知らない街、次の街へ……行く?
「よし、ヒカリ! 早速勝負だ!」
「うん、受けて立つよ!」
コトブキシティを出てすぐ。
道路の真ん中で待ち構えていたジュンとのバトルは速攻で始まった。
私達がソノオ方面からコトブキシティに戻ってきた時に一度会ってるから、本当に目が合った瞬間にバトルが始まったような感じだ。
邪魔にならないよう私が預かっているジュンとヒカリの鞄には、ミオシティに向かうゲートに居たつりびとのおじさんから貰ったボロのつりざおが突き刺してある。
アリマサはコイキングしか釣れないボロのつりざおにぶちぶち言っていたけど、結局ヒカリはジュンのススメもあってボロのつりざおを貰うことに決めた。ヒカリは釣りをしたことが無いから、ボロのつりざおから練習がしたいらしい。
「ムックル、でんこうせっかだ!」
「耐えてレンゲ! たいあたり!」
ジュンとヒカリの手持ちのポケモンは、それぞれ二匹ずつ。
パートナーであるポッチャマとアリマサはモンスターボールの中で自分の出番を待っていて、先陣はコトブキ周辺で仲間になったムックルとレンゲだった。
ポッチャマとアリマサはバトルをしたことがあるけど、ムックルとレンゲにとってはおそらく初めてのバトル。
どちらが勝ってもおかしくない戦いだ。純粋にタイプ相性だけを見ればでんきタイプのレンゲはひこうタイプのムックルに優位だけど、レンゲはまだでんきタイプの技を覚えていないし相手は必ず先制攻撃出来るでんこうせっかを使える。
どうやらレンゲの方がレベルが高そうだから、一度の攻撃でどれだけ相手の体力を削れるかで勝負が決まる。
空中で羽ばたき続けるムックルと最小限の動きだけで迎え撃つレンゲ。持久戦になれば攻撃力の高いレンゲに分があるから、ジュンはレンゲの攻撃力を下げたい筈。ムックルが覚えている技は多分でんこうせっかと、なきごえだ。
「なきごえで攻撃力を下げろ!」
「っ、レンゲ!」
ジュンが指示する技にやっぱりと思いつつ、ヒカリの声にハッとなる。
これは、合図だ。
何となくそう思って急いで耳を塞ぐ。
「ぴきゅく……」
「くるああぁぁああああん!」
ムックルのなきごえに被さるように甲高い音が辺りに響き渡り、空気を引き裂いた。
手加減無しの笑い声より控えめな、けれど相手の動きを鈍らせるには充分な大音量。
ジュンは顔を顰めて膝をつき、ムックルはへろへろとうねるように墜落する。
耳を塞いでいた私も少なくない衝撃を受けこめかみを揉み解し、ヒカリは──強く耳を塞ぎつつも、まっすぐとその場に立っていた。
「たいあたり!」
「きゅう!」
地面に落ちたムックルは、格好の的だ。
動けずにいるその体に、レンゲはこれが最後とでも言うように加速して近付き、思いっ切り全身を叩き付ける。
ぽーんと飛ばされたムックルは受身も取らずに地面を横滑りした。もう少し体力はあったはずだけど、急所に当たったのかもしれない。
ジュンが悔しそうに呟く。
「戦闘不能、か。ありがとな、ムックル」
完全に気絶してしまったムックルをモンスターボールに戻し、ジュンは次のモンスターボールを握り締めた。闘志は消えていない。
「戻って、レンゲ」
まだ充分戦えそうだけど、ヒカリはレンゲをモンスターボールに戻した。
ライバルとの戦い。
きっと今後も、二人の戦いはこの二匹を最後に持ってくるんだろう。
同時にモンスターボールを振り被り、二匹が地面に降り立つのも同時。
「ウッキャー!」
「ポッチャー!」
気合いの入った鳴き声。距離があるから翻訳機からの音は私には届かない。
この可愛らしい声も、成長すれば格好良い雄叫びになるのだろうか。
「アリマサ、ポッチャマに近付いてひっかく!」
「ポッチャマ、ひきつけて思いっ切りはたくだ!」
素早さはアリマサの方が上だ。レンゲとムックルの時と違って、どちらもちょこまかと動いて互いに間合いをはかっている。
攻撃を仕掛け合っては避け、一進一退の戦いが続く。
「やっぱ、強いな……! ポッチャマ、なきごえで攻撃力を下げるんだ!」
「チャ!」
「だったら、こっちはちょうはつよ、アリマサ!」
「キキッ」
隙を見せないよう常に動き回りながら、アリマサは何かをポッチャマに向かって言う。ちょうはつは相手を苛立たせて攻撃技しか使えないようにする技だ。
けれど先にポッチャマのなきごえを食らってしまっているから、アリマサの攻撃力は下げられている。互いに攻撃し合うなら、攻撃力が下げられているアリマサの方が不利。
と、思っていたのは、ジュンだけか。
「攻撃しか出来なくたって、問題無いぜ! ポッチャマ、はたくで畳み掛けろ!」
「……今よ────ひのこ!」
アリマサの目前に迫るポッチャマに吐き出されたのは、小さな火の塊。
小さいといっても、まだ一度も進化していないポッチャマにはそれなりの大きさだ。
アリマサをはたくために前に突き出されていた青い手に、ひのこが降り掛かる。
「っ、チャア!」
水は炎に強い。そうはいっても熱いものは熱いし、ダメージはある。
なきごえで攻撃力を下げられていても、ひのこは特殊技、通常通りのダメージがポッチャマに与えられる。
「くそ、やけどか!」
