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十年後−−−。
私立黒主学園。お兄様が設立した、
「霞、用意は終わったかい?」
ベッドルームの扉の前から、お兄様のそんな声が聞こえた。心配だからと特別にお兄様の部屋と私の部屋を繋げた扉から入って来たのだろう。
「はい、お兄様」
「失礼するよ」
私の返事を聞くと、そう言ってお兄様はベッドルームの扉を開けた。この学園に来て数ヶ月。毎日同じ時間に繰り返されるこの会話にはもう慣れた。
「…リボン、崩れているよ」
「あ…」
霞はリボンを結ぶのが下手だね、なんて言ってくすりと笑う。お兄様の細い指が私の胸元のリボンに伸ばされ、するりと解き綺麗に結び直されていく。
「ありがとう、お兄様」
素直に感謝の言葉を溢すと、また優しく笑って私の手を取った。お兄様に連れられる様に自室を出て、長い階段を降りて生徒達が集まるロビーへと向かう。
「おはようございます。枢様、霞様」
「おはよう」
ロビーに着くと一礼しながら挨拶をしてくれる生徒達に、笑顔で挨拶を返す。正直、様付けで呼ばれるのはあまり好きではないけれど、それを藍堂英というまるでアイドルのような彼に言うと義理であろうと枢様の妹君だし、純血種だからそうお呼びしてるんだ、今更変えることは無理だ、と言われてしまったので諦めた。
「じゃあ、行こうかーー」
お兄様のその言葉を合図に、エントランスが開かれ、お兄様を一番前にして歩き出す。ここで、自然と繋がれていた手は離れる。