うちは一族

火影が家を訪れる。

その一報を受けた時、オビトが最初に思ったのは、祖母ちゃんが驚くだろうということだった。

次に思ったのは、卒業と下忍登録の説明だけなら、火影塔の事務方か忍者学校の教師が来るのではないか、ということ。

そして実際に戸を開けたところで。

「突然すまぬな、オビト」

猿飛ヒルゼンが立っていた。

単身ではない。

その半歩後ろには、中忍の装束を着た事務官らしい男が控えている。両腕には書類箱が抱えられ、卒業認定書、下忍登録に必要な用紙、任務規定、保護者への説明資料と思われる紙束が、隙間なく詰め込まれていた。

正式訪問。

どう見ても、その類いだった。

「火影様」

オビトが目を瞬くと、ヒルゼンは穏やかに頷いた。

「祖母御はおられるかの」

「いますけど……」

何となく嫌な予感がした。

自分にではない。

火影の方に。

居間へ通されたヒルゼンと事務官は、祖母の前へ座った。

祖母ちゃんは火影が来たからといって、必要以上に畏まることはなかった。茶を出し、オビトを自分の隣へ座らせ、向かいにいるヒルゼンへ静かに目を向ける。

事務官は少し離れた場所へ座り、書類箱を開いた。筆記具を取り出し、白紙の記録用紙を膝元へ置く。

その姿を見て、オビトは背筋を伸ばした。

本当に正式な話らしい。

「本日は、オビトの忍者学校卒業認定と、下忍登録について説明に参った」

ヒルゼンが切り出す。

「忍者学校での成績、先日の実技、本人との対話を踏まえ、卒業相当と判断した。正式な手続きが済み次第、下忍として登録する方針じゃ」

祖母ちゃんは、まずオビトを見た。

驚きはある。

誇らしさも、きっとある。

だが、それをそのまま表へは出さなかった。

「そうですか」

短く答え、再びヒルゼンへ向く。

「それで、下忍になったあとは、どのような任務へ出るのでしょう」

いきなり本題へ入った。

ヒルゼンもそれを予想していたらしく、落ち着いた声で答える。

「当面は里内、もしくは里の近隣で行う低危険度の任務を中心に考えておる。年齢と経験を踏まえ、いきなり危険な任務へ出すことはせぬ」

事務官の筆が走る。

祖母ちゃんは頷かなかった。

「低危険度とは、具体的には」

一段深く来た。

「荷運び、清掃、農作業の補助、捜し物、簡単な護衛などじゃ」

「簡単な護衛とは?」

「里内、あるいは里の近くで、危険が想定されにくいものを指す」

「想定されにくいだけで、危険がないわけではありませんね」

ヒルゼンが一拍置く。

「そうじゃ」

誤魔化さなかった。

事務官の筆が止まらない。

「任務中の指揮は、誰が執るのでしょう」

「配属による。上忍、あるいは中忍が指揮を執る班へ入れる予定じゃ」

「予定、ということは、まだ決まっていない?」

「最終調整中じゃ」

「決まる前に下忍へするのですか」

祖母ちゃんの声は穏やかだった。

だが、質問に逃げ道がない。

ヒルゼンの額に、薄く汗が浮かんだ。

「登録と配属は別の手続きとなる。されど、指導役が定まらぬまま単独で任務へ放り出すことはせぬ」

「単独では出さない、と」

「うむ」

事務官が書き留める。

祖母ちゃんは次へ進んだ。

「任務へ出た日は、帰還予定を家へ知らせていただけますか」

「可能な限り、事前に知らせる」

「可能な限り、では困ります」

即座だった。

「五歳です。朝に出て、夕方までに戻るのか。日を跨ぐのか。予定が変わったのか。何も分からないまま待たせるおつもりですか」

「いや、そのようなことはせぬ」

ヒルゼンは姿勢を少し正した。

