる二人の海兵はマルコとエースによって苦戦を強いられており、その間に7番隊の隊長であるラクヨウを中心に、1番隊、2番隊、7番隊の隊員達が連携して多くの海兵達を駆逐していく。その様は圧巻だった。
所属する隊が違っても家族として共に過ごして来たのだ。お互いの動きに呼応して流れるような連動した動きは見事なものだ。

―― 流石です。

アルドはクツリと笑みを浮かべた。ここは問題無い――となると、裏手から侵入している4番隊と5番隊が気になる。そう思った時、4番隊と5番隊の姿が視界に入った。彼らもまた無事であることが確認できた。

―― あの胸騒ぎは単なる思い違いだったのか?

広場の戦闘は、マルコとエースがそれぞれ中将を倒したことによって海兵達の士気が一気に沈下してしまい、白ひげ海賊団が圧倒して勝利を収める形となって終結した。そこに4番隊と5番隊も合流して「お疲れ!」と、お互いに声を掛け合っていた。
アルドは彼らの元に――いや、ラクヨウの元へと向かった。ラクヨウがアルドの姿に気付くとニヤリと笑みを浮かべて軽く手を挙げる。

「おう!」
「お疲れ様です」
「見てたのか?」
「気になったものですから少しだけ」
「圧倒してやったぜ」
「えェ、完膚なきまでに」

ラクヨウが胸を張って威張るように言うとアルドは笑みを湛えて答えていた。
それを少し離れた場所で見ていたマルコが眉間に皺を寄せた。その隣にいたエースは不思議そうな表情を浮かべ、サッチは苦笑して、ビスタは髭をなぞりながら思案顔を浮かべた。
そんな時、隊員の一人が「あ!! 逃げやがった!!」と声を上げた。
隊員の声に隊長達が反応して視線を向けると一人の海兵がその場から逃げ出す姿があった。あれはエースが戦って倒したはずの中将の一人だ。

「あ、あいつ! まだ動けたのかよ!?」

当然エースは倒したものだと思っていただけに驚いて声を上げた。

「詰めが甘ェよいエース!」

マルコはそう言うなり逃亡した中将の後を追って走り出した。

「サッチ! ビスタ! ラクヨウ! ここを頼んだよい!」
「あ! あいつはおれの獲物だぜマルコ!」

エースはそう叫んでマルコの後を追って走り出した。二人が走り去って行く姿を見送っていたサッチとビスタは、「あー……」と漏らした声を耳にして振り向いた。

「ん? どうしたラクヨウ――って、あれ? アルドは?」
「あいつ、何か察したか? ”他にも敵がいる”かもしれねェな。おい、お前ェら、あんまり気を抜くんじゃねェぞ」

ラクヨウの科白にサッチとビスタは顔を見合わせた。

「他に敵って、どこに?」
「ラクヨウ、どういうことだ?」

サッチとビスタがラクヨウに問い掛けたがラクヨウは答えないまま7番隊の隊員達に声を掛けた。

「ヤコポ、オヤジに報告して来い」
「了解!」
「残りの連中は警戒を怠るなよ」
「「「おう!」」」

ラクヨウの指示に7番隊の者達のみが何もかも理解しているかのように返事をした。
サッチとビスタは眉間に皺を寄せて首を傾げた。当然7番隊以外の隊員達もサッチとビスタの様に首を傾げている。

「おいラクヨウ! 説明しろってんだよ!」

サッチがラクヨウの肩を掴んでそう言うとラクヨウはニヤリと笑みを浮かべた――が、目は決して笑っていなくて真剣そのものだ。サッチの眉間には更に深い皺が刻まれた。

「本当、なんなんだ? 説明してくれても良いんでないの?」
「あいつは誰よりも危機管理能力に長けててなァ」
「あいつって……アルドのことか?」

サッチの問いにラクヨウは溜息混じりに小さく頷いた。

「誰よりも情報収集に長けて状況を把握しやがる。見た感じでは確証が無いみてェだから特に何も言わなかったが……、きっと何か感じたんだろうな。海軍の他にもややこしい連中がいるかもしれねェってな」
「なんだと?」

ビスタが眉を顰めるとラクヨウは軽く肩を竦めた。

「率先して後を追いに行きやがったから、あの中将もその連中の一味と考えたのかもしれねェな」
「後を追った…のか?」

ビスタがやけに食い付いてくることにラクヨウは(ワザとらしく)驚いたといった表情を浮かべた。

「ビスタもアルドに興味があんのか? かァ〜、十年越しで一体全体どうなってんだこの人気ぶりはよ〜! ガッハッハッ!」

ラクヨウは片手で目元を覆うと盛大に声を上げて笑い出した。

「興味持つのが遅すぎだろ! お前ェらも、マルコもよ!!」
「……ん?」

ラクヨウの口から自然と漏れ出た名前にサッチが怪訝な表情を浮かべた。

―― な〜んでそこに敢えてマルコの名前が出て来んだ?

やっぱり何かあるのかと、アルドとマルコの間に只ならぬものを感じたサッチは愈々興味を持った。しかし、今はとりあえずそれは横に置いておいて――と、サッチは別の疑問を口にした。

「っつぅかよ、アルドが後を追ったって言ったけど、戦えんのか?」
「あァん? 当り前だ。アルドは白ひげ海賊団で断トツ強ェって知らねェのか?」
「へ!?」
「な、なんだと!?」

ラクヨウの科白にサッチとビスタは驚愕して固まった。

「あ、これ言ったらダメなやつだったの忘れてたぜ……」

少し間を置いてからラクヨウはハッとして口元を手で塞いだ。が、時既に遅しだ。

「「「ラクヨウ隊長! おれ達は関係無ェっすからね!?」」」
「あ”ァ”!? 連帯責任だバカヤロー!!」
「「「うあァ! 責任の擦り付けかよ! あんた最低だぜ!!」」」

自分達には一切責任が無いことを強調して主張する7番隊の隊員達と、自分の失態を部下達に持たせる気満々のラクヨウが、ギャーギャーと言い合い始めた。
サッチは彼らの様子を見つめるながら難しい表情を浮かべて考え込んだ。

―― アルドは女だ。なのに最強だってェのか? マルコやエースを差し置いてまさかそんなことって……。

ビスタもまたサッチと同じように表情を険しくしていることから、彼もサッチと似たようなことを考えているのだろう。
ラクヨウは7番隊の隊員達に叱られながら二人の表情をチラっと見た。そして、「チッ!」と軽く舌打ちをして自身の頬を抓って猛省した。

―― 悪ィなアルド。けど、そろそろ限界があんだろ。

ここ最近になって各隊長達がアルドに対して興味を持ち始めていることを感じている。その筆頭は勿論マルコなのだが――、実はアルドが女であると知ったサッチが異様に関心を示しているのを手に取る様にわかる。

―― これ以上は囲い切れねェぜ。

基本的に面倒事を抱えるのが大嫌いな適当男のラクヨウにとっては、これはとても重たい事案であった。この島の事が全て終えた後のことを思うと気が滅入って仕方が無い――と、大きな溜息を吐くばかりだった。

島民の依頼

〆栞
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