何でも屋

第32話「何でも屋」

最初の任務班が伝えられた時、俺は少しだけ嫌な予感がした。

いや、嫌というより、面倒そうだな、が正確かもしれない。

火影室で聞かされた通り、固定の班ではない。必要に応じて、色々な班へ混ざって任務に出る。つまりその都度、知らない年上の忍たちの中へ一人だけ放り込まれるわけだ。

やりにくいに決まってる。

しかも俺は五歳だ。

見た目だけなら、ほぼ保護対象である。

案の定、最初に顔を合わせた班員たちは揃って微妙な顔をした。

「……本当に来るのか?」
「この子が?」
「いや、話には聞いてたけどよ……」

そんな空気が、隠しきれていない。

年上の忍が三人。いずれも下忍だが、年齢は俺よりずっと上だ。十代に片足をかけたくらいの者、もう少し年を重ねた者、性格も立ち位置もばらばらだが、共通していたのは“やりづらい”と思っていることだった。

そりゃそうだろう。

俺だって逆の立場ならそう思う。

五歳の下忍。
固定班なし。
火影の采配で付けられた変則枠。

怪しいにもほどがある。

「うちはオビトです」

一応、頭を下げる。

挨拶は大事だ。

すると、班長格らしい男が少しだけ眉を寄せたあと、仕方ないという顔で頷いた。

「……まあいい。足を引っ張るなよ」

「できるだけ」

そう返した瞬間、班の空気が少しだけ止まった。

あ、しまった。

その言い方は五歳児にしては落ち着きすぎたかもしれない。けれど今さら取り繕っても遅い。年上の忍たちは一瞬だけ変な顔をしたものの、そこはそれ以上触れずに流してくれた。

最初の任務は、里内とその周辺の細々した雑務だった。

伝令、荷運び、見回り、依頼人との応対、簡単な護衛、ついでに道の整備やら子どもの迷子対応やら、とにかく何でもある。忍の仕事というともっと派手なものを想像したくなるが、里を回しているのはこういう地味な仕事の積み重ねだ。

そして、俺の性分はこういう場面で分かりやすく出た。

荷を持てば、つい年寄りの方を先に見てしまう。
依頼人が困っていれば、用件以外も拾ってしまう。
見回りの途中で危なそうな子どもを見れば、さりげなく道を変える。

「お前、そういうの好きなのか?」

任務の帰り道、年上の一人にそう聞かれた。

好き、なのか。

少し考えてから、俺は肩を竦めた。

「好きっていうか、見えたらやるだけ」

「変なやつ」

「よく言われる」

それに対して、班の連中は呆れたように笑った。

最初の警戒は、そこでほんの少しだけほどけた。

俺が妙に落ち着いていること。
年齢のわりに空気を読むこと。
そして、変なところで手が早いこと。

それらは最初こそ不気味でも、任務を一緒にやれば“使いやすい”に変わる。特に固定班ではない俺にとって、その変化はありがたかった。毎回、一から信用を取るのは面倒だが、仕事を通して覚えてもらえるのは悪くない。

ただ、やりにくさも確かにあった。

固定班ではないということは、気心の知れた連携が積み上がらないということでもある。相手の癖を覚えた頃に別れ、次の班ではまた最初から距離を測る。こっちが少し気を抜いて踏み込みすぎれば、相手が身構える。逆に子ども扱いされすぎると、今度は動きづらい。

だが、利点もあった。

色々なやり方が見える。

年上の忍たちがどう依頼人へ接し、どう判断し、どう失敗をごまかし、どう面倒事を片づけるか。綺麗事だけじゃない現場の呼吸が、固定の一班よりずっと広く入ってくる。火影が言っていた“団体行動、人間関係、絆を学ぶ機会”というやつは、たしかに理屈としては間違っていなかった。

何でも屋みたいだな、と途中で思った。

頼まれれば何でもやる。
誰の班へも混ざる。
どこへでも顔を出す。

下忍というより、便利屋だ。

いや、忍なんて元々そういうものかもしれないけど。

そんなふうに日々を過ごすうち、俺を見る目は少しずつ増えていった。

フガクは、一族の子としての扱いを静かに見定めていた。

外れの家の子。
だが、マヒトの子。
そして、既に五歳の子どもの枠へ収まりきらない動きをする子。

露骨に庇護することはない。だが、一族の中で不自然に押し潰されもせず、かといって変に尖りすぎもしない、その辺りの立ち方を静かに見ている気配があった。

ダンゾウは、使える駒としての価値を見ていた。

根の気配は消えない。

消えないどころか、時々少し濃くなる。家の近く、任務帰り、夜道の隅。直接手を伸ばしてはこないが、監視の質が変わったのは分かる。値踏みだ。今すぐどうこうではなく、どこまで使えるか、どこまで折れるかを測る目。

気分は悪い。

だが、そういう視線が来るのも分かっていた。

ミナトもまた、名だけでなく実際に会った子として、俺を少し気に留めていた。

一楽の夜以降、何度か遠くで視線を感じることがあった。見張られているような嫌な感じではない。ただ、いるな、と分かる。あの柔らかなのに妙に鋭い目が、ふとした時にこっちを拾っている。

