「ねぇ、パパ」
「どうした、名前」


ざぶん、ざぶん。
今日も静かに小波に揺られて、白鯨の船は次の島に向けて航海の最中。
ここ数日は他の海賊船や海軍との会敵もなく、次の島には少し距離があるようで気候も安定し平和な航海が続いている。
大空の下心地の良い日差しと潮風を浴びながら、甲板に置かれた大きな1人掛けのソファに腰掛けるのはこの船の船長である"オヤジ"こと白ひげ。


と、その大きな膝の上には、彼白ひげが愛娘と可愛がる名前が猫の姿でちょこんと佇んでいる。


時刻は昼下がり。
つい先程食堂で賑やかに昼食を済ませた後、他の船員たちが各々各自の仕事に戻っていくのを見届けて、2人はこのいつもの特等席に腰を落ち着ける。
海の恐ろしさなんてすっかり忘れてしまうほどに、穏やかな日常の1ページ。


「気持ちいいねぇ」
「グララララ、そうだなぁ」
「パパ、今日は具合はどう?」
「ああ、ありがとなぁ、名前。心配いらねぇ、すこぶる調子がいい」
「ふふ、そっかぁ。よかった」


宝石のように輝くアーモンド型の瞳で白ひげの顔を見上げる名前に、白ひげは穏やかなテノールで優しく語りかけながら、名前自身を丸っと包み込んでしまうほどの大きくて温かな掌で、艶やかな皮毛をまるで壊物でも扱うかのように優しく撫でつける。
その心地よさにたまらなくなった名前はコロコロと喉を鳴らす。


「パパのお膝はこの世界できっと1番安全な場所だねぇ」
「グララララ、そりゃあちげえねぇ」


名前はこの親子水入らずの時間がたまらなく好きだった。そして、それは他でもなく白ひげも同様だった。
血縁こそなくとも船員達から「オヤジ」と呼ばれる通り、自身の船に乗る全ての者を平等に我が子として可愛がる白ひげだが、戦闘員としては女性の船員を船に乗せないというポリシーが故に、この船にナースと傘下の一部の古参を除いて女性の船員はいない。
例に漏れず名前も戦闘には加勢しないが、何をするでもなくただそこにいる事を許されている名前の存在は、どうしたって特別な存在と言わざるを得ない。


戦闘員でもなければ医療班でもない。そんな名前が白ひげ海賊団の船に乗ることになったのには、些細な偶然が重なっての経緯があった。



*前次#

back



×○×○