「任務ごとに、予定と指揮官を明確にする。帰還予定を過ぎた場合は、班側から火影塔へ報告させる。その後、家へ連絡を入れる」

「どの程度遅れた時点で?」

また細部へ入った。

事務官の筆が、一瞬だけ止まった。

すぐに再開する。

ヒルゼンは考えた。

「任務内容による。里内任務なら半刻、里外なら定めた報告時刻を過ぎた段階で確認を始める」

「確認とは、ただ待つのですか。それとも探すのですか」

「まず指揮官や近隣の連絡所へ照会する。異常が疑われれば捜索へ移る」

「誰の判断で?」

「火影塔の任務管理担当。重大な場合は、わしが判断する」

祖母ちゃんはそこで一度だけ頷いた。

オビトは横で、二人のやり取りを見ていた。

自分の卒業説明だったはずだ。

なのに、だんだん火影が事情聴取を受けているように見えてきた。

事務官は表情を変えない。

ただし、最初に用意した記録用紙の一枚目は、もうほとんど埋まっていた。

記録事項、多いな。

たぶん内心ではそう思っている。

「負傷した場合は」

祖母ちゃんの問いが続く。

「誰が、どの段階で、家へ知らせるのでしょう」

「軽傷なら帰還後に説明となる場合もある。治療が必要な負傷なら、医療担当から火影塔へ報告が上がり、そこから家へ知らせる」

「軽傷の基準は?」

「任務続行に支障がなく、医療施設での処置を必要としない程度」

「本人が大丈夫だと言えば、傷があっても軽傷になるのですか」

ヒルゼンの視線が、オビトへ向いた。

オビトはそっと目を逸らした。

祖母ちゃんもこちらを見る。

「この子は、平気な顔をします」

知っている。

非常によく知っている。

「痛くても、疲れていても、自分で動けるなら大丈夫と言います」

ヒルゼンが咳払いをした。

「本人の申告だけでは判断せぬ。指揮官が状態を確認し、必要なら医療忍へ診せる」

「必要かどうかを、その指揮官が軽く見た場合は?」

また逃げ道が消える。

ヒルゼンの額の汗が増えた。

事務官は二枚目の記録用紙を出した。

オビトは少しだけ火影へ同情した。

祖母ちゃんは強い。

忍術を使うわけではない。

声を荒らげるわけでもない。

ただ、一つずつ現実を突きつけ、曖昧な部分を許さない。

「監督責任は、誰が負うのです」

祖母ちゃんが問う。

「任務中は指揮官じゃ」

「その指揮官を選ぶのは?」

「火影塔じゃ」

「任務を選ぶのは?」

「最終的には、わしじゃ」

「では、五歳の孫を任務へ出す責任は、火影様がお持ちになると」

部屋が静かになる。

ヒルゼンは祖母ちゃんの目を見返した。

押されてはいる。

だが、ここで逃げることはしなかった。

「そうじゃ」

声ははっきりしていた。

「最終的な任務選定と監督責任は、火影であるわしが負う」

事務官の筆が、力強く一行を書き加えた。

祖母ちゃんはしばらく黙っていた。

「必ず無傷で帰すと、約束できますか」

オビトがわずかに顔を上げる。

それは、答えにくい問いだった。

ヒルゼンも分かっている。

「できぬ」

静かな返答だった。

祖母ちゃんの表情は変わらない。

「危険な任務には、一切出さないと」

「それも約束できぬ」

「常に予定どおり帰還させると」

「約束できぬ」

空気が張る。

事務官の筆だけが、小さな音を立てていた。

ヒルゼンは続ける。

「忍として登録する以上、任務には危険が伴う。どれほど低い危険と見積もっても、必ず無事とは言い切れぬ。予定が狂うこともある。敵に遭遇する可能性も、事故が起きる可能性も消せぬ」

