「おーい、オヤジが戻ったぞ!」
「オヤジ〜おかえりなさい!」


港の酒場で酒を煽ってきたのか、頬を染めて上機嫌な様子で船に戻った船員達は飲み足りないのか食堂でさらに酒を煽る者や、静かに床に着く者、甲板で夜風にあたって酔いを覚ます者など各々の時間を過ごしていた。


甲板で過ごしていた船員が、街の方から船に向かってくる1人の大男の姿を捉えて男の帰還を周囲に知らせると、甲板にいる他の者達も皆で船の外に身を乗り出して大きく手を振ってその男を迎え入れる。


「お、オヤジが戻ったみてーだ」


エースも例に漏れずその声に反応すると、名前を膝から抱き上げると立ち上がってその男の帰りを迎え入れるように船から身を乗り出した。


船員達からオヤジと呼ばれるその男は、名前がこれまでに見た事がないほど大きな体に、船のマストに括られた海賊旗のドクロと同じような立派な髭を携えた高齢の男性だった。


「お前らぁ、まだ起きてたか。戻ったぞ」


のしのしと船に戻った男も他の船員同様酒を飲んできたのだろう、グララララと豪快に笑うその姿はどこか上機嫌に見える。
甲板に置かれたやけに大きな1人掛けのソファに深く腰掛けると、エースは名前を連れて男の前に立つ。


「なぁオヤジ」
「おお、どうした、エース」
「こいつ、飼ってもいいか?」


いいだろ?そう言って今日1番の笑顔で笑うエース。


「(え、え…)」


先程まで他の船員達に聞いていたのと同じ様にその男にも名前の存在を知っているのかと尋ねるのだとばかり思っていたら、突発的なエースの発言に名前はパチクリと大きな瞳で瞬きをする。


「グララララ、なんだぁ、いきなり」
「さっき食糧庫で見つけたんだよ。みんなに聞いても誰も知らないって言うもんだからよ、俺が飼ってもいいだろ?なぁオヤジ」
「子供が面倒見れんのか?エースよ」
「さっきマルコにも同じ事言われたさ。でも大丈夫だ、猫の扱いは慣れてんだ」
「そうか、海賊旗に猫ってのもまぁ乙じゃあねぇか。昔から船に猫は付き物だしな、まぁ好きにしたらいい」


グララララ、特徴的な笑い方で豪快に笑うその大男は、見た目だけでなくその器も大きいようだ。
猫の姿をしているんだから当たり前ではあるが、名前の意思など確認すらされる事もなく、とんとん拍子で2人の間で話が進んで、どうやら名前は勝手にこの船に乗ることで話が纏まってしまったらしい。


「よかったな!これでお前も今日から俺らの家族だ」


そう言って名前の頭を撫でるエースの手は、やっぱり温かかった。



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