「…というわけだ」
「は、はぁ…なるほど。ええっと、」
「あーまぁ一気に話されてもそりゃそうだ、いきなりはいそうですか、とはならねぇよな普通」


エースが言うにはこうだ。


朝方尿意で目が覚めたエースの横にはまだ猫の姿だった名前が眠っていて、起こさないようにベッドを出てトイレを済ませに部屋を後にしたらしい。
トイレを済ませて寝起きの乾いた喉を潤そうと食堂に水を汲みにいくと、そこには朝早くにも関わらず船員達の人だかりができていた。
一体何の騒ぎだと人だかりの中心を覗き込めば、コックが齧り掛けの見慣れない果実を手に犯人探しをしていた、と。


コック曰くそれは、朝食の仕込みをしようと朝方食糧庫に食材をとりに行った際に、食糧庫の隅に齧り掛けの状態で転がっていたらしい。
コックを取り巻く船員達は皆勿論、その見慣れぬ果実の正体を知っていた。


その果実は悪魔の実というらしい。
食べた物は悪魔に魂を売る代わりに人間離れした能力を手にすることができる。
そのかわり、海に嫌われ一生を金槌で終える事になるという代物。
そしてその実はこの世に一つとして同じ物はなく大変貴重なものであること。
この船では掟として、その実を見つけたものが口にする権利があること。
そのため一体この実を口にし力を手にしたのは誰なのだろうかと船員達の中ではざわついていたのだった。
 

「その実は恐らくネコネコの実だよい」


ざわつく船員達の中、声を上げたのはマルコだった。
船医であるマルコは幅広い知識を要しており、それは悪魔の実に関する知識も同様であった。
マルコ曰くその実はネコネコの実といい、名前の通りネコになれる能力を得られる代物らしい。
ネコネコの実には複数のモデルがあり、中にはヒョウなどネコ科の中でも獰猛で大幅に身体能力が上がる、海賊としては垂涎物のモデルも存在するのだという。


「これはその中でも1番…」


コックの手から齧り掛けの果実を手に取り、眼鏡をかけた顔を近づけまじまじとその実を観察するマルコに、周囲に集まった船員達がゴクリと唾を飲み込む。


「弱いモデルだよい。弱いどころかほとんど意味がない…"ただの猫"になる実だよい」


マルコの発言に前のめりになりながら真剣に耳を傾けていた船員達が、ずこっ、と効果音が鳴りそうなほど揃って体制を崩す。
そして食堂にどっと響く笑い声。


「なんだよマルコ、ただの猫って」
「おいおい、誰が猫ちゃんになっちまったんだ?」


期待して損したとでもいうように、わかりやすくため息をこぼす者やヤジを入れる者。
そいつに今度の宴の余興でもやらせるかと一瞬盛り上がったものの、すっかりわかりやすく興味をなくした船員達は、朝食まで二度寝でもするかと食堂を後にしていく。


しかし、その場に残されたエースにはコックとマルコの発言にいくつかの思い当たるワードがあった。

食糧庫


その2つのワードに昨夜の出来事を思い浮かべもしや、とハッとする。
そうとなれば確認しなくては、エースはそう思い立ち、食堂に本来立ち寄った用事である水とミルクを手早く用意すると、足早に自室へと急いだのだった。 



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