祖母ちゃんは黙って聞いている。

「守れぬ約束をして、安心させることはせぬ」

ヒルゼンの声に、火影としての硬さが戻っていた。

「その代わり、年齢、経験、能力を踏まえて任務を選ぶ。任務ごとに指揮を執る者を明確にする。単独で放り出さぬ。負傷や遅延があれば、定めた系統から家へ知らせる」

そして、もう一度。

「その判断と責任は、わしが負う」

祖母ちゃんは長く息を吐いた。

反対ではない。

オビトにも、それは分かった。

忍になるなとは言わない。

任務へ出るなとも言わない。

オビトが選んだ道を、祖母ちゃんは奪おうとしていない。

ただ、その選択を都合よく利用されることだけは許さないのだ。

「三つ、お願いします」

祖母ちゃんが言った。

「聞こう」

「五歳だからと、軽く扱わないこと」

ヒルゼンが頷く。

「強いからと、便利に使わないこと」

二度目の頷き。

「本人が平気そうにしているからと、無理を見過ごさないこと」

三度目。

今度は、少し重い。

「当然の要求じゃ」

ヒルゼンが答えた。

「忘れぬ」

祖母ちゃんはそこで初めて、わずかに肩の力を抜いた。

話は終わった。

いや、事務官の記録を見る限り、当初の予定よりかなり増えている。

用意された説明資料の余白にも、補足が書き込まれていた。

火影塔へ戻れば、清書と共有が必要になるだろう。

大変そうだ。

オビトは静かに座りながら、自分より火影の方が疲れているように見えた。

事務官は最後まで無言だった。

書類をまとめ、追加された確認事項を順に揃え、箱へ戻す。

その表情は一切崩れない。

ただ、箱の中の紙は来た時より明らかに増えていた。

ヒルゼンが立ち上がる。

「正式な通知は、忍者学校からも届く。配属については、決まり次第改めて説明する」

祖母ちゃんも立った。

「承知しました」

「オビト」

呼ばれ、オビトは顔を上げる。

「祖母御に心配をかけぬようにな」

「はい」

反射的に答えた。

祖母ちゃんの視線が刺さる。

「なるべく」

言い直す。

ヒルゼンが小さく笑った。

それから事務官を伴い、家を出ていく。

戸が閉まったあと、居間に静けさが戻った。

オビトはしばらく座ったまま動かなかった。

「祖母ちゃん」

「何だい」

「火影様、だいぶ汗かいてたな」

「説明を求めただけだよ」

「事情聴取に見えたけど」

「五歳の孫を任務へ出すんだ。あれくらい当然だよ」

正論だった。

反論できない。

祖母ちゃんは卓上の茶を片づけながら、ちらりとオビトを見る。

「それから」

「はい」

「平気だからと黙るんじゃないよ」

「……はい」

逃げられなかった。

家を出たヒルゼンと事務官は、火影塔へ戻る道を歩いていた。

しばらく、どちらも口を開かなかった。

やがてヒルゼンが額の汗を拭う。

「記録は取れたか」

「はい」

事務官は即答した。

「当初の予定より、確認事項が三十二項目増えました」

「三十二」

「補足を含めると四十一です」

ヒルゼンが遠い目をした。

事務官は無表情のまま続ける。

「今後、年少者を早期卒業させる場合の保護者説明資料へ、反映可能かと」

「そうしてくれ」

「承知しました」

筆記の手は止まっても、仕事は終わっていなかった。

その日の夕刻。

オビトがいつものように買い物へ出た時、里の空気は平穏に見えた。

道端では子どもが遊び、店先では夕餉の品が並び、任務帰りの忍が行き交う。

呪霊もいる。

塀の陰に一体。

屋根の端に二体。

人の肩へ取りつこうとするものを、オビトは歩きながら切った。

「解」

黒い塵が消える。

そのまま角を曲がる。

そこで、別の気配を拾った。

呪霊ではない。

人だ。

姿は見えない。

だが、いる。

建物の影。

少し離れた屋根。

こちらを直接見続けているわけではない。視線を外し、位置を変え、気づかれないよう追っている。

素人ではない。

任務中の忍が偶然通った気配でもない。

監視。

オビトは歩調を変えなかった。

店先で野菜を見て、値段を確かめ、祖母ちゃんに頼まれたものを籠へ入れる。

内心では、すでに周囲の配置を拾っていた。

