何でも屋

根の本部へ持ち帰られた報告書は、これまでのものとは明らかに性質が違っていた。

志村ダンゾウは、机上へ広げられた数枚の紙を黙って読んでいた。

うちはオビト。

五歳。

忍者学校を異例の早さで卒業し、火影直属の変則的な下忍として登録。

ここまでは、火影側も一族側も把握している。

問題は、その先だった。

印を結ばずに発動した風遁。

同じく無印で操られた水遁。

視認できない刃による切断。

周囲の水を複数の弾へ変え、軌道まで変化させる精密な操作。

そして、根の忍たちには何も見えない空間へ向けられた攻撃。

「不可視の標的か」

低い声が落ちる。

報告に立つ暗部は、片膝をついたまま頭を上げなかった。

「対象は、我々とは別の何かを認識していた可能性があります」

「感知術ではないと?」

「少なくとも、単なる索敵には見えませんでした。攻撃を避け、反撃し、標的が消えた後に別の対象へ意識を移しています」

「敵影は」

「確認できません」

幻術の可能性。

独自の感知術。

視覚に依存しない察知。

あるいは、根の側がまだ知らない何か。

結論を出すには材料が足りない。

ただ一つ、確かなことがある。

力ずくで連行できる相手ではない。

正面から囲めば、オビトは即座に状況を把握し、相手を殺さず無力化する。五歳という年齢を前提に組み立てた作戦は、すでに一度破綻した。

「回収方針を改める」

ダンゾウが告げた。

「再び力で押さえることは許さん」

暗部の面がわずかに上がる。

「では、接触は中止しますか」

「否」

杖の先が、床を一度打った。

「任務中を狙え」

「任務中に?」

「火影は、あれを固定班へ置かなかった。任務ごとに異なる班へ加えるという」

一つの班に属さない。

決まった指導役もいない。

周囲の忍は毎回変わり、互いの癖も能力も把握しきれない。

その形には、火影なりの教育上の意図があるのだろう。だが同時に、隙も生まれる。

「班から離れた時を見定めよ。戦闘、捜索、伝令。孤立する場面はいずれ来る」

「その場で勧誘を?」

「まずは見る」

ダンゾウは報告書へ目を落とした。

「何を優先し、誰を助け、何を切り捨てるか。あれの行動原理を掴め」

人を助ける。

その一点が本質ならば、利用できる。

困窮する者。

危険に晒された者。

救援を求める声。

それらを適切に配置すれば、オビトは自ら動く。

命令ではなく、本人の意思で。

「駒は、無理に握れば折れる」

ダンゾウの声は冷たかった。

「自ら盤上へ上がるよう仕向ければよい」

同じ頃。

オビトは火影塔の受付で、一枚の任務票を受け取っていた。

「本日の参加班はこちらです」

事務官が告げた。

任務票の上には、知らない名が三つ並んでいる。

中忍一人。

下忍二人。

そして、臨時参加として自分。

「全員、年上?」

「最年少でも十三です」

「だよな」

五歳と同年代の下忍など、そうそういない。

オビトは紙を折り、忍具入れへしまった。

集合場所は里の東門前。

任務内容は、里内から近郊にかけての雑務補助。戦時下で手の回らなくなった依頼をまとめて処理する形式らしい。

荷運び。

設備修繕。

迷子の家畜の捜索。

必要に応じて周辺警戒。

何でも屋だった。

介護ヘルパー戦隊から、正式に何でも屋へ昇格したらしい。

東門へ着くと、すでに三人が待っていた。

指揮官は三十代ほどの中忍。

日に焼けた顔で、背には短刀を負っている。

残る二人は十代の下忍だった。

一人は細身の少年。

もう一人は、肩までの髪を後ろで括った少女。

三人の視線が、一斉にオビトへ集まった。

そして、一度下へ落ちる。

小さい。

分かりやすくそう思った顔だった。

「うちはオビトです。本日、臨時参加します」

オビトが頭を下げる。

中忍は少し遅れて頷いた。

「班長の羽村トキオだ」

続いて二人が名乗る。

少年はシン。

少女はナツメ。

二人ともオビトを見ている。

特にシンは、隠す気もなく困惑していた。

「本当に下忍?」

「登録上は」

「五歳なんだろ」

「そうだけど」

「忍者学校は?」

「卒業した」

「早くない?」

「俺もそう思う」

返答に迷いがなさすぎて、逆にシンが黙った。

