38
セルヴァ王宮の地下――。
そこには戴冠式に先立ち侵入していたアサシン達が設けた隠し部屋があった。その部屋の奥に立つ主柱には海楼石の錠と鎖で繋がれたエースがいた。胡坐を掻いて項垂れているのは海楼石で繋がれている為か微動だにしない。
密閉した薄暗い地下室を照らす蝋燭の火が小さく揺らめく中、椅子に腰掛けているシルヴァーノが力無く項垂れるエースを見つめていた。その視線が気になったのか、エースは頭を落としたまま「なんだよ……」と声を発した。
「なにがだ?」
「さっきからなんでおれをじっと見てんだ」
「そう思うか?」
シルヴァーノの問いにエースは項垂れていた頭を徐に起こして彼を見上げた。
「お前、おれをどうする気だ?」
「どうもしない」
「なに?」
「世界最強と称された海賊どもの実力を知りたくてな。ただ、それだけだ」
シルヴァーノの返答にエースは眉をピクンと動かした。
「てめェ…、白ひげ海賊団を敵にしてただで済むと思うなよ」
眉間に皺を寄せてギロリと睨み付けるエースにシルヴァーノは軽く肩を竦めた。そうして背凭れに背中を預けて足を組みながら腹部の上に両手を組んだ。
フードの陰に隠れて見え隠れするシルヴァーノの目元を蝋燭の灯りが差し込んで一瞬だけ見えた。
―― ッ……!
まるで底無しの穴のような、あまり生気を感じられない暗い目をしていた。人間と言うよりも機械仕掛けの人形と言った方が正しいかもしれない。アルドと同じアサシンではあるが根本的な性質がまるで違う。エースは直感的にそう思った。
「お前を捕らえるのは簡単だったが」
「五月蠅ェ……。油断しただけだ」
「他の隊長達も然して変わらんだろう」
「今の、笑った方が良いか?」
エースは口角を上げた笑みを浮かべた。海楼石で繋がれている以上できることはこうして煽ることだけだ。人に嫌味を言うことはあまり得意では無いエースだが、ドレッドヘアーの男《ラクヨウ》が脳裏に過ったので真似てみたといったところだ。きっとラクヨウならもっと馬鹿にした言い方をしているだろう。
―― あー、けど、あいつは天然でやるところがあるからなァ……。
嫌味という点において参考にすべきはイゾウやハルタ辺りが妥当かもしれない。しかし、流石にそれは高等技術過ぎて自分には無理だと直ぐに思った。頭の中でガッハッハッハッとバカみたいに笑うラクヨウの顔が鮮明に浮かぶ。――あァ、どう考えてもこのレベルがおれのできる限界か――と思った。その瞬間、心なしか悲しい気持ちが胸中に去来して小さく溜息を吐いた。
一方、エースの笑みを見たシルヴァーノは口を真一文字に結んだまま立ち上がるとエースの側に歩み寄った。さっきの嫌味で怒ったとなると見た目と違って酷く短絡的で短気な男だとエースは思った。髪を掴むなりなんなりするのかとエースが顔を上げた瞬間ドスッと鈍い音と共に腹部に激痛が走った。
「カハッ!」
エースは堪らず咳込んだ。シルヴァーノがエースの腹部に蹴りを放ったからだ。
「海賊王の息子に恨みは無いが、お前のその笑みを見ると昔を思い起こさせる」
「ごほっ! ごほっ! くそ、なんだよそれ……」
「なに、くだらん記憶だ。最も役に立たん男の笑みにあまりに似ていたんでな」
「はァはァ…、ッ、おれが、誰に似てるって?」
エースがそう問い掛けるもシルヴァーノはどこまでも暗い目で見下すだけでそれには答えなかった。くるりとエースに背中を向けたシルヴァーノは――早々に殺しておけば裏切る必要など無かったのだ――と、小さくそう呟いた。抑揚の無い低い声音は相変わらずだが、その声の中に俄かに苦渋の何かが含まれているようにエースは感じた。
―― 裏切る必要ってことは、こいつらを裏切った奴がおれと似てるってェことか?