ひのこを浴びた手を庇うポッチャマは、目に見えて顔色が悪くなっていた。
きっと酷く痛む筈だ。それでも、ポケモンバトルはどちらかが倒れるか負けを認めるまで終わらない。
「ポッチャマ、はたき続けろ!」
ちょうはつを受けているポッチャマは攻撃することしか出来ない。
そして攻撃する度にやけどが痛んで、体力は削られていく。
痛みに気を取られた攻撃では、アリマサに大したダメージはない。
「アリマサ、ひのこ」
「ウッキャ」
手を振り回すポッチャマにひのこが降り、そして、その動きはどんどん鈍くなりやがてゆっくりとポッチャマの体は地面に倒れ込んだ。
「ぽ、ちゃあ……」
まだ戦おうとするように腕が持ち上がったが、当然その手はアリマサには届かない。
勝負有り、だ。
「頑張ったな、ポッチャマ……」
駆け寄ったジュンはポッチャマを抱き上げ一度頭を撫でてからボールに戻した。
ヒカリもアリマサをボールに戻し、二人はその場で見合う。
「オレは、今負けてめちゃくちゃ悔しい!」
「わたしは、勝ててすごく嬉しい」
「悔しいけど、楽しいバトルだった。……でも次は、絶対オレが勝つ! これがオレの最後の負けだからな!」
「いいえ、わたしだって、絶対負けないもの! 今日よりもっともっと強くなって、ジュンに勝つわ!」
同時に二人は片手を挙げた。そのままその手は勢いよく重なりぱぁんっと小気味好い音を立てる。
ハイタッチか。仲が良いことだ。
それで満足したのか二人はにっと笑い合い、今度はバトルの感想を言い始める。内容は……主にバトルでの戦略とレンゲの鳴き声についてだ。
「まだ耳がビリビリしてるぜ……あれ技じゃないんだろ? すげー威力だったな!」
「ね! 今日知ったばかりなんだけど、バトルで使えたらいいなって思って」
あれやこれやと今のバトルについて話し合い、他のトレーナーとのバトルのことも話し出す。二人はまだトレーナーになったばかりで、自分の戦い方はまだ手探りの状態だ。色んなことを知って、これから徐々に自分に合った戦い方を模索していくんだろう。
あのトレーナーはこんな戦い方をした、こんなことがあったけどこうすれば良かった、そんな話をして二人はどうすればポケモンバトルを強くなれるか案を出し合う。
そしてその二人の話の行き着く先は、ジム戦だ。
「やっぱこの先挑むとすれば、ジムリーダーとポケモンリーグだ。ヒカリもそうだろ?」
「うん。旅をするなら、ジムリーダーに認められないといけないしね」
「なら、まず最初はクロガネジムだな。……オレは一旦コトブキのポケセンに戻るけど、ぜってーヒカリより早くジムに勝利してやるかんな!」
話がキリのいい所で終わったのか、ジュンは私が預かっていた鞄を引き取り「じゃあな!」と言うとあっという間にコトブキシティへと走り去ってしまう。
相変わらずせっかちだ。
まぁムックルとポッチャマが戦闘不能状態だから急ぐのは分かるのだけど。
「お疲れ、ヒカリ。一度ポケモンセンターに戻る?」
「んー……、ううん、そのままクロガネに行こう! アリマサもレンゲも戦闘不能にはなってないから、キズぐすり使えば大丈夫、だよね?」
「おう」
「そんなに体力減ってないしね」
ヒカリの問い掛けに、ぽぽんと音を立ててボールから出てきた二匹は答える。
見た感じ擦り傷ぐらいしか傷は無さそうだ。
「くれぐれも無茶はしないように。……あ、でも取り敢えずこの辺で十分ぐらい休憩してく? ジュンとのバトル結構盛り上がってたみたいだから、クールダウンも必要だと思うよ」
「じゃあ、十分だけ……」
その辺りにあった石に腰掛けて、私は切り株に腰掛けたヒカリに水筒を手渡す。アリマサにはコップを、レンゲには深皿を渡せば、何も言わずともヒカリは渡した水筒から二匹に水を注いで、自分も水筒に口をつけて水分補給をする。
水分補給は大事だ。私もヒカリもずっと引き篭ってきて一日に何度も水分補給する習慣が無いから、放っておいたら一日何も飲まずなんてことも有り得る。気付いた時に少しでも水分補給する癖をつけなければ。
そうして一息ついて、ヒカリがアリマサとレンゲと戦略について話し合っているのをぼんやりと横目で見ていると、視界の端をひよこ頭が凄い勢いで過ぎっていった。
どうやら全力で走って行ったようだけど……こんな所から走って体力は続くんだろうか。
ヒカリ達は気付いていない。気付いていたら追い付こうとするかもしれないから、私は一瞬で通り過ぎていったひよこ頭のことは気付いていないフリをすることにする。
なんせこちらは元引き篭もり。ここで無茶をすれば簡単に潰れるのが目に見えている。
「……よし、そろそろ行こっか」
「そうだねー、まだ時間はあるし、のんびり行こうねー」
「? うん、そう、だね?」
私の態度に不思議そうに首を傾げるヒカリに苦笑いを返し、私はその場で大きく背伸びをした。
ぱきりと音を立てる関節。運動不足が辛い。
ライバルがせっかちだからとヒカリまで忙しく旅を進めようとしないよう、強く祈るばかりだ。
祈る相手なんてこれっぽっちも思い浮かばないけど。
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