10年前のその日、外からはとても恐ろしい、強い気配がした。気配だけでもそれは悪いモノと分かった。

「……お父、様…?」

「霞…?」

ふと、外の気配に意識を向けると急に流れ込んできた記憶の断片。無意識の内に呟いた言葉にお兄様は驚いた表情をして私を見やった。

「っ……!」

気付いた時には、外に駆け出していた。お義父様の姿を見つけ、傍まで駆け寄る。

「霞!駄目だ、戻るんだ!」

お義父様は私に気付くと、焦ったような声を出して私を庇うように私の前に立った。ぎゅ、とお義父様の服の裾を掴む。

「……李土、お父様…」

「……僕に気付いたか…さすが僕の娘だ」

先程見た記憶の断片に出てきた名前を呟くと、紅と蒼の左右色違いの瞳をした(ひと)が、私を見てニヤリと笑った。

「僕に似た可愛い子だ……」

「っ……お兄様…!」

目の前の男の言葉に、お義父様は怒りを露わにした表情で男の姿を睨み付けた。

「さぁ…おいで。僕の可愛い娘…」

男が私に手を差し出す。まるで操作でもされているかのように、行きたくないという自分の意思に関係無く脚は男に向かって動き始めた。


「霞っ!」

「……お義父様…」

男に向かって歩き出す私の腕を、お義父様の手が掴んだ。その瞬間、男の纏う空気が変わったのが目に見えて分かる。怒って、いる。

「悠…………また、お前か」

地を這うようなほどの低い声を上げて男はお義父様を睨み上げる。刹那、ハンター達の剣でお義父様の身体が斬りつけられる。その傷口から溢れ出る血とその香りで、頭がおかしくなりそうだった。