名前を片手で抱きながら男は食堂に移動して灯りをつけた。
すぐ戻るからちょっと待ってろな、と言ってキッチンの方に消えていった男は、片手に大きなジョッキと、もう片手には平たい皿を持って戻ってきた。
「ほれ、お前の分だ」
そう言って床に置かれた白い皿には、皿と同じ色の真っ白なミルクが並々注がれていた。
土壌が悪い島では農耕や畜産もろくにできず、ミルクなんて高価な物はいつぶりに口にするだろうか。
ぴちゃり、慣れない飲み方で皿に口をつけると、人肌程度に温められたミルクが身体に染み渡る。
ふわっと口の中に広がる優しい甘みと男の優しさに名前の心がじんわり暖かくなった。
男は椅子に腰掛けながら、ジョッキに並々注がれた水をさぞ美味そうに喉を鳴らして飲み干していく。
ぷはぁ、と豪快に水を飲み切ると、寝起きで喉が乾いてたもんでな、とまたニカりと歯を見せて笑った。
床でミルクを必死に飲む名前を見守りながら、男はひとりでに話を続けた。
男は名をエースと言うらしい。
この船は名前の予想通り海賊船で、船の大きさに比例して大勢の船員がいること
本来この島には停泊予定はなかったものの、急な嵐で海が荒れて、念の為通りかかったこの島で一晩停泊する事になったこと
そして、島に着くまでうたた寝をしていたエースが目を覚ますともう船員は皆街に繰り出しており、船に1人残されていたこと
とりあえず水でも飲むかと食堂に向かっていたら、食糧庫から物音がして様子を見に行ったら名前を見つけた事などを教えてくれた。
「それにしたって小せえなぁお前は。まだ子猫か」
そろそろ他の船員もぼちぼち戻ってくる頃合いらしい。
それまで一緒に船番でも付き合ってくれと言って、すっかり空になった皿とジョッキを片付けたエースは、再び名前を抱き上げて甲板に出た。
先ほどまで荒れていた海は随分と平穏を取り戻していて、雨雲も遠くへ行ったのか船上に見える夜空は星が瞬いていた。
back
×○×○