ナツメは少し慎重だった。

「火影様の特別授業で、組手をした子よね」

「噂になってる?」

「少し」

少しではない顔をしている。

トキオが咳払いをした。

「任務中は年齢に関係なく、指示に従ってもらう」

「分かりました」

「勝手な行動は避けろ」

「必要なら確認します」

「必要なら、ではない。基本は確認だ」

「はい」

オビトは素直に頷いた。

相手もこちらを測っている。

五歳。

うちは。

火影直属。

異例の卒業。

扱いにくい条件が並びすぎている。

一方、オビトも三人を見ていた。

トキオは慎重。

声を荒らげず、最初に指示系統を明確にする。

シンは感情が顔へ出やすい。

ナツメは周囲を見ながら言葉を選ぶ。

固定班ではない以上、毎回こうして相手を一から読む必要がある。

面倒ではある。

だが、その分だけ違う人間の動きを知れる。

火影の思惑どおりなのが腹立たしい。

最初の依頼は、倉庫から病院へ薬草を運ぶことだった。

大した任務ではない。

そう思ったのは、最初だけだった。

荷を積んだ台車は片側の車輪が軋み、坂道へ入ると妙に流れる。人手不足で整備が後回しになっていたらしい。

「押します」

オビトが後ろへ回る。

シンが振り返った。

「重いぞ」

「見れば分かる」

「いや、お前の体格じゃ」

言い終わる前に、オビトは台車へ手をかけた。

力任せには押さない。

車輪の向きと坂の傾斜を見て、片側へかかる荷重を逃がす。足裏へ薄くチャクラを流し、滑らないよう地面を捉える。

台車が安定した。

「そっち、右を少し上げて」

ナツメへ声をかける。

「え?」

「車輪が歪んでる。このままだと次の石で外れる」

トキオがすぐに確認した。

「シン、前を持て。ナツメは右側を支えろ」

「はい」

四人で位置を変える。

予想どおり、少し先の段差で車輪が大きく揺れた。

それでも荷は崩れなかった。

シンが横目でオビトを見る。

「よく分かったな」

「音が違ったから」

それだけ答えた。

次の依頼は、逃げた山羊の捜索。

里の外縁にある農家で、柵が壊れ、一頭が林へ逃げたらしい。

足跡はすぐに見つかった。

だが途中で途切れる。

シンが周囲を見回した。

「木に登ったわけじゃないよな」

「山羊だからな」

ナツメが呆れる。

オビトはしゃがみ、地面へ触れた。

湿った土。

削れた苔。

低い枝に引っかかった毛。

「左」

「分かるの?」

「この枝、折れ方が新しい。足跡は石の上に移ってる」

トキオが先に進み、確認する。

林の奥から、小さな鈴の音がした。

山羊は斜面の窪みに落ち、脚を挟まれていた。

「待て」

トキオが全員を止める。

地面が脆い。

近づけばさらに崩れる可能性がある。

「縄を使う。シン、固定できる木を探せ。ナツメは農家へ追加の道具を」

指示が飛ぶ。

オビトは窪みの位置と斜面を見た。

山羊が暴れるたび、土が少しずつ崩れている。

待てば脚を痛める。

だが、勝手に入れば班の動きを乱す。

「班長」

「何だ」

「俺なら、右側の岩を使って下りられます。上から縄をもらえれば、山羊を先に固定できる」

トキオが斜面を見る。

「崩れた場合は」

「岩の裏へ逃げます。駄目なら跳んで戻る」

「軽いから行ける、か」

「はい」

短い判断のあと、トキオが頷いた。

「許可する。無理だと思った時点で戻れ」

「了解」

オビトは低く身体を落とし、岩の突起を使って斜面へ下りた。

五歳の小さな身体が、ここでは有利だった。

足場へかかる重さが少ない。

狭い隙間も通れる。

山羊へ近づき、首へ手を添える。

「暴れんなって。今出すから」

声をかけると、山羊の動きが少し落ち着いた。

上から縄が下りる。

胴へ回し、挟まれた脚の位置を確認する。

骨折はなさそうだ。

「引いて!」

三人が縄を引く。

オビトは下から身体を支える。

山羊が窪みを抜け、斜面の上へ引き上げられた。

最後にオビト自身が地面を蹴り、岩を足場に上へ戻る。

着地したところで、シンがまじまじと見た。

「本当に五歳?」

「今日二回目だな、それ」

「いや、だって」

「年齢は変わらない」

ナツメが山羊の脚を見ながら、少し笑った。

「でも、助かったわ」