エースは力こそ出ないが思考だけははっきりしていた。深く考え事をすることは苦手だが、今となっては考えること以外に出来ることは無い。シルヴァーノの言葉を受けて苦手な思考を回転させて考えを張り巡らせていく。自分と似ているアサシン。そんな奴が果たしているのだろうか――と、そう思った時だ。
「アルド……?」
ふっと脳裏に浮かんだアルドの姿に自然とその名を口にした。
「!」
シルヴァーノは動きを止めて振り向いた。そして、エースの元に大股で歩み寄ると片膝を突いて乱暴にエースの顎を掴み上げた。
「くっ! な、なんだよ!?」
「貴様! 今、なんと言った!?」
「!?」
これまで感情の起伏を全く見せなかったシルヴァーノが一変して大きく動揺する様に驚いたエースは目を丸くした。その一方、シルヴァーノはギリッと歯軋りをしながら「アルド……、コルティノーヴィス・アルド。何故だ…何故……?」とブツブツと言葉を零した。
「答えろ! 何故、貴様がその名を知っている!?」
「ぐっ…! あいつが、アルドが、なんだってんだよ!」
「コルティノーヴィス・アルド。奴は最も役に立たない無能な落ちこぼれの分際でありながら、我々アサシン教団にとって最も有能なアサシンを裏切りの道に引き摺り込んだ大罪者だ!」
「――!?」
エースは混乱した。
―― あのアルドが無能な落ちこぼれだって……?
シルヴァーノの言う人物とエースが知る人物があまりにもかけ離れている。アルドは白ひげ海賊団の中でも最も強いかもしれないと言われた人物だ。確かに『コルティノーヴィス・アルド』という名ではあるが。
―― ラクヨウが嘘を吐いたって?
しかし、先の島で海軍と一戦を交えた時に逃亡した海軍中将を殺したのはアルドで、パッキンという名の金持ちと、それに従う奴らを一夜にして殲滅したのもアルドだったということをマルコから聞いた。
―― 例えラクヨウが嘘を吐いていたとしても、あのマルコが嘘を吐くなんてことは百歩譲ってもねェ。
更に、マルコから信頼を得ている時点で、アルドが無能で役立たずなんてことは決してあり得ないとエースは思った。
「答えろ火拳。貴様が何故アルドの名を知っている」
「ッ…せェ、うるせェ! お前に答える義理なんざ」
「既に死んだ男の名を何故知る!!!」
「――ッ!? な…んだって……?」
エースの声を遮って叫んだシルヴァーノの言葉にエースは自分の耳を疑った。
―― アルドが…既に死んだ男だって……?
愕然とした表情で酷く戸惑うエースに、シルヴァーノは眉間に皺を寄せた。
***
遠い過去の記憶――。
教団から脱走したコルティノーヴィス・アルドは、追手によって殺害されたとの報告を耳にして当然だと笑った。しかし、もう一つの報告に愕然としたのを覚えている。胸を抉られたような絶望。そこから湧き上がる怒りに打ち震えた。そして、痛みと怒りを思い出しては無害の人間を衝動的に殺害して乱れる精神を鎮めて来た。
―― アルドが、あの落ちこぼれが生きていたというのか……。 姉である#イルマ#を差し置いて奴が……。
〜〜〜〜〜
今は天と地ほどの差があるかもしれない。でも、大人になる頃にはきっと隣に立ってみせる!
〜〜〜〜〜
おれが弟なら偉大な姉を支える弟になれるのに――
〜〜〜〜〜
***
――ドクンッ!――
深く沈めていた封印していた記憶、言葉、思いが、大きな鼓動が脈打ち弾けるようにして溢れ始めた。
―― 姉を犠牲にして生きるとはな。ならば……、おれが貴様を殺すまでだ。
シルヴァーノはエースから手を離して立ち上がった。そして、様々な可能性の中から思考が一つの答えに導き始めた時だ。
「シルヴァーノ様」
「――ッ!」
斥候に出していた部下が戻って来た。部下の声でシルヴァーノの思考はプツリと切れて意識が現実へと引き戻された。
「報告…せよ」
「手筈通りに第一王子、第二王子の殺害を実行に移します」
「わかった。あとは王と――」
「いえ、その前にお耳に入れたいことが」
「なんだ?」
「同胞の数が少なくなっています。それと、白ひげ海賊団がこの国に入ったという情報があります」
「なんだと……?」
部下の報告にシルヴァーノは困惑の色を示した。
―― 馬鹿な……。
「見張りはどうした! 報告は無いのか!?」
「そ、それが……、誰一人とて報告に戻らず、情報がありません」
「なっ…!?」
シルヴァーノはグッと拳を握り締めるとダンッとそれを壁に強く叩きつけた。
―― まさか、白ひげ海賊団が倒したとでも言うのか!?
