「おいかけなくていいの?」
「かまわないよ。あれは今日日直だと昨日から言っていたのを忘れてたみたいだからね。」
「今の子、このあたりの子じゃないよね?見覚えがないもの」
「今、僕の家に住まわせてる。」
「あぁ……お母さんから聞いたかも。」
前に言われてた気がするけど、学校で疲れて適当に返答した気がする。うろ覚えをごまかしながら、並んで歩き出してると、ふと彼がそうだったといわんばかりに足を止めた。二歩ほど先進んで足を止めて振り返ると、渡しておこう。とカバンから封筒ぐらいのサイズのものを取り出して私に渡してくれた。受け取って日時と会場だけを目に入れてからカバンのクリアファイルに収めてから、また歩き出した。
「今度、学院でライブを行う。前に来たいと言っていただろう?」
「ありがとう!チケット代って結構するんじゃないの?」
「学院のだから、気にすることはない。」
「また、なにかお返し考えておくね。」
もうすぐ卒業だったよね。しゅーくんは進路どうするの?大学受験?…あんまり就職とかしなさそうだもんねぇ。気楽に聞いてみると、しゅーくんは躊躇いもなく、口を開いてはっきりと言い切った。
「造詣を深めたくて、留学をしようと思っている。」
「そっか。しゅーくんは遠いところに行っちゃうんだね。このあたりの同じ年回りの子もいなくなってきてるから、また寂しくなっちゃうね」
「姉さんは?」
「私?私は就職。しゅーくんみたいにそんな才能もなくて、とりわけ普通の人間だし。普通に生きていくんだよ。」
知ってる子がテレビの向こう側で生きてるって言ってくれるなら嬉しいものだ。黒いランドセルを背負ってすぐのころは私の後ろでおびえてた子が立派に立ってるのがなんだか嬉しい反面どこかさみしさをも覚える。私の知らないしゅーくんが増えていくのがなんだか嫌だなぁ。どこか自分の中の感情が煮詰まってどろりと溶けている感覚を覚える。なんだろう、何故そう思ってしまうのだろうか。
「昔ぼくが姉さんのお婿さんになって姉さんを守る。っていいながらべそかいてたのにね。大きくなっちゃうんだもの。なんだか姉さんはさみしいな。」
「香織姉さん!僕で遊ばないでくれたまえ」
「ごめんね、小さなころの泣き顔かわいかったんだもの。」
「それは頼むから影片の前で言わないでくれないか?」
「……あぁ、さっきの子?後輩の前ではかっこいいお兄さんでありたいのね。」
お兄さん心がやっと芽生えたのねぇ。なんて感慨深く口に出していると、親の仇のような目つきで睨まれたけれども、思い出したようにしゅーくんはそうだ。と咳ばらいをしてから切り替えて、そのライブの日。用心棒を頼んでいるから、それに離れないように。なんてくぎを刺された。