センパイに頼まれた面倒事を引き受けたのは、ちょっとした興味だった。
「とってもいい子なんですよ。だから、あの子が傷つく姿は見たくないんです。夏目くんならあの子を傷つけることもないでしょうし」
「それデ、ボクが頷くと思ったノ?ボクにメリットが全く感じられないんだけド」
「もちろん、無理にとは言いません。本人の意思は大事ですしね。でも、夏目くんと雪華ちゃんならきっとすぐに仲良くなれますよ」
だから一度会ってみてくれませんか……なんて無茶苦茶なお願いを聞く気になったのは、単純に、センパイがその子のことを話す表情がいつもと違って見えたからだ。
恐らくセンパイはその子のことが好きなんだろうと、すぐに推察できた。それなのに他の男を紹介しようとしてるなんて普通に考えればおかしいのだが、きっとセンパイは自分がその子に恋愛感情を抱いていることすら認識していないんだろう。
自ら茨の道を行くなんて本当にあきれるが、まぁ一度会うくらいなら問題ないだろうとついていった先で、ボクは更に呆れることになる。
「……キミはセンパイのことが好きなんだネ」
「えっ……と、どうして」
「少し見ていればわかル。まぁ仕方ないかラ、キミが望むなら彼氏役をやってもいいけド」
まさかの両想い。なんで想いあっているのに、こんなややこしいことになっているんだろうと苦笑しながらも、ここまで噛んでしまったからにはせめてハッピーエンドまで見届けてやろうという気持ちになった。まぁセンパイ……つむぎにいさんには世話になってないこともないし、と無理矢理自分を納得させて。
そんなふうに始まった奇妙な関係。
すぐに解決するだろうと思っていた2人の関係はいつまでも平行線で、こっちが痺れを切らすのが先だった。
雪華ちゃんに「魔法」をかける。センパイと違ってすんなりとボクの言葉を飲み込んだ彼女は、ついに想いを口にしたようだった。
病院の廊下は冷たい。白くて温度がない……と感じるのは、病院で働く人たちに失礼だろうか。
冷たい空気を更に冷やすような顔つきで病室から出てきたセンパイに声をかける。
「センパイはさァ、いつまで逃げ続けるつもりなノ?」
「……夏目くん」
ボクの存在に気づかず素通りしようとしていたセンパイが足を止め振り返る。
小さく啜り泣く声は聞こえないふりをして、センパイに話しかけた。
「"もう二度と誰かの特別にはなりたくないとでも思っているのかな。自分の気持ちに嘘をついてまで彼女を遠ざけるのは得策じゃない"」
「どういう意味ですか?俺は別に自分の気持ちに嘘なんて」
「はァ……彼女を傷つけないために自分が傷つけばいいと思ってるのかもしれないけド、それはむしろ逆効果だヨ」
眉を顰めるセンパイにわざとらしく溜息をつく。
「俺は、間違ったことをしたとは思ってません。彼女は優しいから……これ以上の関係になってしまえば、結果的に彼女をより苦しめることになります。今は苦しいかもしれませんけど、今だけです。死ぬまで彼女を苦しめ続けるなんて俺にはできません」
だから、これでよかったんですと笑うセンパイの腹を思い切り殴った。
何も良くないしこんなのは全然ハッピーエンドじゃない。終わりよければ……なんて言葉は全て終わった後に言うもので、まだ物語は途中でしかないはずだ。
「ボクを巻き込んだことを後悔するんだネ。センパイが逃げずに彼女に向き合うまで逃がさないかラ」
「……夏目くん?えっ、ちょっと怖いですよ!?」
センパイのうだうだ言う声を聞きながら、どうしたらこの物語がハッピーエンドに向かうのか頭の中で考える。
ボクは魔法使いだ。自分自身に魔法を使うのは禁忌だけれど、大切な仲間と愛すべき友人のために特別な魔法を振舞おうじゃないか。
逃がさないで。逃げないで。