「これが、君の作品だろう。随分と書き方を変えたようだ。が、僕にはわかる。」
「……そうだけど。なんで当たってんの?」
「僕が芸術家だからね。」
いや、意味がわかるか。癇癪玉が指さしたタイトルは確かに去年私が書いたものだ。書き方もなにもかも変えたのにどうしてわかるのだろうかと、暑さで鈍い思考を動かしていると、癇癪玉は胸を張ってそのまま言語がどうだとか、どこの表現が悪いとか言い出している。いや、それは聞きたいことじゃない。っていうか、読みたいっていうから渡したのにまさか粗を探し出されるとは思っていなかったので、眉間に皺が入っていく。
「一年前のものにまで粗を出すなって!」
「書き方が悪いといっているのだよ」
「それが粗探しだって言ってんの。」
「粗じゃない、指摘だ」
「一緒じゃん!」
止めろと言えど、癇癪玉は人の弱点を見つけたかのように一つ一つ潰すかの如く粗を出してくる。キャラが悪い、語尾がおかしい。変なところで話を逸らすな。人格否定をうけている気分になってきた。わかった悪かった、学院祭前クラスの出し物と文芸部の出し物で土壇場で作ったものだったんだよ。時間がなかったんだよ!!
「これで、この作品がきみのものだと分かったのだから、先ほどの約束を守ってもらおうか。」
「どうしてわかったんだって。」
思考が単純だからだよ。なんて言われて怒らない奴がいるなら出てきてほしい。っていうか、別の子の部誌を渡せばよかったかもしれないと後悔もした。そもそもあてられると思っていなかったから、ざっくりと返事をしたのだが。舞台の設定だなんてなにをすればいいのだろうか。想像もできない未来に、一瞬目の前が暗くなっていると、呼びかけられて我に返った
「難しくは考えなくていい、今度のライブのバックボーンの原案を考えてもらおうかと思っただけだよ。」
「そんなものいるの?ライブって歌って踊るだけじゃないの?」
「プロットもなく書き出す訳がないだろう。ライブも同じだ。企画書のコピーや必要資料を渡そう。泉本。アイドル科校舎に戻るぞ。」
「……そういうこと。」
癇癪玉は、読み終えた部誌を閉じて机の上に置いて席を立つ。読み終わったら気が済んだようでさっさと来いという目線を投げかけてくるの。自分の広げた原稿たちを片付けてカバンに入れて、部誌を回収して本来置いてあった場所に置きなおす。
「人の文章を読んだんだからなんか感想はないの?」
「…………純粋に楽しくは読めたよ。」
「今の間は何?っていうか楽しくは。って何。言葉ちゃんと使えっていうわりにあんたが使ってないじゃんか!」
あれだけ粗があるのだからそちらが気になった。と簡素に放ち部屋を出ていった。それを追いかけるためにさっさと本を片付けて部室の戸締りを行う。さっさと閉じてアイドル科に向かうための書類もついでに済ませる。後ろから刺すような視線を受けるけれども、これをやらなきゃ入れないんだってば。入る手続きを行っていると、目つきの鋭い眼鏡の先生がまたですか。とあきれていたけれども、文句は後ろに行ってくれ。そんなことが言えなくて所定の手続きを終える。許可証を受け取ってさっさと職員室を出て図書室に向かおうと思ったら、無言でカバンを引っ張られて、強制的に足を止められる。
「何よ。」
「何処に行こうというんだね。」
「図書室でしょう?」
「手芸部部室だよ。ついてくるといい。」
長いスライドがさっさと歩き始める。いや、今申請は図書室に出したんだけど。そう文句を言えど聞く耳持たずにいるので夕焼け色に染まるピンクをにらみながら歩く。原案と言ったが、どんなものなんだろうか。
恨みを込めて女装でもさせてやろうか。だとか恨み辛みの意趣返しの内容を考えながら、夏の終わりがかすかに見える廊下を歩く。もうすぐエアコンも修理されるだろうから、今抱えてる約束さえ終わらせたら、アイドル科の敷地を跨ぐ事なんてないだろうと考えた。
エアコンが壊れて、アイドル科の校舎に行って、癇癪玉の顔面を叩いて、過去の恥辱も見られ、ライブの原案だとか、この一週間もしない数日がとても長いし内容が濃いと改めて痛感した。
「……きみが作ったものは琴線にひかかる」
「はい?何か言った?」
「幻聴でも聞いたんじゃないのか?」
夕日に紛れて心なしか耳がうすら赤い気がするが、それも太陽のせいなのかもしれない。