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「早く出てきてー!」

「ちょっと押さないで!」

月の寮の門に近付いていく度に段々と大きくなる普通科(デイ・クラス)の生徒達の歓声。これも、毎日のように聞いていたら慣れてしまった。

普通科(デイ・クラス)の皆さんはもう門限ですから自分の寮に帰って!」

ただの人間になり、ここ黒主学園で風紀委員−−もとい、学園守護係(ガーディアン)を勤める優姫の声が聞こえる。きっと普通科(デイ・クラス)の生徒達を必死で抑えているんだろう。ガシャン、と大きい音が鳴る。その音を合図に、更に歓声は大きくなった。

「きゃあっ…出てくるわ…!」

ギイィ…と重い扉が開く音がすると、いつの間にか先頭に居た藍堂くんに続いて夜間部(ナイト・クラス)生達が校舎に向かって歩き出す。私は、お兄様の横に並んだまま歩く。

「おはようーっ女の子たち。今日も元気でかわいいねぇ」

「きゃっ…」

藍堂くんが笑顔で言った途端、一際大きい黄色い歓声が上がる。それと共に、普通科(デイ・クラス)生達は藍堂くんに向かって走り始めた。

「あ!」

生徒達に押された優姫が私とお兄様の目の前に倒れ込んだ。そんな優姫に、お兄様がしゃがみ込んで優しく声を掛ける。私も同じ様に優姫の前にしゃがみ込んだ。

「大丈夫かい、優姫。いつもご苦労様」

「怪我は無い…?」

「…枢センパイ、霞センパイ!」

私達の声に気付くと、頬を紅く染めながら勢いよく立ち上がる優姫。照れている優姫は本当に可愛いな…なんて思った。

「はい…大丈夫です!」

「君はいつも僕にかしこまっているね。少し、寂しいな…」

「あっ…いやっ…だって…枢センパイは私の命の恩人ですからっ」

そう言いながら顔の前で手をぶんぶんと横に振る優姫。十年前、吸血鬼に襲われていた優姫を助けたのがお兄様だったらしい。

「もう気にしないで。そんな昔の事…」

そう言ってお兄様は優姫の頭を撫でようと手を伸ばす。−−が、それは普通科(デイ・クラス)の制服を着た銀髪の少年、錐生零によって遮られた。

「授業が始まりますよ、玖蘭先輩」

「零くんっ、」

零くんがお兄様の手首を掴むのと同時に、私は止める様に零くんの腕を掴んだ。お兄様はちらりと私の方を見て、大丈夫だよ、と言う様に微かに笑った。そして零くんの手から手首を逃がす。

「恐いね、風紀委員さん」

それだけ言って、お兄様は私の背中を優しく押しながら校舎へと歩き始めた。またその道中、お兄様は木々の中から現れた普通科(デイ・クラス)生から小さい薔薇を受け取っていたけれど、それは数分もしない内に枯れてしまった。