「りゅ……鬼龍。何の用かね」
「用がなきゃ話しかけちゃいけねえのかよ」
「僕は忙しいからね」
手芸部の部室に顔を出せば、斎宮からキッと睨まれた。
だがそれもまあ、慣れたものだ。
顔を顰める斎宮に構わず部屋に入り、ふらふらと棚を物色しながら話を続ける。
「次のライブが控えているから、今日は相手をしている余裕はないよ」
「いつにもまして気合入ってんじゃねぇか」
「そんなことは」
「まあいいさ。それより斎宮おまえ、香織姉さんと付き合いだしたのか?」
「は?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔っていうのはこういうのを言うんだろうな。
珍しい表情が見れて思わず笑いそうになる。
「な、僕と、香織姉さんが?どうしてそんな発想になったのかわかりかねるね。くだらない」
「だってお前ら、最近仲良くバスで登校してるだろ。随分久しぶりに見かけたから最初はわからなかったけどな……ようやく初恋が叶ったってんなら、祝いの一つでもやろうかと思ってよ」
どうなんだ?と問えば、斎宮は裁縫の手を止めてじっと床を睨む。
もしかして違ったのか?結構いい雰囲気に見えてたんだが。
「……香織姉さんは、僕のことなどただの弟にしか思っていないよ」
「初恋は否定しねえんだな」
「っ!別にそういうのではないのだよ!」
指摘してようやく気付いたのか、耳を赤くしてフンっと顔をそむける。
そういう感情的なところは斎宮の愛すべき点でもあると思うが……体裁保つの大変だな、お前。
「俺としちゃあ、斎宮が香織姉さんと幸せになってくれんなら願ったりかなったりなんだけどな。まあ違ったってんなら悪かったよ」
「……鬼龍」
「ん?なんだ」
「一つ、頼まれてくれないかね」
まだ微かに赤い顔の斎宮からの頼みごとは、二つ返事で快諾することにした。
***
斎宮に指定された学院近くの待ち合わせ場所に行けば、バスで見かけたのと変わらない香織姉さんの姿があった。
久しぶりですと声をかければきょとんとされて、何故か自己紹介をする羽目になったのは斎宮の手落ちか、それとも先日の仕返しなのか。
「用心棒って、りゅーくんのことだったんだねぇ。随分大きくなって」
しゅーくんもそうだけど、男の子の成長はあっという間だねぇ、なんて朗らかに笑う姿は、昔の印象とさして変わらない。
懐かしい気持ちになりながら学院への道を歩いた。
香織姉さんとともに受付を済ませて講堂へ入る。
斎宮の――Valkyrieの舞台を客席から見るのは久しぶりだ。
「りゅーくん、ライブの時はこれを振るの?」
「ああ……まあ、周りに合わせてな。ここにスイッチがある」
香織姉さんはライブに来るのは初めてなのか、受付で配られたサイリウムを物珍しそうに眺めている。使い方を教えれば、楽しそうにちかちかと光らせて遊んでいた。
やがて照明が落ちて―――舞台の幕が、上がる。息をのむ音が聞こえた。