一人。

いや、二人。

もう一人、少し遠い。

連携している。

誰だ。

火影直属の監視か。

うちは側か。

それとも。

オビトは買った品を受け取り、礼を言って店を出た。

帰り道を少し変える。

狭い路地へ入り、呪霊を一体祓う。

「解」

その瞬間だけ、背後の気配が止まった。

見えていないはずの何かを切ったことに、気づいたのか。

いや。

術そのものは認識できなくとも、オビトが何もない場所へ注意を向けたことは見えたかもしれない。

まずい。

監視の質が上がる。

誰だ。

火影なら、もっと堂々と人をつけるか、少なくともこちらが気づく程度の雑な真似はしないだろう。うちはなら、集落内での接触を選ぶ。

残るのは。

「根っこが動いたか」

小さく呟く。

面倒くせぇ。

ダンゾウ。

まだ確証はない。

だが、あの男なら動く。

幼い。

うちは。

異常な実力。

火影が目をつけた。

それだけ条件が揃えば、放っておくはずがない。

オビトは何も気づいていないふりをしたまま、家へ向かった。

監視を外そうとはしない。

外せば、気づいていると伝わる。

今は相手の目的を見たい。

自分だけならいい。

祖母ちゃんへ近づくなら、話は別だ。

家の近くまで来たところで、監視の気配は薄れた。

一線は越えないらしい。

少なくとも今のところは。

その数日後。

オビトのもとへ、うちは一族から呼び出しが届いた。

形式上は、卒業と下忍登録についての確認。

一族の子どもが異例の早さで忍者学校を卒業する以上、顔を出すのは自然なことだった。

自然。

たぶん。

だが、指定された場所が一族の会合所であり、同席者の名が伏せられている時点で、嫌な予感しかしない。

祖母ちゃんは呼び出し状を読み、眉を寄せた。

「一人で行くのかい」

「集落の中だし、大丈夫だよ」

「誰がいるのか書いてないじゃないか」

「フガクさんはいると思う」

「他は?」

「分かんない」

祖母ちゃんの眉間の皺が深くなる。

「何かあったら、すぐ帰ってくるんだよ」

「分かってる」

「強いからって、何でも受けるんじゃないよ」

「……何で組手がある前提?」

祖母ちゃんは答えなかった。

勘が鋭い。

そして実際。

会合所へ着いたオビトを待っていたのは、フガクと、一族内でも実力者として知られる数人の忍だった。

座敷で簡単な挨拶を交わしたあと、話はすぐに本題へ入った。

忍者学校での成績。

火影との組手。

卒業認定。

下忍登録。

一族として確認したいことがある。

そこまでは分かる。

だが。

「実際の動きを見せてもらいたい」

年長の男がそう言った瞬間、オビトは目を瞬いた。

「今から?」

「訓練場を用意してある」

準備済みだった。

逃げ道がない。

マジか。

そう思っている間に、話は進んだ。

一対一。

術の使用は控えめ。

相手を負傷させない範囲。

一族の実力者が順に相手をする。

幼気な五歳児虐め反対。

オビトは心の中で抗議した。

誰にも届かなかった。

最初の相手は、警務部隊に属する若い男だった。

体格差は大きい。

相手は様子を見るつもりらしく、構えも浅い。

開始の合図。

オビトは五歳児らしく動こうとした。

本当に。

最初の数手は。

だが、相手が速度を上げ、足払いから肘へ繋げた瞬間、身体が勝手に反応した。

懐へ潜る。

重心を崩す。

肩へ触れ、力を流す。

相手が体勢を戻す前に背後へ回る。

「そこまで」

見ていた者が止める。

若い男が振り返った。

驚いた顔。

オビトは視線を逸らした。

一人目からやった。

次は、もう少し抑える。

二人目。

今度は手数の多い相手だった。

牽制。

蹴り。

腕を取る動き。

連続してくる。

オビトは守りに徹した。

徹したはずだった。

だが、相手の癖が見える。

右へ入る前に肩が浮く。

蹴りのあと、左足へ体重が残る。

そこを使えば崩せる。

気づけば、使っていた。

相手の足を絡め、地面へ倒す。

怪我はない。

綺麗に転がしただけ。

周囲が静かになる。

オビトは心の中で頭を抱えた。

