どうせなら生まれて来なければ良かったのに。
なんて、口にしたらきっとみんな悲しんでくれるんだろう台詞が浮かんだ。みんなって誰だろうね、よくわからないけど。上辺だけの優しさなら、最初から要らなかったし、知りたくなかった。

足りない出席日数を埋めるための問題集は増えていくばかりで、1人でこなすにはあまりにも退屈で。学校に行ければ何も理解していなくても教室で過ごすだけで単位を貰えるのに、なんて悪態をついた。どうせこの問題集を解けるようになったって、その先には何も無い。ならばいっそ全て捨てて、好きなように生きてみてもいいんじゃないか、なんて考えて。
例えば、この病室から抜け出して、可愛い服を着て、電車に乗って。夢ノ咲学院に行けるなら、つむぎくんの姿を見ることも出来るかもしれない。ああでもどうせなら、つむぎくんが歌っているところが見たいな。ナツメくんとソラくんに挨拶して、それから――それから。

「……あれ」

おかしいな。視界が滲む。どうしてこんなに苦しいんだろう。
そのまま沈み込みそうな気持ちを一旦切り替えようと問題集を閉じると、不意に扉が開いた。

「雪華ちゃん、こんにちは〜……って、泣いてるんですかっ!?どこか痛むんですか、すぐに看護師さんを」
「……なんでもないから、大丈夫」

こっちが吃驚するくらいに慌てるつむぎくんを見てくすくすと笑う。
つむぎくんが会いに来てくれただけで元気になるなんて、私もゲンキンだ。……そうだ、私はずっとつむぎくんに会いたかった。

「……久しぶり、だね」
「ええと、怒ってます?」
「怒ってはないよ」

寂しくて苦しかっただけ、でもその言葉は口にせず飲み込んだ。ただの幼馴染でしかない私には、つむぎくんを怒る権利も縛る権利もないのだから。

「雪華ちゃん、もうすぐ誕生日でしょう。プレゼントに欲しいものはありますか?」
「欲しいもの……」
「なんでも言ってくださいね。俺に出来る範囲で用意しますから」

健康な身体。普通の生活。欲しいものを挙げたらキリがないくらいだけど、つむぎくんに用意出来るものは思いつかなくて眉を下げる。私の欲しいもので、つむぎくんに用意できるもの。つむぎくん、

「……こいびとがほしい」

恋人、だったら。つむぎくんが恋人になってくれたら、こんなに苦しい思いはしなくていいのかもしれない。そんな思いが声になって出た。

「恋人、ですか〜。雪華ちゃんもそういうのに憧れる年頃なんですね〜」
「……つむぎくんも同い年でしょ」
「それはそうなんですけど、やっぱり小さい頃の雪華ちゃんを知っているので感慨深いと言うか」

つむぎくんは、いつまでも幼馴染離れできなくていけませんね、なんて言って笑う。幼馴染離れしてないのは私の方だよ、とは言えなかった。


***


「……ええと、はじめまして?」
「はじめましテ。キミが「雪華ちゃん」でいいんだよネ?」
「そう、だけど……貴方は?」
「逆先夏目」

久しぶりにつむぎくんと話した翌日、以前見かけた赤い髪の子が私の病室を訪れた。夏目、ということは、つむぎくんの新しいユニットの子だろう。

「その様子だとセンパイから何も聞いてないみたいだネ」
「……センパイって、つむぎくん?」
「そウ。……まったく厄介なことを頼まれたものダ」
「???」

疑問符を浮かべるしか出来ない私に、夏目くんは衝撃の事実を落としていった。
曰く、夏目くんは私の恋人候補としてここへやってきたらしい。どうしてそうなった……ああ、私がこいびとがほしいなんて言ったからか。
悲しいような、苦しいような、なんとも言えない気持ちになる。

「……夏目くん、だっけ」

でもこれが、つむぎくんの気持ちだと言うのなら。彼と過ごすことで、少しでも何かが変わる可能性があるのなら。
夏目くんと恋人になるのも、いいのかもしれない。

誕生日には、両手いっぱいの貴方の愛を。




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