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ロスカ国の戴冠式典は、開始時刻を過ぎても始まらなかった。しかし、式典を見に来た人々達は今か今かと期待を膨らませながら大いに盛り上がっていた。
一方その頃――、
戴冠式の開始時刻だと言うのに肝心の第一王子であるランスが姿を現さなかった。第二王子であるリエトは、それをランスが『拒否』を示したものだとして王位継承の変更を申し立てた。
これに対して、王を中心に政治を担う元老院共々の協議が必要となり戴冠式の開始時間を遅らせることとなった。
結局、第一王子ランスの所在が不在のまま時間切れとなって第二王子リエトに王位を継承することになった。そうして、改めて戴冠式が行われることになった――が、またもや事態は急変した。
今度は、第二王子のリエトでさえも姿を現さないのだ。これには招待されて来た諸外国の王や貴族達、そして式典を見に来た人々が騒めき始めて式典広場は騒然となった。これに慌てた現王のイレネオは、第三王子であるネリオを呼びつけた。

「王位は第三王子に!」

この言葉に最も驚いたのは国民達だ。それは誰もが望んでいたことではあるが、誰もが望み薄だとしていた展開で、国民達は歓喜した。
一方、第三王子は困惑していた。
果たして自分が成って良いものかどうかわからずに頭を抱えた。周りを見れば、第一王子と第二王子の取り巻き達が自分を睨んでいる。そして、それぞれが兵士らしき者を呼びつけてコソコソと何やら指示を出している姿が……。
ネリオは自らの命の危機を感じた。
戴冠式が終盤に差し掛かった時、第一王子を支持する者達と第二王子を支持する者達が差し向けた兵士が、第三王子を抹殺すべく国民達を前にして堂々と動き出した。
現王のイレネオは驚いて停止命令を下した。しかし、彼らは第三王子だけでは無く、現王イレネオでさえも殺そうとした。

「グララララッ! 第三王子にゃあ取り巻きはいないようだなァ。てめェら、守ってやれ!」
「「「おう!!」」」

そこに白ひげ海賊団が乱入して第三王子を囲うように守りながら兵士達を打ち払った。
国民達はこれに驚いて逃げ出した。

「ななな、海賊じゃと!?」

イレネオ王が驚いて腰を抜かしていると黄猿率いる海軍達が宮殿を囲うようにして参上した。

「まさか、白ひげ海賊団と出くわすなんてねェ〜」
「オジキ、パシフィスタを五体持って来て正解だったってわけだな!」

黄猿は溜息を吐いた。

―― 白ひげ海賊団の出現は一大事だが……、アサシンが居ない。今はそっちの方がどうも気になるんだがねェ……。

戦桃丸はパシフィスタに白ひげ及び隊長達を駆逐するように指示を出した。パシフィスタは指示通りに攻撃態勢に入ろうとした。だが、黄猿が手を挙げてそれを止めさせた。

「オジキ!?」
「海軍として対応はするよ。しかし、その前にだねェ……」
「グララララッ! そういやァここの管轄は黄猿のお膝元だったなァ〜!」

白ひげは笑ってそう言いながら隊長達に目配せをした。隊長達はアイコンタクトでそれぞれバラバラに動き出した。
現王イレネオを守る者。第三王子を守る者。白ひげの護衛と海軍に対応する者。そして、白ひげ海賊団の退路を確保する者とエースを探す者――。