この感情は『怒り』そのもの。衝動的に左手首を動かして小手具から刃を出したシルヴァーノは、エースにそれを向けようとした。だが、エースは命を奪われる恐怖に怯えるどころか、まるで勝ち誇るかのような笑みを浮かべた。その笑みにシルヴァーノはピタリと動きを止めた。
「なにを笑っている……?」
「いや、面白ェから笑ってんだ」
「面白い?」
「お前の言ってることがどういう意味かは全然わからねェが、その最も役に立たない無能な落ちこぼれってェ奴に翻弄されてんのが可笑しくってつい笑っちまったんだ。悪ィな」
「!」
エースはニシシと笑った。その男と似ているというのなら敢えて見せてやろうとワザと笑ったのだ。しかし、シルヴァーノの反応は先程と違った。怒るどころか手首を動かして刃を収めると踵を返した。そして、部下に耳打ちをして何かを告げた。
「御意」
部下は頭を下げてその場を去って行った。エースが怪訝な表情を浮かべるとシルヴァーノはエースを一瞥して背を向けた。
「おい」
「なにか勘違いしていないか?」
「なに?」
「同胞が減ろうが我々にとってはただ”道具を失くしただけ”の話だ。代わりに別の者が動けばなにも問題はあるまい」
「!」
一瞬にして空気を変えたシルヴァーノの威圧にエースは少し気圧された。情を消した完全に無機質な声音でそう言い放ったシルヴァーノは、エースを残して部屋を出て行った。
「仲間だろ……? それをただの道具だって? ふざけたこと言いやがって……」
シルヴァーノが残した言葉に眉間に皺を寄せたエースは、怒りの表情を浮かべて呟くように吐き捨てた。
そこには戴冠式に先立ち侵入していたアサシン達が設けた隠し部屋があった。その部屋の奥に立つ主柱には海楼石の錠と鎖で繋がれたエースがいた。胡坐を掻いて項垂れているのは海楼石で繋がれている為か微動だにしない。
密閉した薄暗い地下室を照らす蝋燭の火が小さく揺らめく中、椅子に腰掛けているシルヴァーノが力無く項垂れるエースを見つめていた。その視線が気になったのか、エースは頭を落としたまま「なんだよ……」と声を発した。
「なにがだ?」
「さっきからなんでおれをじっと見てんだ」
「そう思うか?」
シルヴァーノの問いにエースは項垂れていた頭を徐に起こして彼を見上げた。
「お前、おれをどうする気だ?」
「どうもしない」
「なに?」
「世界最強と称された海賊どもの実力を知りたくてな。ただ、それだけだ」
シルヴァーノの返答にエースは眉をピクンと動かした。
「てめェ…、白ひげ海賊団を敵にしてただで済むと思うなよ」
眉間に皺を寄せてギロリと睨み付けるエースにシルヴァーノは軽く肩を竦めた。そうして背凭れに背中を預けて足を組みながら腹部の上に両手を組んだ。
フードの陰に隠れて見え隠れするシルヴァーノの目元を蝋燭の灯りが差し込んで一瞬だけ見えた。
―― ッ……!
