「まあそういうわけで部屋に戻ってきたら、ミルクの代わりにお前さんがいて疑惑が確信に変わったってわけだ」
「なるほど…」
「まぁまさか見知らぬ女の子だったのはちっと予想外だったが…」


俺ぁてっきり船員の誰かと狭いベッドで一晩越しちまったかと思ってたもんでな、と笑うエース。
それだけは勘弁だとカラカラと笑うその様子からは本当に安堵の様子しか感じられず、疑問に思った名前はエースに問いかける。


「あ、あの」
「ん、なんだ?」
「その…どうして他所者の私がこの船にいたのか、とか…」
「あぁ、そんなことか」


あらかた見当はつく、そう言うエースは昨日の様子と目の前の名前の姿を照らしてこう述べた。


「その身なりなら恐らく孤児か似たようなもんだろう。それに昨日の食糧庫に落ちてた食糧の詰まったバッグ。てっきり買い出した品かと思ってたが…さてはお前、この船に盗みに入ったな?」
「ゔ…」
「ハハ、お前なんだその蛙が潰れたみてーな声は」


名探偵とでも言えるエースの見事な推理に、図星すぎる名前は罰が悪く思わず目を逸らす。


「…ごめんなさい」
「おー、素直でよろしい」
「その…ありがとうございました、色々と」


名前が顔色を伺うように上目遣いでエースの顔を覗き込みながらぼそぼそと盗みを働いた事への謝罪をすると、エースの大きな掌に優しく頭を撫でられる。


(あったかい…)


昨夜猫の姿で撫でられた時にも感じた温もり。
その優しさに、一杯のミルクと一晩の宿への感謝に自然と謝礼の言葉を口をつく。


「いいってことだ」
「あの、沢山お世話になって申し上げにくいんですが、そろそろ戻らないと」
「え?悪ぃ、お前帰る所があるのか」
「まぁ一応…」


あー、と歯切れが悪く発するエースは頭を掻きながら、大変言いにくそうにこう続ける。


「もう港出ちまったんだよ、この船」と。



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