宙くんと夏目くんが今まで以上に生活を変えてくれた。それでもまだどこか足りないのは、やはりつむぎくんなのだろう。同じユニットで活動するという彼ら3人なのに、つむぎくんがいないだけで少し違うんじゃないのかな。とも思ってしまうのは、私の都合だろうか。
見事に振った幼馴染は、未だにこの部屋をノックはしてくれないし潜ってもくれない。姿もない。ドアがノックされるたびに、宙くんが顔を出して夏目くんが少し怒り気味で誰かの手を引いて、その手は頼りなさそうに笑うつむぎくんだったら。だとか思うことはあった。どれもこれも外ればかりで、ひっそり肩を落としてしまう。長すぎると読む気がなくなるだろうから、短く送ったメールでさえ返事がないのだ。ほんとうに嫌われたのだろうか。携帯で音楽を聴いてたら、誰かがノックしてきたのでイヤホンを外して返事をすると嬉しそうに笑っていた。
「部屋に入ったらあいさつします!こんにちは!」
「こんにちは。宙くん。」
「こんにちは。嬉しそうだね」
「今日はですね!スペシャルゲストがいるんです!もうすぐししょ〜が連れてきてくれますよ!」
「…スペシャル?」
怪訝な目線を送ると、肩で息をする夏目くんが一人。棺桶を持っていて…どこから指摘すればいいのか困惑する。いや、ここ病院なんですけども。棺桶ってどこから持ってきたの?真っ黒な棺桶だとか…病院に持ってこられても困る。
「お待たセ。」
「ソラは今来ました!」
「説明ハ?」
「まだです!ししょ〜が連れてくるしか言ってません!」
…夏目くんが連れてきているという時点で、この棺桶の中にいるんだろうけれど、外見的によろしくないんじゃないかなぁ。というか、私の知る限りで、共通の知り合いなんて一人しかいない。それ以外を連れてこられてもお互いにやりにくいし、人を見ている夏目くんだからこそ、この中に入ってる人について頭の端に思い浮かぶと同時に一つたどり着く。
「ちょっと!それって」
「それじゃあ。僕たちから少しはやいプレゼントだヨ。ねぇソラ?」
「雪華さんがハッピーになる魔法をソラたちからプレゼントです。」
そういって棺桶のふたが開かれた。棺桶の中なんて普通は遺体しかないだろうに。ひぃと情けない声が出た。あけられた蓋の中には簀巻きで猿轡までされてるつむぎくんだった…。同室のベットはすべて空でよかった。これだけをみるとかなりひどい絵柄で、はたから見ると私が詰め込んだみたいではないか。つむぎくんから視線を動かすと夏目くんも宙くんも満足そうに笑って、あとはお二人で。なんて意地の悪そうな笑みを浮かべて棺桶からつむぎくんを転がりだして、二人は去ってった。
「……強引すぎるでしょ……夏目くん!宙くん!」
棺桶の中で暴れたのか、眼鏡がずり落ちて暗いところだったのかちょっと泣きそうで、強制的に棺桶から手荒にたたき出された簀巻きと猿轡のつむぎくんと取り残された私。間柄、振った振られた幼馴染。こんな私たちになにをしろというんだ。
飛び出してった二人を追いかけようとベッドから降りたけれども、勢いついたせいか世界がぐるりと回る。べしゃりと効果音が似合うほど地面に崩れ落ちて、自分の調子の悪さを自覚する。大人しくベットに戻るべきなんだろうけれど、この幼馴染をさすがに簀巻きのまま投げっぱなしにはできないので、後ろ手にくくられた部分だけをほどく。縄のようなもので硬く結ばれていたのであきらめてハサミで繊維をちぎっていく。
最後の一つがぷつん。と一つ切ると、まるで私の中の枷さえもぶった切ったようで、私はこの間はごめんね。とこぼした。同時に視界のつむぎくんの腕が一瞬やり場のないように止まる。言葉をせき止めてたものが一つこぼれたら、あとはただ惰性で決壊してこぼれていく。
この部屋をノックするのがつむぎくんじゃなくて悲しかったこと、つむぎくんがこなくなって夏目くんたちが気を回してくれたこと。楽しいけど、やっぱりつむぎくんがいないと足りないんだ。一つ一つこぼす。断ったことに思うことはあるけども、今は何も思っていないから。――私を忘れたっていいんだよ。
そう言いたかったのに、喉に張り付いて言葉が出ない。言いたくはないけど、言わなきゃきっとつむぎくんは来ない。そうでしょう?芯の通った人だから、そういわないとつむぎくんもこれからを歩いていけないんだよね?会えるだけで幸せで、そこに夏目くんも宙くんもいて、私はもっと幸せになれるんだよ。つむぎくんはどうなんだろうね?
「ねぇ、つむぎくん。答えなくていいよ。もう大丈夫。断ったことに関しては、まぁ…うん、納得してるから。」
憎んでなんかいないわ。