まるで底無しの穴のような、あまり生気を感じられない暗い目をしていた。人間と言うよりも機械仕掛けの人形と言った方が正しいかもしれない。アルドと同じアサシンではあるが根本的な性質がまるで違う。エースは直感的にそう思った。
「お前を捕らえるのは簡単だったが」
「五月蠅ェ……。油断しただけだ」
「他の隊長達も然して変わらんだろう」
「今の、笑った方が良いか?」
エースは口角を上げた笑みを浮かべた。海楼石で繋がれている以上できることはこうして煽ることだけだ。人に嫌味を言うことはあまり得意では無いエースだが、ドレッドヘアーの男《ラクヨウ》が脳裏に過ったので真似てみたといったところだ。きっとラクヨウならもっと馬鹿にした言い方をしているだろう。
―― あー、けど、あいつは天然でやるところがあるからなァ……。
嫌味という点において参考にすべきはイゾウやハルタ辺りが妥当かもしれない。しかし、流石にそれは高等技術過ぎて自分には無理だと直ぐに思った。頭の中でガッハッハッハッとバカみたいに笑うラクヨウの顔が鮮明に浮かぶ。――あァ、どう考えてもこのレベルがおれのできる限界か――と思った。その瞬間、心なしか悲しい気持ちが胸中に去来して小さく溜息を吐いた。
一方、エースの笑みを見たシルヴァーノは口を真一文字に結んだまま立ち上がるとエースの側に歩み寄った。さっきの嫌味で怒ったとなると見た目と違って酷く短絡的で短気な男だとエースは思った。髪を掴むなりなんなりするのかとエースが顔を上げた瞬間ドスッと鈍い音と共に腹部に激痛が走った。
「カハッ!」
エースは堪らず咳込んだ。シルヴァーノがエースの腹部に蹴りを放ったからだ。
「海賊王の息子に恨みは無いが、お前のその笑みを見ると昔を思い起こさせる」
「ごほっ! ごほっ! くそ、なんだよそれ……」
「なに、くだらん記憶だ。最も役に立たん男の笑みにあまりに似ていたんでな」
「はァはァ…、ッ、おれが、誰に似てるって?」
エースがそう問い掛けるもシルヴァーノはどこまでも暗い目で見下すだけでそれには答えなかった。くるりとエースに背中を向けたシルヴァーノは――早々に殺しておけば裏切る必要など無かったのだ――と、小さくそう呟いた。抑揚の無い低い声音は相変わらずだが、その声の中に俄かに苦渋の何かが含まれているようにエースは感じた。
―― 裏切る必要ってことは、こいつらを裏切った奴がおれと似てるってェことか?
エースは力こそ出ないが思考だけははっきりしていた。深く考え事をすることは苦手だが、今となっては考えること以外に出来ることは無い。シルヴァーノの言葉を受けて苦手な思考を回転させて考えを張り巡らせていく。自分と似ているアサシン。そんな奴が果たしているのだろうか――と、そう思った時だ。
「アルド……?」
ふっと脳裏に浮かんだアルドの姿に自然とその名を口にした。
「!」
シルヴァーノは動きを止めて振り向いた。そして、エースの元に大股で歩み寄ると片膝を突いて乱暴にエースの顎を掴み上げた。
「くっ! な、なんだよ!?」
「貴様! 今、なんと言った!?」
「!?」
これまで感情の起伏を全く見せなかったシルヴァーノが一変して大きく動揺する様に驚いたエースは目を丸くした。その一方、シルヴァーノはギリッと歯軋りをしながら「アルド……、コルティノーヴィス・アルド。何故だ…何故……?」とブツブツと言葉を零した。
「答えろ! 何故、貴様がその名を知っている!?」
「ぐっ…! あいつが、アルドが、なんだってんだよ!」
「コルティノーヴィス・アルド。奴は最も役に立たない無能な落ちこぼれの分際でありながら、我々アサシン教団にとって最も有能なアサシンを裏切りの道に引き摺り込んだ大罪者だ!」
「――!?」
エースは混乱した。
―― あのアルドが無能な落ちこぼれだって……?
シルヴァーノの言う人物とエースが知る人物があまりにもかけ離れている。アルドは白ひげ海賊団の中でも最も強いかもしれないと言われた人物だ。確かに『コルティノーヴィス・アルド』という名ではあるが。
―― ラクヨウが嘘を吐いたって?
しかし、先の島で海軍と一戦を交えた時に逃亡した海軍中将を殺したのはアルドで、パッキンという名の金持ちと、それに従う奴らを一夜にして殲滅したのもアルドだったということをマルコから聞いた。
―― 例えラクヨウが嘘を吐いていたとしても、あのマルコが嘘を吐くなんてことは百歩譲ってもねェ。
更に、マルコから信頼を得ている時点で、アルドが無能で役立たずなんてことは決してあり得ないとエースは思った。
「答えろ火拳。貴様が何故アルドの名を知っている」
「ッ…せェ、うるせェ! お前に答える義理なんざ」
「既に死んだ男の名を何故知る!!!」
「――ッ!? な…んだって……?」
エースの声を遮って叫んだシルヴァーノの言葉にエースは自分の耳を疑った。
―― アルドが…既に死んだ男だって……?
