「……だ、そうですけど、貴方はそれでいいんです?」
「え……?」
「健気ですよねぇ、きっとそう言わないと貴方が戻ってきてくれないと思っての発言でしょう。ふふふ、愛ですねぇ、Amazing!」
不意につむぎくんではない声が聞こえて、思わず顔をあげる。いつの間にか、つむぎくんがつむぎくんじゃなくなっていた。
え、え?どういうこと?思わず涙も引っ込んでしまって唖然としていれば、はらりと色素の薄い青の長髪が揺れて。それから、カタリと病室の扉が開いた。
「……つむぎ、くん」
扉の奥から出てきたのは確かに私の会いたかったつむぎくんで、じゃあこの棺桶と簀巻きにされていた人は誰だったんだと呆然とする。
っていうか、全然知らない人の前でわんわん泣いてしまって、私、とんでもなく恥ずかしい人だったのでは……?
「はじめまして、片桐雪華さん!私、日々樹渉と申します。以後お見知り置きを!」
「や、意味がわからない……」
「おや、それは心外ですねえ。私は貴女の味方なんですよ?言いたかったことを全部言えて『すっきり』したでしょう?」
ぱちんとウインクをする日々樹……さんに何て言えばいいか分からなくなる。確かに、思っていたことは全部、めちゃくちゃに吐き出してしまったけれど。
「しかし!本物の王子様が来たのなら魔法使いは退散すべきでしょう、私は台本通りにしか動けませんからね」
「……あの、」
「お姫様と王子様の物語はハッピーエンドが主流ですよ、がんばってくださいね」
では!と高らかに告げると、日々樹さんは棺桶やらと一緒に病室を出ていく。
入れ替わり入ってきたつむぎくんに、そっと手をさしのべられた。
「雪華ちゃん、立てますか。無理をしたらだめですよ」
前と変わらない、優しい声。
さっき散々泣いたせいか、涙は出てこなかった。
つむぎくんの手に掴まり立ち上がれば、そのまま腕を引かれ抱きしめられた。
「つむぎくん?……えっと、あの」
「ごめんなさい。全部聞いていたんです。……本当は喜んだらいけないと思うんですけど、やっぱり雪華ちゃんが俺のことを考えてくれるのは嬉しくて……だめですね、ちゃんと雪華ちゃんを手放してあげないといけなかったのに」
「つむぎくん、私……っ」
「好きです」
またつむぎくんに振られるのが嫌で遮ろうとした言葉を更に遮るように伝えられた言葉に、思わず息を飲む。
「俺は昔からずっと、雪華ちゃんが好きなんです。……だから本当はすごく、嬉しかったんですよ」
「じゃあ、なんで……その、」
「アイドルの俺は、雪華ちゃんの隣にずっといることはできません。それは雪華ちゃんを悲しませてしまうと思ったんです」
つむぎくんにしては珍しく、ぽつぽつと話される言葉。アイドルとしてはファンの子も大事です。雪華ちゃんだけを特別扱いできません。それに、恋人にならなくても幼馴染の枠は誰にも取られることがない。だからそれで十分だと、自分の気持ちに蓋をしました。それがいちばん、幸せの総数が多いはずだって。
「でも、違ったんです。俺が本当に欲しかったのは、優先したかったのは雪華ちゃんの幸せでした。雪華ちゃんが幸せじゃないならきっと、俺の判断は間違っていたんですね」
「……つむぎくん」
「やり直すことはできるんでしょうか。俺は、雪華ちゃんの恋人になることはできますか?」
目を合わせて聞いてくるつむぎくんに、またじわりと涙が滲んだ。
そんなの、もちろん決まってる。
もう、貴方しか。