トラウマは意外と近くにある
夜。
顔の痛みで私は目を覚ました。いつ来るかと冷や冷やしつつ、覚悟はしていたから驚きはしない。口を開こうとすると引き攣る頬に顔を顰めようとして、余計痛むことに気付いて無表情を作る。
表情筋の筋肉痛。
引き篭っていた間、何をしても楽しくなかった。全てが遠くて感情が動くことも無く、当然のように表情を変えることも無かった。
今日一日でどれだけ表情を動かしただろう。数年間固まりっぱなしだった表情筋が悲鳴をあげるのは必然だった。
むにむにと頬を揉みながら、二段ベッドの下段を覗き込む。規則正しい寝息が二つ。丸まって眠る一人と一匹はそっくりなシルエットで、思わず笑いそうになってしまう。
トレーナーとパートナー。出会って間もないのにもうこんなに仲良くなるなんて。いや、惹かれ合うものがあったからこそパートナーとなったのか。
私が昔夢見た形がそこにある。
少なからず思うところがあると思っていたのに、想像以上に私の心は凪いでいた。感情の揺らぎが少ない。昔憧れて求めて、結局諦めた理想が他人のものとして目の前にあるのにこれっぽっちも妬ましいと思えない。
おかしな気分だ。まるで感情だけどこかに行ってしまったような。
ひとしきり頬を揉んで再びベッドに横になる。
羨ましくない。私もポケモントレーナーとしてポケモンと旅に出たいなんて、もう思っていない。
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