「エース、それはどういうことだよい」
エースが言う通り、2人が甲板に出て少しすると船員達が少しずつ船に戻ってきた。
その中で1人、特徴的な口調と髪型の男が、甲板にあぐらをかいて座り込むエースの膝に見慣れぬ物体が鎮座している事に気がつき真っ先に声をかけてきた。
「おう、マルコ。こいつはさっき食糧庫にいたんだよ」
「食糧庫?どっから入り込んだんだよい」
「それがわかんなくてな、戻ってきた奴らに聞いてみようと思ってんだ」
マルコと呼ばれたその男は、少し怪訝な顔をしながらもやれやれと言った感じでエースと名前の事を交互に見つめる。
「…自分の事も満足にできない子供が変な気起こすんでないよい」
そう言ってため息を一つ吐くと、もう寝るよい、と言って手のひらをひらひらと振りながら船内に消えていった。
「余計なお世話だってーのな。それにこれでも俺、猫の扱いは慣れてるんだぜ」
マルコに言われた事を気にも留めていなさそうなエースはそう言って、昔自分が率いていた海賊船にコタツという名の大きな猫が乗っていた事を話してくれた。
体温が高いエースは猫にとって心地が良いらしく、コタツは大変懐いていたらしい。
なるほどたしかに、言われてみたらエースの身体はやけに暖かいし、膝もなんだか眠たくなる様な不思議な心地よさがあると名前も感じていた。
そうこうしているうちに、続々と船員達が船に戻ってくる。
エースの前を通るたびにこちらに気付いて話しかけてくる者や、エースからこの猫を知らないかと声をかけてみるが、当然自ら忍び込んだ名前を
知っている船員はいるはずがない。
「お前本当にどこから来たんだ?」
そう言って不思議そうに笑うエースに、名前の胸はチクリと痛む。
名前がこの船に忍び込んでから、かれこれまあまあな時間が経過していることは明白だった。
今日みたいに何隻も船が停泊している日には、きっと娼館にも絶えず客足が向いているだろう。
今頃名前がいない事に主人が気付いて憤慨しているかもしれない。
つい先程までは早くこの場から帰らないとと考えていたのに、仕事や主人の事を思うと名前は大変憂鬱だった。
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