三人目。

今度は最初から本気に近かった。

火影との組手を聞いているのだろう。

試すというより、暴くつもりで来ている。

踏み込みが鋭い。

拳が頬を掠める。

オビトの中で、何かが切り替わった。

考えるより先に、戦闘の感覚が前へ出る。

間合い。

呼吸。

視線。

相手が次に何を狙うか。

危険へ入るほど、頭が澄む。

相手の手首へ触れ、身体を回す。

肘を避け、脇へ潜る。

一撃。

抑えた拳。

相手が受ける。

その直後、遅れてチャクラが響いた。

逕庭拳。

相手の腕が跳ねる。

周囲の空気が変わった。

またやった。

オビトはそう思った。

だが、もう遅い。

相手も目を変えた。

本格的になる。

そして、こちらも。

楽しくなってくる。

本当に、学習しない。

「そこまで」

フガクの声が飛んだ。

二人の動きが止まる。

相手の男は息を整えながら、オビトを見た。

軽く見ていた目ではない。

フガクが前へ出る。

「最後は、私が見る」

オビトは固まった。

幼気な五歳児虐め反対。

心の中で二度目の抗議。

フガクは表情を変えない。

「構えろ」

「……本気ですか」

「お前の力を見極める」

「俺、五歳なんですけど」

「知っている」

知っていてやるのか。

幼気な五歳児とは。

その定義が分からなくなってきた。

オビトは渋々、構えた。

フガクも向かいに立つ。

一族の空気が静まる。

これまでの相手とは違う。

立っているだけで分かる。

隙が少ない。

重心がぶれない。

視線も、こちらの表面だけを見ていない。

マヒトの息子として。

うちはの子として。

火影が認めた少年として。

全部まとめて測ろうとしている。

開始の合図はなかった。

フガクが動いた。

速い。

オビトも地面を蹴る。

一瞬で間合いが消えた。

拳と掌が交差する。

小さな身体が低く沈む。

フガクの腕の下へ潜り、脇腹へ入る。

止められる。

肘が下りる。

オビトは半歩ずれ、そのまま背後へ回ろうとする。

フガクが身体を捻る。

足が来る。

避けきらず、腕で受ける。

衝撃。

土の上を滑る。

止まる。

顔を上げる。

フガクの目は、もう子どもを見る目ではなかった。

オビトの口元が、わずかに上がる。

まただ。

やばい。

火影の時と同じ。

強い相手を前にすると、隠すことより届くことを考えてしまう。

フガクが踏み込む。

オビトは足裏へチャクラを集めた。

小さな身体が弾ける。

低い重心。

短い間合い。

潜り込む。

拳を打つ。

受けられる。

遅れて、二度目の衝撃。

フガクの腕が揺れた。

周囲から息を呑む音。

オビトは止まらない。

攻撃を繋ぐ。

フガクも応じる。

速度が上がる。

踏み込み。

受け。

崩し。

誘い。

互いに一手先を探る。

五歳児らしさは、とうに消えていた。

最後にフガクの手がオビトの肩へ届き、押し込む。

オビトは地面へ片手をつき、身体を回して逃れる。

そのまま足を払う。

フガクが跳ぶ。

着地地点へ拳を置く。

フガクの掌がそれを止めた。

「そこまで」

低い声。

二人が止まる。

静寂。

オビトは呼吸を整えながら、周囲を見る。

また誰も喋っていない。

フガクはしばらく、オビトを見ていた。

やがて一言だけ告げる。

「分かった」

何が。

どこまで。

聞きたかったが、聞かない方がいい気もした。

オビトは構えを解く。

「帰っていいですか」

「今日はな」

今日は。

その言い方が怖い。

会合所を出ると、空はもう夕方へ傾いていた。

オビトは大きく息を吐く。

火影。

祖母ちゃん。

根の監視。

うちは一族。

フガクとの組手。

下忍登録前から、周囲が騒がしすぎる。

「面倒くせぇ……」

思わず漏れた。

それでも家へ向かう足は止めない。

祖母ちゃんが待っている。

帰宅予定を過ぎれば、さっそく火影塔へ連絡事項が一つ増える。

それだけは避けたかった。


〆栞
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