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(視点 : アルド軸)

先行してロスカ国内に入ったアルドは、人込みの中に紛れながらアサシン達の動向を探っていた。
『神職』に就く者は白いローブを纏う。それはアサシンとよく似た出で立ちをしている。アサシン達はその神職に成り済まして溶け込み、時が来るのを待っているのだろう。

―― 常套手段だ。

神職はアサシンにとって格好の隠れ蓑だ。嘗てのアルドも常々そうして情報収集から暗殺まで様々なことを成して来たのだ。

「少しずつ削るか……」

人数がどれだけいるのかはわからない。かと言って、捕まえて拷問したとしても口を割らないのは明白。
とりあえず、目に付いたアサシンを追っては人気の無い場所に辿り着いた時点で一人一人を確実に消していくことにした。
死体は直ぐに見つからないように、暗く細い路地裏で布等で覆い隠した。

「呆気ない……。赤いサッシュを身に付けている割に能力が追い付いていない」

腰に巻くサッシュの色で位や能力が変わる。『赤』は何か特別に秀でた能力が有るのではなく、全てにおいて『万能』を有する者を意味する。
アルドが赤いサッシュを巻くのはその名残りなのだが、自分が当時いた時はもっとレベルが高く秀でた集団だった。

―― 何かが違うのか? それとも……。

十年――、特別に何か訓練をしたわけでも無い。能力が向上したということも無い。にも関わらず、赤を相手にこうもあっさり排除を成せることに、アルドは少し戸惑いを感じていた。



初日と翌日と二日に掛けて徐々にアサシンの数を減らしていった。
あまり倒し過ぎると返って不自然な為、一定数に達すると『暗殺』はとりあえずお預けとする。
これで最後だと標的にしたアサシンの後を追う。人気の無い裏通りに入った所でそのアサシンの衣服を汚さないよう慎重に首を掻っ切って衣服を奪った。
嘗て当たり前のように来ていた衣服に身を包む。そして、予め買っておいた布袋に元々着ていた衣服を詰め込むと小手具や武器等一式と共に適当な所に隠した。

「懐かしい」

腕を返してシャキンと顔を出すアサシンブレードを見つめながら再び身に纏った白い衣に思わず目を細めて小さく息を吐いた。

「さて……、潜入開始だ」

地下にさえ入り込めば堂々とアサシンとして敵将の前に立てるだろう。だがまずは、エースの所在を確かめることが先決だ。
アルドはセルヴァ王宮へと向かう道では無く、城塞の側面に赴いた。周囲に人の目が無いことを確認すると城壁を見上げて道筋を考察する。

―― 行くか……。

手首を軽く振って僅かな出っ張りに指を掛ける。そうして、それを頼りに城壁をよじ登って行く。軽々とした身の熟しであっという間に上まで辿り着くと城壁内部を覗いた。
見回る衛兵の数は多いがアルドにとっては問題無い。衛兵が余所見をしている隙に颯爽と中へと侵入した。

―― どこから地下に……?

気配を消して隠れながら探っていると神職風の姿をした男が周囲を伺うような素振りを見せて通路を歩いて行く姿を目撃した。念の為、イーグルアイによる視覚変化でその男を見ると黄金色のオーラが見える。

「良いタイミングだ」

周囲の隙を伺いながら男の気配を追って後をついて行くと、中庭を超えた先の城壁と城壁の間にある細い通路へと入って行った。
人が一人やっと通れる細い通路だ。その先で、男が足元の出っ張りをコンッと蹴った。ガコンッという音と共に鉄の丸い蓋が鈍い音を出しながら開いた。大人一人が通れるぐらいの大きさだ。その穴に男が入って行った。

―― ……。

アルドは目を瞑ると胸に手を当てて深呼吸した。

思い出せ、昔を、あの頃を――
アサシンとしての自分を――

ゆっくりと目を開けた。そこには無機質な漆黒の瞳があり表情が一層機械的なそれへと変わった。そして、アルドは隠し通路へと続く穴の中へと入って行った。





暗闇の先に古い小屋があった。窓から灯りが漏れている。中には数人のアサシンが待機していた。そこに一人のアサシンが部屋に入ると待機していたアサシン達が立ち上がった。

「交代だ。我々は第二王子の動きを調べる」
「わかった」

待機していた数人のアサシンは、一人を残して出て行った。残ったアサシンは、彼らが離れたのを確認してからエースの方へと歩み寄った。
エースは力無く項垂れていたが、側に来たアサシンに怪訝な表情を浮かべて見上げた。

「安心しました」
「あ! お、お前ッ――むぐ!!」

残ったアサシンはアルドだ。エースが声を上げるとアルドは咄嗟にエースの口を手で塞いだ。

「静かに。人が来ます」

エースは眉間に皺を寄せてアルドを見つめた。

―― 生きてるよな……? それに、無能なんて感じは全然……。

エースが少し困惑気味な表情を浮かべているが、アルドは気にも留めなかった。それよりも、複数の人間が此処に向かって来る気配を感知して立ち上がった。

「アルド、こいつを外してくれ」
「時を見計らって撃退しますから、それまで我慢してください」
「おい、お前一人でッ――」

エースは口を噤んだ。ドアが開けられて複数のアサシンが入って来たからだ。
アサシンの一人がエースの側に立つアサシンを見て首を傾げた。

「何をしている?」
「別に……」

アルドを問い詰めるアサシンにアルドは警戒した。一定の距離を越えて近付こうものならアサシンブレードで仕留める。そのつもりだった。しかし――

「勝手をするな。第一王子の暗殺命令だ。行け」
「!」

思わぬ指示にアルドは僅かに指をピクリと動かした。そして、顔を俯かせていたエースもその指示を耳にして目を見開いた。

―― 暗殺命令って……、行けって、まさかアルドに!?