「山羊がな」

オビトが答えると、トキオの目がわずかに細くなった。

前へ出たが、命令を無視したわけではない。

状況を見て提案し、許可を取り、自分の体格を利点へ変えた。

報告にあったとおり、判断が早い。

一方で、自分ならできるという前提が強い。

そこは注意が必要だった。

昼過ぎ。

里へ戻る途中、今度は道端で荷車が横倒しになっていた。

商人らしい老人が一人で荷を戻そうとしている。

トキオは依頼外だと一度通り過ぎかけた。

オビトの足が止まる。

「班長」

「任務外だ」

「帰還時刻には間に合います」

「予定外の行動を増やせば、次も増える」

「五分です」

即答だった。

トキオは老人を見る。

荷の中身は陶器。

割れたものもある。

一人で起こせば、さらに壊す可能性が高い。

「三分だ」

「十分」

「増やすな」

結局、四人で手を貸した。

荷車を起こし、割れていない品を積み直し、壊れた車軸を応急処置する。

オビトは老人へ水を渡しながら、怪我がないか確認していた。

「手、見せて」

「これくらい平気じゃよ」

「平気な人は血ぃ出してない」

布を巻き、きつすぎないよう結ぶ。

その手際を、ナツメが隣で見ていた。

「慣れてるの?」

「祖母ちゃんと暮らしてるから、こういうのは割と」

答えは自然だった。

だが、傷の確認や布の巻き方は、家庭の手伝いだけで身につくものより明らかに手慣れている。

また一つ、説明のつかない部分が増えた。

依頼をすべて終え、火影塔へ戻った頃には夕方だった。

初任務としては、何事もなく終わった。

少なくとも、表面上は。

報告書を書く段階で、固定班ではない配属のやりにくさがはっきりした。

互いの得意分野を知らない。

合図も共有していない。

どこまで任せてよいか判断しづらい。

オビトが提案するたび、トキオは一度能力を測り直さなければならなかった。

反対に、利点もあった。

オビトは初対面の相手をよく見ていた。

指揮官が何を優先するか。

班員同士がどう役割を分けるか。

誰が慎重で、誰が前へ出やすいか。

一日の中で拾えるものは多い。

シンもナツメも、任務が終わる頃には最初ほどオビトを子ども扱いしていなかった。

ただし。

別れ際、シンは最後まで首を傾げていた。

「五歳なんだよな」

「三回目」

「分かってるけど、確認したくなる」

「そのうち慣れる」

「慣れるかなあ」

ナツメが笑った。

「次に同じ班へ入ることがあれば、その時は最初から戦力として見るわ」

「それは助かる」

オビトは短く答えた。

この距離感は悪くない。

固定班のような深い結びつきは、すぐにはできない。

だが、任務ごとに少しずつ繋がる。

そういう関係もある。

火影室へ届けられた最初の報告には、いくつもの所見が記された。

指示への理解は早い。

状況判断に優れる。

独断ではなく提案を挟む。

人命や依頼人の安全を優先する傾向が強い。

任務外の困窮者にも手を伸ばす。

ただし、自己判断で危険へ入る可能性があるため、指揮官側の明確な線引きが必要。

ヒルゼンは報告を読み、静かに頷いた。

一方。

フガクのもとにも、オビトが複数の班へ臨時参加しているという話は届いていた。

一族の子として、どこまで火影側へ任せるべきか。

任務の選定は適切か。

異なる班を渡り歩くことで、一族との距離が薄れないか。

上層部には懸念がある。

フガク自身も、何も考えていないわけではない。

だが、先日の組手で見た少年は、囲われて伸びる類いではなかった。

一族の力として縛れば、かえって離れる。

必要なのは監視ではなく、繋がりを切らさないことだ。

「報告だけは上げさせろ」

フガクは側近へ告げた。

「任務内容ではない。本人の状態を確認できればよい」

一族の子として守る。

だが、一族の都合で進路を奪わない。

その線を、フガクは崩さなかった。

ダンゾウは、別の角度から同じ少年を見ていた。

複数の班へ入り、様々な任務へ出る。

人助けへ動く性質。

指揮官の指示を尊重しながらも、必要なら提案する判断力。

使える。

ただし、命令だけで動く駒ではない。

自ら納得しなければ、決して深くは従わない。

ならば、納得する理由を用意すればよい。

