どんどん、どんどん、つむぎくんとの時間が増えていく。気がつけば、目を覚ますといつもつむぎくんがいて、おはようございますって笑ってくれる日がほとんどになっていた。
昨日もその前もずっと、つむぎくんがそこにいる気がして、あったかくて、幸せだった。
「つむぎくん、今度はいつライブをやるの?」
「う〜ん、いつでしょうか。夏目くんに確認してみますね」
「今度のライブは、見に行けたらいいなぁ」
そういえば、結局つむぎくんの生のライブは見れていないなぁ、なんて突然思い出した。夏目くんたちは最近見ていない気がするけど、元気だろうか。
「……あれ」
指環がきらりと光って、ふと彼の言葉を思い出す。
「クリスマスが近いので、前祝いとかどうでしょうか」確かにそう言っていた気がする。おかしいな、クリスマスって、いつだった?
「……私、昨日もつむぎくんとお話してたよね」
「雪華ちゃん?」
「その前の日もつむぎくんがいて……毎日、おはようって、」
違う。そうじゃない。
思い出せ。思考を働かせろ。つむぎくんの服はもう制服じゃない。
私は毎日つむぎくんと話なんてしていない。
私がそう思い込んでいただけで、本当は、
「……俺は毎日、雪華ちゃんに会いに来ていますよ」
「そうじゃ、なくて」
「どうしたんですか、雪華ちゃん」
「私、いつから……?毎日ちゃんと起きてるつもり、で、」
きっと現実はそうじゃなかった。
つむぎくんは哀しそうに瞳を曇らせてから、真っ直ぐにこっちを見た。
「半年くらい前から、ですかね。雪華ちゃんの起きる頻度はどんどん少なくなってます」
「そんな……私、全然」
「雪華ちゃんが気づかないように、気をつけていましたから。雪華ちゃんが苦しむ姿なんて見たくなくて……出来ればずっと、気づかないで、幸せなままでいて欲しくて」
でもやっぱり俺はダメですね、そんな表情をさせたかったわけじゃないのに……なんて、つむぎくんが苦笑する。違う、私だってそうだ。つむぎくんにそんな無理をさせたかったわけじゃない。
「つむぎくん」
「はい、どうしましたか?」
別れよう、そう言おうとしたけれど、優しいナッツ色の瞳にその言葉は溶けてしまう。
最期までわがままで、甘えてしまっても、つむぎくんは許してくれる気がして。どうしてもその優しさを手離したくないと、思ってしまったから。
ねぇ、私、つむぎくんさえ居れば他に何もいらないよ。
「……わがままを、言ってもいい?」
「雪華ちゃんのわがままなら喜んでききますよ」
「そっか……ありがとう」
手招きをして、近づいてきたつむぎくんに思い切り抱きつく。
思ったより身体が重くて動かなかったけど、まだ、全身でつむぎくんを感じられる。
「あのね……最期の瞬間まで、一緒にいてくれる?」
「雪華ちゃん」
「それで……私がいなくなったら、今よりもっと幸せになって。つむぎくんのことが、大好きだから……幸せになってくれないと許さない」
「なんと言うか……すごい脅迫ですね」
「約束してくれる?」
「……わかりました。でも、雪華ちゃんも約束してください。」
最期なんてもう言わないで。ずっと笑っていてくれるって。こんな時までやさしいつむぎくんに思わず泣きそうになってしまった。代わりに精一杯の笑みを作る。
「うん……、約束する」
「では指切りげんまんしましょうか」
「……うん」
高校生にもなって指切りげんまんとか、本当につむぎくんは変わらない。約束の歌声すら優しいって何なんだ。なんて無茶苦茶なことを思った。
*****
彼女が眠るように息を引き取ったのは、それからすぐの事だった。
今日もまた病室に向かおうとしてしまう自分に苦笑する。もう、あそこに彼女はいない。明日になればきっと目が覚めるからと自分に言い聞かせて通い詰めた毎日には戻らない。
いけませんね、幸せにならないと許さないって雪華ちゃんとも約束していたのに。
「……」
「っ!?夏目くん、いきなり人を殴るのは良くないです!」
突然の痛みに顔をあげれば、何とも言えない表情の夏目くんが立っていた。
「……文句が言えるなら大丈夫そうだネ、そろそろ準備しなヨ」
「あっ、もうそんな時間なんですね」
「とっくにネ。もたもたしてたら置いていくかラ」
彼女が遂に見に来ることが出来なかったライブの日。夏目くんと宙くんは、彼女のためにと席を用意したらしい。その優しさに嬉しくなって感謝を告げれば、別にセンパイのためじゃないと夏目くんにそっぽを向かれてしまったけれど。
……そうですね。もうここにいない雪華ちゃんにも、幸せを届けましょう。それが俺たちの……Switchの魔法ですから。
いいの、最期まで一緒にいて。