「御意」

アルドは静かにそう返事した。

―― ッ……!?

エースは思わず声を上げそうになった。制止したい気持ちで一杯だが、今はただ口を噤んで目を瞑るしかなかった。

―― アルド……。

顔を俯けたまま黙っているエースを一瞥して、アルドはその場を離れて出て行った。
まさか第一王子ランスの殺害を指示されるとは思ってもみなかった。だが、情報を集めている時に聞いた第一王子の評判の悪さは際立っていて、救いようのない男であることは知っていた。そして、第二王子に関しても同様だった。
故に、第一王子と第二王子のみ排除できれば、第三王子が王位継承となる。これはロスカ国民の望みでもあった。
アサシン達は王族の全てを殺害する計画でいるのだろうが、現王と第三王子だけを助けることができればロスカ国にとっては最善の結果となるに違いない。

「まずは、与えられた指示通りに動くか……」

ふとラクヨウの顔を思い出した。怒るだろうなと思うと、脳裏に浮かぶ姿がぐにゃりとなって別の人物に変わった。

ドクンッ……。

心臓が強く脈打ってツキリと胸に痛みが走った。思わず眉間に皺を寄せた。

―― 今回は仕方が無いことだ。あの場で戦っても良かったが、この方が最善なんだ。

アルドは振り払うように頭を振って大きく息を吐いた。

指定された場所に向かうと第一王子がいた。その周囲を屈強な衛兵達が見回っているが隙だらけだった。

―― 簡単だ……。

アルドは、衛兵達の目を盗んで第一王子がいるその場に足を踏み入れた。そうして第一王子の背後へ静かに近付いた。
第一王子は背後からふと現れた影に気付くと慌てて振り向いた。

「な、むぐっ……!」

第一王子の口を塞いで首を掻っ切ると第一王子は呆気なくその場に倒れて絶命した。
アルドは第一王子の死を確認すると窓から飛び降りて中庭に降り立った。足早に地下の隠し小屋へと戻る。そして、暗殺の指示を出したアサシンに暗殺完了のを報告した。

「全て順調だ」

報告を受けたアサシンがそう言うと周囲にいた他のアサシン達が小さく頷いた。その間に、アルドがエースの方へと歩み寄って踵を返した。

「そうか。しかし、事は急変することもある」
「なに?」

アルドの言葉に反応したアサシンに向かってアルドは目の前の椅子を蹴り飛ばした。
アサシンは咄嗟にそれを避けるとアルドが左のアサシンブレードでそのアサシンの喉を一瞬にして掻っ切った。それと同時に剣を引き抜いて構えた。
アサシン達は酷く動揺しながらも剣を引き抜いて身構えた。その内の一人が小屋のドアを開け放ち、彼らはジリジリと後退し始めて通路へと出た。
出口に差し掛かったアサシンがアルドに攻撃しようと動きを見せた。それに連動して他のアサシン達も動こうとした。
アルドはそれに対処しようとした時、別の気配に気付いてハッとした。

―― まさか!

攻撃を仕掛けようと動き出したアサシンが青い光を伴う者に蹴られて吹き飛ばされた。そして、アルドとアサシン達の間に割ってその場に降り立った。

―― また尾行された……?

アルドがそう思う一方でクツリと笑ったのはマルコだ。

「案外おれにも能力があるのかもしれねェなァ」
「…………わざとですよ」
「負け惜しみにしか聞こえねェよい」

マルコがそう言うとアルドは思わずムッとした。
この様な心情的な反応は、ラクヨウと対話をする時ぐらいしかなかった。しかし、その変化にこの時のアルドは気付いていなかった。
アサシン達に警戒しながら更なる増援が無いか、周辺の気配を探る為に意識を張り巡らせていたから――。





ポツポツと雨が降り始めた。
冷たい滴が身体に容赦無く打ち付けて、ぼやける視界の先には刀身が折れた剣の柄を力無く握る自分の手。

―― あの時、ラクヨウ隊長と話をしている時みたいに、気持ちが動いたのか……。

ザァァァ……と、雨粒が草木に弾かれて大きな音を奏でている。その音を耳にしながら体温が徐々に奪われて全身から力が無くなっていくのがわかる。
ズクリと痛む腹部を抑える左手に、生暖かく伝うそれは止まることを知らない。

「ッ……、ハッ……、アルドッ……。し、死ぬ時はッ……、こんなに、呆気ない…んだな……」

瞼が重くなってゆっくりと閉じた。

もう良いだろうか。
もう終わりたい。
ねェ、アルド――。

ずっと聞こえていた雨音が徐々に聞こえなくなっていく。

ごめん……。
ごめん…なさい……。

意識が薄れて行く中、最後に浮かんだのはマルコへの想いだった。

潜 入

〆栞
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