根の監視は、表へ出ず続いた。

そしてミナトもまた、任務報告の中にオビトの名を見つけるたび、自然と目を留めるようになっていた。

一楽で会った少年。

演習場で、見えない相手と戦っていた子ども。

妙に落ち着き、人懐っこく、時折ひどく動揺する。

報告書に書かれた姿は、あの時受けた印象とよく似ていた。

助けられる相手を見つければ、放っておかない。

一人で片づけるのではなく、必要なら班へ提案する。

無謀ではない。

だが、危険へ入ることへの抵抗は薄い。

ミナトは報告書を閉じた。

一度、任務で直接見てみたい。

そう思う回数が、少しずつ増えていた。

何だかんだと、日常は過ぎていった。

オビトは固定されないまま、様々な班へ入った。

荷運び。

護衛。

捜索。

里内警戒。

修繕。

農作業。

伝令。

迷子探し。

任務先で困っている人間を見つければ手を貸し、指揮官から勝手に増やすなと注意される。

それでも帰還時刻は守る。

守れない時は先に伝える。

怪我をすれば祖母ちゃんへ報告が行くため、隠すことも難しくなった。

班ごとにやり方は違った。

命令を短く出す者。

理由まで説明する者。

部下へ任せる者。

何も任せない者。

仲間をよく見る者。

成果だけを見る者。

オビトはそのすべてを見た。

時に馴染み。

時に衝突し。

時に二度と入りたくない班へ放り込まれ。

また別の任務で同じ相手と組み、少しだけ互いを理解した。

里の一部では、いつしか妙な呼び名までついた。

何でも屋。

どの班にも入り。

どんな仕事にも顔を出し。

依頼外の面倒まで拾ってくる、小さな下忍。

本人は不本意だった。

だが、否定しきれない。

一年が過ぎた。

オビトは、六歳になった。

そして誕生日を迎えて間もないある日。

また火影室へ呼び出された。

嫌な予感は、もう慣れた。

慣れても当たる時は当たる。

「オビト」

執務机の向こうで、ヒルゼンが穏やかに笑っていた。

「中忍じゃ」

「待って、早い」

即答だった。

ヒルゼンは少しも動じない。

「そうかの」

「そうだろ。俺、下忍になって一年くらいですよね?」

「うむ」

「六歳ですよね?」

「うむ」

「その確認で、何でその顔できるんですか」

火影は平然としている。

机の上には、積み上げられた任務報告書があった。

どれも見覚えがある。

自分が参加した班から提出されたものだろう。

「でも――」

オビトは一度言葉を切った。

否定しきれない理由がある。

「俺、下忍なのに上忍扱いなんだよな。任務が」

最初こそ雑務中心だった。

だが、能力と判断が知られるにつれ、任される内容は変わった。

護衛対象の危険度は上がり。

捜索範囲は広がり。

班が崩れた時には、臨時で指揮を引き受けることもあった。

下忍として参加しているのに、実際には中忍や上忍相当の判断を求められる。

「では、上忍じゃな」

「軽い!」

あまりにも軽い。

世間話の流れで階級を上げるな。

ヒルゼンは楽しそうに笑ったが、その判断自体は軽くなかった。

数日前。

同じ火影室には、コハル、ホムラ、ダンゾウが集まっていた。

机上へ並べられたのは、オビトが一年で積み重ねた任務記録。

参加任務数。

達成率。

負傷者数。

依頼人への対応。

緊急時の判断。

班内での連携。

命令違反の有無。

独断行動の内容と結果。

どれも、年齢という数字を先に見れば信じがたいものだった。

「中忍昇格だと?」

ホムラが書類から顔を上げた。

「まだ六歳だ」

「年齢は承知しておる」

ヒルゼンが答える。

「ならば、なお早い」

コハルも険しい顔をしていた。

「実力だけで階級を上げれば、周囲も本人も持たないよ」

「実力だけではない」

ヒルゼンは一枚の報告書を取り上げた。

任務先で指揮官が負傷。

通信手段が断たれた状況で、オビトが班を分けず、全員を生還させた記録。

次の紙には、依頼人を助けるために命令から外れかけながら、班長へ代案を出し、任務全体を損なわず救助した経緯。

その次には、年上の忍同士が対立した際、双方の目的を整理し、撤退判断へ導いた所見。

「任務結果だけではない。判断力、行動力、視野。どれも下忍の域をとうに越えておる」

