楽しい時間は過ぎるのが早い。本当はもっと一分一秒を愛おしみたいのに、楽しさに心躍らせているうちにあっという間に時間が過ぎていく。
こんな日々のことを幸せっていうんだろうな、と、どこかふわふわした思考で考えていた。

窓の外を白い雪が舞う。冬はあまり好きじゃなかった。寒さは普段より体力を奪うし、空気も乾燥していて体調を崩しやすい。……そういえば、最後に病室を出たのはいつだったっけ、なんてぼんやり考えていると、ノックの後に病室のドアが開いた。

「雪華ちゃん、こんにちは〜」
「つむぎくん!」

いつものように現れたつむぎくんに自然と笑顔になる。体を起こしてつむぎくんを迎えると、つむぎくんはにこにこしながらすぐ傍まで来てくれた。

「つむぎくん、何だかいつもより機嫌良い感じ?」
「あ、ばれました?」
「うん、何か空気がほわっとしてる」
「あはは、雪華ちゃんには隠し事はできませんね」

何を考えているのか分からなかったつむぎくんの些細な違いも気づけるようになったのは、時間の積み重ねのおかげかもしれない。
毎日ずっと一緒にいることはできないけど、それでも、つむぎくんは時間を作って会いに来てくれる。時には夏目くんたちと、時には一人で。つむぎくんが見せてくれる外の世界はいつだってきらきらしていて、つむぎくんの優しさが嬉しくて、なんていうか、とにかく幸せだった。それはそう、叶わないもしもに囚われて俯く余裕もなくなるくらいに。

「今日は、雪華ちゃんにプレゼントを持ってきたんです」
「……今日は誕生日じゃないよ?」
「ちょっと、その話は俺に不利じゃないですか。意地悪はやめてくださいね」
「ふふ、ごめんね?」

なんだかんだ、つむぎくんはちゃんと誕生日プレゼントをくれた。もちろん恋人になってくれた……っていうのもあるけど、誕生日当日にはケーキとお花も持ってきてくれたし、夏目くんや宙くんも一緒にパーティみたいな状態になって、案の定看護師さんに怒られたりした。帰り際に渡された小さな箱の中にはオルゴールが入っていて、彼らの曲が優しく流れるそれは私の大切な宝物になっている。

「でも、じゃあ何のプレゼント?」
「なんでしょう、クリスマスも近いですし、前祝いとかにしておきましょうか」
「ふふ、何それ」
「理由なんてなんでもいいんですよ。雪華ちゃんにプレゼントしたいと思ったので」

手を出してください、とつむぎくんが優しく笑う。
頷いて手を差し出せば、可愛らしくラッピングされた小さな箱をそっと置かれた。

「開けてもいい?」
「はい、どうぞ〜」

華奢なラッピングを剥がすと、中から出てきたのはシンプルな指環だった。
……え?指環?

「つむぎくん、これ」
「雪華ちゃんに渡したいなって思ったんですよ」

待って、指環ってどういうこと?軽くパニックになっている私を知ってか知らずか、つむぎくんはにこにこと笑顔を崩さない。だめだ、視界がぼやける。こんなに幸せでいいんだろうか。

「……勘違いじゃないよね」
「勘違い……って、どういう意味です?」
「だってこんな、つむぎくんから指環を貰うなんて思ってなかったし……」
「これはおまじないです。俺だって、ずっと雪華ちゃんと一緒にいたいですから」

そっとつむぎくんが指環を手に取り、私の左手の薬指に嵌める。嘘みたいにぴったりだった。

「……病める時も健やかなる時も、?」
「それもいいですね。でも、その時にはもっとちゃんとしたのを贈らせてくださいね」
「えっ、じゃあこれはどういう……」
「仮予約、ってことでどうでしょうか」

なにそれ、と言えばまぁいいじゃないですかと言われて笑い合う。
窓の外ではいつの間にか雪が積もっていた。

ランガージュは意味をなさない。




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