明日になったら消える魔法



彼女──泉本の原案をもとにセットを組み上げ衣装を仕立てるのは、悪くなかった。
自分一人では生み出せなかっただろう発展、その確かな感触を感じて口角が上がる。

「……すごい」

隣で聞こえた彼女の呟きに、ふんと鼻を鳴らす。

「このくらい当たり前なのだよ。とはいえ、舞台装置だけでは芸術は完成しない。全ての調和が取れてはじめて完成する僕たちのステージを目に焼き付けるといい」
「わかってる」

いつもしかめつらの彼女がどことなく浮足立っているように見えるのはきっと気のせいではないだろう。
関係者席のチケットを渡せば、彼女はきょとんとした表情になった。

「え。これ」
「チケットがなければ座れないだろう。立ち見でもするつもりだったのかね」
「……ああ、そっか、うん。……ありがと」

不器用にはにかんだ表情に心が揺れたのは、きっと気のせいだ。



*****



一通りの演目を終え、控室で一息つく。心地よい倦怠感に浸っていれば、控えめに扉がノックされた。入室を促せば、そこにあったのは彼女の姿。

「突っ立っていないで入ったらどうかね」
「言われなくてもそうする。……、おつかれさま」

随分と殊勝な態度に思わず眉を顰める。どこか気に食わないところでもあったのかと聞けば違うという、ならばその態度は何なんだ。

「……別に、純粋に感動しただけ!」
「ふん、それなら最初からそう言えば良いだろう」
「うるさいな、認めるのも癪だったんだよ」
「原案は貴様が考えたのだから誇りたまえ。そうでないと他の観客にも失礼だ」
「……あっそ」

微かに頬を赤くしてふいと視線をそらした彼女に近づき、低い位置にある頭を優しくなでる。
特段見目が愛らしいわけではないのに庇護欲をそそるのは何故だろうか、なんて考えていたら、思いっきり彼女に睨まれた。

「ちょっと、子ども扱いすんなっ」
「別に子ども扱いしたわけではないのだよ」
「じゃあこの手は何」
「……、」

そういえば何故頭を撫でようなどと思ったのか、自分自身の行動に驚く。少し疲れているのかもしれない。彼女から視線を外せば、一着の衣装が目に入った。

「泉本」
「何」

Valkyrieの今日の衣装と意匠を揃えたシックなドレスは、気づけば作成していたものだ。何故──何故作ったのかなど自分が一番知りたい。だが、作らねばならない気がしたのだ。さもなければ画竜点睛を欠くような心地だったというべきか。
それを手に取り彼女に押し付ける。

「更衣室はあっちだ。せっかくだから君も舞台に立ってみるといい」
「は?」
「あの舞台装置も、明日にはすべてなくなってしまうからね。記念になるだろう」

嬉しそうに輝いた瞳にほっとする。いや、なんでほっとしなければならない?自分で制御できていないややこしい感情が渋滞していることを認識して、頭を抱えたくなった。



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