「精神面は」

ホムラが問う。

「強すぎる者ほど、折れ方が見えにくい」

ヒルゼンは黙って別の報告を差し出した。

失敗した任務。

救えなかった依頼人。

負傷した仲間。

それらのあとも、オビトは沈まずに済ませたわけではない。

悔やみ。

考え。

次の任務で修正した。

感情を捨てず、なお動く。

「不撓不屈、か」

ホムラが低く呟く。

折れないのではない。

折れても立つ。

その強さは、子どもの無知から来るものではなかった。

ダンゾウが口を開いた。

「ならば上忍へ上げればよい」

コハルが顔を向ける。

「何を言っている」

「任務内容はすでに上忍級だ。中忍へ留める理由はない」

「六歳の子どもだよ」

「階級は年齢ではなく能力で決めるべきだ」

理屈だけなら正しい。

だが、ダンゾウの言葉には別の意図があった。

上忍になれば、単独行動の裁量が増える。

重要任務へ出る機会も増す。

孤立させる状況も作りやすい。

ヒルゼンはそれを見抜いていた。

「上忍にはせぬ」

「なぜだ」

「年齢を考慮する」

ダンゾウの片目が細くなる。

「先ほど、年齢ではなく能力を見ると言ったのはお前ではなかったか」

「能力だけで階級を決めぬとも言った」

ヒルゼンは穏やかに返した。

「中忍ならば、一定の指揮権を持たせつつ、なお上の監督下へ置ける。今のオビトには、それが適切じゃ」

完全に守るための判断でもない。

完全に使うための判断でもない。

力を認め。

責任を与え。

それでも、まだ一人へしない。

最終的に、コハルとホムラは条件つきで同意した。

ダンゾウも表向きは反対しなかった。

そうして決まった昇格だった。

現在。

火影室で話を聞き終えたオビトは、机上の任務報告書を見た。

「上層部は納得してんの?」

「しておる」

「本当に?」

「年齢を考慮して中忍じゃよ」

オビトは数秒、黙った。

「年齢を考慮して?」

嫌なところに引っかかった。

「もう少し年齢が高けりゃ、上忍ってことですか……」

ヒルゼンは答えず、目元を緩める。

「ホッホッホッ!」

「ホッホッホッ!」

オビトも同じ調子で笑った。

次の瞬間、机へ手をつく。

「何だよ、その含み笑い!」

「さて、何のことかの」

「絶対そのつもりだっただろ!」

ヒルゼンは楽しそうに煙管へ手を伸ばした。

オビトは椅子へ座り直し、深く息を吐く。

六歳で中忍。

前々世の自分から考えれば、異常な早さだった。

だが。

ふと、別の話を思い出す。

「そういや、カカシも下忍になったらしいけど」

「うむ」

「何か、同じペースで進んでない?」

前々世では、カカシが先を走っていた。

今世では、自分が先に下忍になった。

だがカカシはすぐに追いついた。

そして今、自分は中忍へ上がる。

このままなら、またカカシが追ってくる。

順番は違う。

速度も違う。

それでも、妙に似た軌道へ戻ろうとしている気がした。

ヒルゼンは煙管を手にしたまま、少年を見た。

「追われるのは嫌か」

オビトは少し考えた。

火影戦のあと、カカシが言った言葉。

すぐ追いつく。

追いつくだけじゃない。超える。

あの目は、本気だった。

「いや」

オビトは口元を緩めた。

「悪くない」

先を走る者がいる。

追う者がいる。

競いながら、互いに進む。

前々世とは違う形で。

今度は、失わないように。

「では、中忍としての最初の任務を――」

「待って。今日から?」

「昇格とはそういうものじゃ」

「誕生日祝いの余韻くらいくれよ!」

「ホッホッホッ」

「また笑って誤魔化した!」

火影室に、六歳の中忍の抗議が響いた。

何でも屋の下忍だった少年は、その日から何でも屋の中忍になった。

変わったようで。

たぶん、やることはあまり変わらない。

困っている者を見つければ手を伸ばし。

任務なら最後までやり遂げ。

その合間に呪霊を祓い。

帰り道で老人に捕まり。

火影へ文句を言う。

ただ一つ違うのは。

これからは、自分だけでなく、誰かの命を預かる立場になるということだった。


〆栞
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