夢ならばどれだけよかっただろう。
傑とは高専の同期であり、ライバルであり、恋人であった。
好きだと言ってくれたのは彼からで、最初は傑を友だち以上に見れないと断ったのだが、それでもいいよと何度も何度言われ渋々付き合った。
付き合ってしまってからはあっという間に傑に惹かれた。
いや、自分では気づかなかっただけで本当は最初から彼に惹かれていたのかもしれない。
私が落ち込んでいる時は何も言わずにそばに居てくれたし、欲しい言葉も常にくれた、わたしの頭を撫でる大きな手や、困ったように笑う顔も、悟と一緒にいる時は年相応の幼い一面を見せる所、一緒に居るうちに彼の色々な面を知ってどんどんと彼に惹かれていった。
このままずっと一緒に居て、一緒に歳を重ねて、たまに同期で集まったりして、わたしと悟の馬鹿騒ぎしている所を傑と硝子が呆れながら止めてくれて、結婚して子どもが生まれて幸せに暮らすんだってずっと思ってた。
そんな風に未来を見ていたのはわたしだけだったんだね。傑。ずっとそばにいたのに、苦しんでいた傑に気づかなくて、本当にごめんなさい。
「来るな」
いつもの優しい声色ではなく、突き放すような冷たい低い声でそう言われてわたしは一気に現実に引き戻される。
「なんで、わたしを殺してくれないの」
わたしの言葉に少しだけ傑の顔が強ばった気がした。誰の血かさえ分からないほど血塗れになった傑はわたしを静かに見つめる。
「名前、すまない」
たった一言、小さく呟いて傑は私の前から姿を消した。
ああ、もう二度と会えないならいっそ殺してくれた方が楽だったのに。わたしはその場に膝から崩れ落ちて座り込む。
「こんなに好きにさせておいて、勝手に居なくなるなんてずるいよ…」
わたしの口から出た、かぼそい小さな声は誰にも届かない言葉になって消えていった。
きっと、わたしは彼を一生忘れられないのだろう。