なんでしょう。と柔らかく微笑む。知ってる。この笑みは誰にでも向ける笑みだというのも。誰にでもという美点はある。でも今はそれが欲しいんじゃない。

「…えっと……ね。」

どこから切り出してみよう。さっき背中を押してもらったばかりなのに、どこかやはり心細い。だけど、近くに夏目くんがいるような感じがして、すんと息を吸った。脈拍がいつもよりも早い気がする。それでも言わなきゃいけないという使命感が顔を出している。

「あのね、つむぎくん。前に言った言葉を覚えてる?誕生日に、何が欲しいか。」
「えぇ。覚えてますよ。恋人がほしいって。あれだけ小さくて泣いてた子が。と思うと成長したなぁ。とよく覚えてます。」
「…後半は覚えてなくていいです。」
「そうでしょうか?大事だと思いますよ俺は。小さなころの雪華ちゃんとっても可愛かったですし。」

そこで過去形にしないでほしい。というか、だんだん脱線してる。とりあえず、話し終わるまで黙って。と強く念を押したら、わかりました。と返事とお花が咲くような笑顔でこっちを見ている。なんだか、ちょっと居心地が悪い。人に見られる仕事してるつむぎくんを夏目くんをそういう面で尊敬する。視線を落として、テーブルに自分の手を組んで乗せる。そわそわして親指だけがもどかしく動く。

「話を戻してね。前に恋人がほしいって言ったけど、その恋人が、つむぎくんだといいな…って。」

言葉尻がだんだん消えていく。なんだか反応が怖くて、そちらを向くのが怖い。嫌われたりしたら、生きていく気力自体もなくなっていきそうで怖くて仕方ない。なんとなく見られている気がして視線が重なることも怖くて仕方ない。

「それで、ね。昔から思ってたんだ。どんな時もつむぎくんが気付いてくれたから頑張ってこれた。つむぎくんが何でもないときに気づきたいの。駄目かな…?」
「そうですね。ダメですかね。」

きっぱりとした意思が凶器のように頭を殴り付ける。待って現実が受け入れられない。意味がわからなくて、じっと顔を上げてつむぎくんを見つめる。

「俺はアイドルで、今はファンのものですから。」
「アイドルの青葉つむぎくんは、でしょ?」

私が好きなのはただの幼馴染みである青葉つむぎくんで、アイドルとしては、見ている限り辛そうな姿をしていたのは知ってるから、好きなんじゃない。

「ねぇ、つむぎくん。アイドルをやめるまで、待ってくださいっていう意味は入ってる?」
「そうですねぇ。入れたくはないですけど。それはそうなりますね」
「…つむぎくん。いろいろ待って一から話し合おうか。」

自分がアイドルだという理由を押してる割に、恋人がほしいと望む幼馴染にアイドルを添えようとするんだね。自分の位置をしっかり把握して発言してる?そういうと、つむぎくんは笑ってごまかしたけど。比較的頑固というべきなのか、芯がぶれないというかマイペースなのか、絶対的にぶれないので、がっくりと頭をうなだれる。つむぎくんが、フォローをかけようとするけれども、そのフォローが痛い。

「でも、ありがとうございます。俺を愛してくれて。とっても嬉しいです。」
「…つむぎくん、それが痛いって言ってるんだけどなぁ。」

せっかく夏目くんに背中を押してくれたのに。どう切り口がよかったのだろうかと考えてしまう。変な空気になってしまったこの現場を、つむぎくんが口外しないでいてくれたら平和で終わるんだけどな。というどこか的外れな思考を浮かべながら、視線をそっと落とした。愛されてうれしい。じゃないんだよ。
私はつむぎくんが悲しいだとか、怒りとか、誰かに向けれない感情を抱いているけども、つむぎくんはあいもかわらずの表情で今日はいろいろあるとは思うのでと、私の告白ですら色々と言う言葉にして帰っていった。私は一人残された部屋で、死んでしまうのではないかと言うぐらいに溺れるような涙で窒息してしまいたかった。これを期につむぎくんがこの部屋をノックしなくなるのを恐れて息を殺した。

いつかこの身体朽ち果てるまで




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