愕然とした表情で酷く戸惑うエースに、シルヴァーノは眉間に皺を寄せた。
***
遠い過去の記憶――。
教団から脱走したコルティノーヴィス・アルドは、追手によって殺害されたとの報告を耳にして当然だと笑った。しかし、もう一つの報告に愕然としたのを覚えている。胸を抉られたような絶望。そこから湧き上がる怒りに打ち震えた。そして、痛みと怒りを思い出しては無害の人間を衝動的に殺害して乱れる精神を鎮めて来た。
―― アルドが、あの落ちこぼれが生きていたというのか……。 姉である#イルマ#を差し置いて奴が……。
〜〜〜〜〜
今は天と地ほどの差があるかもしれない。でも、大人になる頃にはきっと隣に立ってみせる!
〜〜〜〜〜
おれが弟なら偉大な姉を支える弟になれるのに――
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――ドクンッ!――
深く沈めていた封印していた記憶、言葉、思いが、大きな鼓動が脈打ち弾けるようにして溢れ始めた。
―― 姉を犠牲にして生きるとはな。ならば……、おれが貴様を殺すまでだ。
シルヴァーノはエースから手を離して立ち上がった。そして、様々な可能性の中から思考が一つの答えに導き始めた時だ。
「シルヴァーノ様」
「――ッ!」
斥候に出していた部下が戻って来た。部下の声でシルヴァーノの思考はプツリと切れて意識が現実へと引き戻された。
「報告…せよ」
「手筈通りに第一王子、第二王子の殺害を実行に移します」
「わかった。あとは王と――」
「いえ、その前にお耳に入れたいことが」
「なんだ?」
「同胞の数が少なくなっています。それと、白ひげ海賊団がこの国に入ったという情報があります」
「なんだと……?」
部下の報告にシルヴァーノは困惑の色を示した。
―― 馬鹿な……。
「見張りはどうした! 報告は無いのか!?」
「そ、それが……、誰一人とて報告に戻らず、情報がありません」
「なっ…!?」
シルヴァーノはグッと拳を握り締めるとダンッとそれを壁に強く叩きつけた。
―― まさか、白ひげ海賊団が倒したとでも言うのか!?
この感情は『怒り』そのもの。衝動的に左手首を動かして小手具から刃を出したシルヴァーノは、エースにそれを向けようとした。だが、エースは命を奪われる恐怖に怯えるどころか、まるで勝ち誇るかのような笑みを浮かべた。その笑みにシルヴァーノはピタリと動きを止めた。
「なにを笑っている……?」
「いや、面白ェから笑ってんだ」
「面白い?」
「お前の言ってることがどういう意味かは全然わからねェが、その最も役に立たない無能な落ちこぼれってェ奴に翻弄されてんのが可笑しくってつい笑っちまったんだ。悪ィな」
「!」
エースはニシシと笑った。その男と似ているというのなら敢えて見せてやろうとワザと笑ったのだ。しかし、シルヴァーノの反応は先程と違った。怒るどころか手首を動かして刃を収めると踵を返した。そして、部下に耳打ちをして何かを告げた。
「御意」
部下は頭を下げてその場を去って行った。エースが怪訝な表情を浮かべるとシルヴァーノはエースを一瞥して背を向けた。
「おい」
「なにか勘違いしていないか?」
「なに?」
「同胞が減ろうが我々にとってはただ”道具を失くしただけ”の話だ。代わりに別の者が動けばなにも問題はあるまい」
「!」
一瞬にして空気を変えたシルヴァーノの威圧にエースは少し気圧された。情を消した完全に無機質な声音でそう言い放ったシルヴァーノは、エースを残して部屋を出て行った。
「仲間だろ……? それをただの道具だって? ふざけたこと言いやがって……」
シルヴァーノが残した言葉に眉間に皺を寄せたエースは、怒りの表情を浮かべて呟くように吐き捨てた。
無能な落ちこぼれ
【〆栞】