イゾウとハルタとラクヨウは、セルヴァ王宮の地下を目指していた。

「ねェ、マルコは?」
「さァな!」
「たぶん一緒にいるだろうさ!」
「どうして?」
「その理由はラクヨウが知ってる! そうだろう?」

走りながらハルタの疑問に答えたイゾウがラクヨウを一瞥した。
ラクヨウは片眉を上げると眉間に皺を寄せて軽く舌打ちをした。

―― イゾウ……、てめェの腹黒さは本当に油断ならねェ。

「本人に聞きやがれ!」

ラクヨウはそれだけ言うと二人より速く走り出して先を行く。イゾウはそれにクツリと笑うと離されまいと走力を上げた。

「何それ!?」

ハルタは困惑した表情を浮かべながら慌てるように二人の後を追った。
そして――、
三人はセルヴァ王宮の地下にある一室に辿り着いた。しかし、そこは蛻の殻で誰もいなかった。
エースを繋いでいたと思われる海楼石の錠と鎖が地面に転がっている。
イゾウとハルタが部屋の中で痕跡を探す中、「おい、こっちに通路があるぞ!」とラクヨウが声を掛けた。二人は部屋を出て奥へと向かい、ラクヨウと共にその通路を辿って行くと山腹の谷間へと抜けた。城は遥か高い山の上にある。

「相当下りたな」

イゾウが城を見上げているとハルタが遠方に指を指した。

「ねェ! あそこ!」」

大きな岩の向こう側に燃え盛る赤い炎が見えた。時折、青い炎も見えたことからエースとマルコがそこにいることがわかった。

「行くぞ!」

ラクヨウがそう言って駆け出すとイゾウとハルタもその後を追った。
森を掻き分けて行くと広い場所へ出た。すると、崖下で数人のアサシンを相手にマルコとエースが戦っている姿があった。

「加勢しなきゃ!!」
「行こう!」

ハルタが剣を抜いて崖を飛び下りるとイゾウも拳銃を手にして後に続いた。しかし、ラクヨウはその場に立ち止まって周辺を伺った。そして、眉間に皺を寄せて舌打ちをした。

―― あいつ! また単独行動か!

ハルタとイゾウが加勢に来たことに気付いたマルコは、彼らが来た方角にある崖上に視線を向けた。そこには周囲を見渡しているラクヨウの姿があった。

ヒュンッ――!

「!」

マルコは風を切るような音を耳にして咄嗟に身を翻した。

「くっ! しつこいよい!」

纏わり付くように攻撃してくるアサシンの一人に蹴りを放つと両腕を不死鳥へと化して空を舞った。

「ハルタ! 任せる!!」
「え? わっ! ちょっとマルコ!?」

マルコは蹴飛ばしたアサシンをハルタに任せてラクヨウの元へと向かった。

「余所見をするなハルタ! おれが援護する!! エース! お前もだ!!」
「お、おう! わかってる! こいつら強ェから気をつけろ!!」

ハルタとエースはマルコに目を向けたがイゾウが二人に声を掛けて目の前にいるアサシン達へと集中させた。

「ラクヨウ!」
「マルコ、アルドはどこに行きやがった?」
「シルヴァーノって奴を追った! 行くぞ!」
「お、おう、わかった! って、おれは走りか!?」

ラクヨウは一先ず頷いたが空を羽ばたくマルコに思わず叫んだ。

―― 空を飛ぶお前に大地を走って追えってェのか!? 鬼畜か!?

「足に掴まれ!」
「お、おう……!」

だよな――と、ラクヨウはマルコの足に手を伸ばした。だが直ぐにその手を止めた。

「いや、マルコ、一人で行け」
「なに?」

マルコは眉を顰めた。

「良いか? アルドに追い付いたら後を追わせるな。絶対に止めて連れて戻れ。あいつは頑固だがお前の言う事なら絶対に従うからな!」
「おい、前にも言ったが、おれの言葉なんて――」
「あいつら三人だけでアサシンの対応はできねェだろうが!」

ラクヨウはマルコにそう言うと崖下へと飛び下りた。マルコはその姿を追うようにしてエース達へと目を向けた。

「!」

エース達は押され気味で、見るからにアサシン達の方が攻勢だった。

「くっ、……わかったよい」

マルコはバサリと大きく羽ばたいてシルヴァーノとアルドが向かった方角を目指して飛んだ。
その表情には焦りの色が目に見えてあった。

「おれの言葉で留まるとは思えねェが……」

まさか、あんなアルドを見るとは思ってもみなかった。それに……――。
マルコは、これまでの経緯を思い起こしながら急いでアルドを追った。

戴冠式

〆栞
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