面倒だな、と思う反面、不思議と悪くはなかった。

何だかんだと日常は過ぎ――

六歳になりました。

早い。

いや、本当に早い。

気づけば季節がいくつか過ぎていて、固定班のないまま、色々な任務へ混ざり、里の中の大体の顔ぶれと、ついでに大体のお年寄りにも顔を覚えられていた。

六歳の誕生日を迎えて少しした頃、また火影室へ呼ばれた。

もはや嫌な予感しかしない。

「火影様、呼ばれました」

「うむ、入れ」

いつものように中へ入り、椅子へ座る。

ヒルゼンは穏やかな顔で俺を見ていたが、俺は先に言った。

「今度は何ですか」

すると、火影は少しだけ目を細めた。

「中忍じゃ」

待って早い。

思わず口に出しかけたのを、ぎりぎりで飲み込む。

いや、待て待て待て。

早いだろ。

下忍になったのだって、体感ではつい昨日みたいなものだ。いや、さすがにそこまでじゃないけど、感覚としては近い。そのうえ固定班もないまま、あっちへ混ざりこっちへ混ざり、何だかよく分からない立場で何でも屋をしていたら、今度は中忍?

「……早くない?」

結局、言った。

ヒルゼンは悪びれもしない。

「そうかの」

「そうですよ」

俺は額へ手を当てた。

でも、と思う自分もいる。

オビト、下忍なのに上忍扱いなんだよな、任務が。

これは事実だった。

里内雑務だけで終わるならともかく、途中から完全に“この子ならいけるじゃろ”で放り込まれる範囲が広がっていた。判断を任される。危険寄りの現場にも連れていかれる。年上の下忍たちの補佐というより、時々普通に頭数として数えられている。

すると火影が、さらりと言った。

「じゃあ上忍じゃな」

「軽い!」

何だその結論。

いや、確かにそういう流れではあるけど、そんな雑に言うことじゃないだろ!

ヒルゼンは楽しそうに笑った。

その笑い方に、前のやりとりが少し重なる。

火影はそこで、ゆっくりとこれまでを振り返るように言葉を置いた。

うたたねコハル。
水戸門ホムラ。
そしてダンゾウ。

上層部の目。
任務結果。
実力。
判断力。
行動力。
視野。

「報告は十分すぎるほど上がっておる」

穏やかな声だった。

「無茶をせず、だが引くべきでない場では引かぬ。年上と組ませても判断が崩れぬ。依頼人に対する応対も悪くない。面倒事の拾い方は少し過剰じゃがな」

そこは自覚ある。

「強いだけでなく、折れぬ。あれこれ見てきた」

ヒルゼンは少しだけ目を細めた。

「最早、上忍じゃ」

「上層部は納得してんの?」

そこが一番気になった。

火影がどう思うかは分かる。だが、コハルとホムラはともかく、ダンゾウまで含めてそこへ異を唱えないのか。普通に考えて、六歳の昇格を素直に通すとは思いづらい。

ヒルゼンは髭を撫でながら頷いた。

「年齢を考慮して、中忍じゃよ」

俺は数秒黙った。

「……年齢を考慮して?」

「うむ」

「もう少し年齢が高けりゃ、上忍ってことですか……」

「ホッホッホッ!」

「ホッホッホッ!」

思わず真似してしまった。

何だよこの含み笑い!

火影は楽しそうだし、俺は全然楽しくない。いや、昇格自体はありがたいのかもしれないけど、扱いがどんどん人間じゃなくなっていく感じがして怖いんだよ。

でも、そうか、とも思う。

カカシも下忍になったらしい。

聞いた時、少しだけ拍子抜けした。何だかんだ、同じペースに進んでないか、俺たち。前々世と完全に同じではない。けれど、結局あいつはあいつで前へ出てくる。白い牙の息子らしく、俺の背を追うように。

少し安心する。

少し厄介だとも思う。

でも、それでいいのかもしれない。

俺は小さく息を吐いた。

前世の自分を思い出す。小学生で特級レベル。そりゃ五条悟に見つかるのも仕方が無い。今こうして里の中で“年齢を考慮して中忍”とか言われているのも、わりと似た構図だ。

結局、強すぎると面倒が増える。

昔も今も変わらないらしい。

「で、今度は?」

俺は姿勢を正して聞いた。

「中忍になったら、また何でも屋の範囲が広がるんですか」

ヒルゼンは穏やかに頷いた。

「まあ、そうなるの」

うわぁ。

やっぱり。

でももう、そこまで来たら腹は決まっていた。

「……分かりました」

「うむ」

「ただし」

俺は一つ付け加える。

「年齢を考慮して、ちゃんと飯の時間はください」

火影の眉が上がる。

それから、また笑った。

「善処しよう」

絶対あんまり善処しないやつだな、それ。

そう思いながらも、俺は立ち上がって一礼した。

火影室を出たあとの廊下は、妙に静かだった。

六歳。
中忍。

早い。
でも止まらない。

そういう人生なんだろうな、と少しだけ他人事みたいに思った。

ゴーグルの縁へ触れる。

さて、次は何が来る。

どうせまた面倒だ。

でも、まあ。

やるしかないか。

そんなふうに思いながら、俺は廊下の先へ歩き出した。


〆栞
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